第51話 康太は迷宮探索をする:その5「エンカウント エネミィ」
扉の中に入っていくパーティ5人、マユ姉ぇとカレンさんが前衛、中間がナナとリタちゃん、最後尾がシンミョウさん。
5人は、ゆっくり暗い迷宮の中に入っていく。
俺は見守る事しかできず、暗闇の中を睨むだけだ。
しかし、シンミョウさんが迷宮内に完全に踏み入った時、変化が起こった。
いきなり正面から弓矢と石がマユ姉ぇ達に目がけて飛んできたのだ。
飛んできた方向には10以上の赤く輝く血走った目と小柄な影が見える。
また左右からも同じく石等がパーティに襲い掛かる。
これは待ち伏せだ、このままでは皆が、ナナやリタちゃんが危ない。
心の中で、カチリと「トリガー」が引かれる。
もう家族は、絶対に失いたくない!
それまで不安に満ちていた俺は、自分が迷宮中で動けないかも知れない事すら忘れ、周囲の僧達の制止を振り払い自動ドアのように独りでに閉まりつつある扉目がけて走った。
右手の三鈷杵を楯モードで起動、韋駄天呪で加速して俺は迷宮内に突進した。
まず俺は、ナナに飛び掛かろうとしていた小鬼を左手籠手からの気弾で弾き飛ばす。
「コウ兄ぃ!」
「おにいちゃん!」
俺はナナやリタちゃんの無事を一瞥で確認後、叫ぶ。
「マユ姉ぇ、俺が攪乱するから全員で一旦後退して!」
そして俺は楯を前にしたまま小鬼の集団に突撃した。
まずは数を減らすためと遠距離攻撃を封じるために固まっている小鬼弓矢兵にシールドバッシュ、そのまま剣に切りかえて吹き飛ばした数匹まとめて切り裂く。
倒した小鬼が塵になるのを確認もせず、即時足を止めず後ろに気弾を撃って牽制しつつ、目の前の小鬼を切る。
その頃には体制を立て直せたマユ姉ぇ達が参戦し、結果無事に小鬼達を撃破した。
「トリガー」が元に戻った俺は、荒い息を整えてマユ姉ぇの方を見る。
「皆、大丈夫? 怪我とかしてない?」
「コウちゃんこそ大丈夫? まだ動ける? 身体どこも痛くない?」
びっくりした様子からまだ復帰しきれていないマユ姉ぇの表情を見て俺は思い出した。
「そういえば男子禁制の効果、あったよね。 ん? 俺いつも以上に動けていたけど?」
ここで俺は迷宮内の男子禁制結界の事を思い出したのだが、俺には何の効果も出ていない。
胸元が暖かいので確認すると、チェーンでつながれたペンダントトップ、ドーナツ型の「次元石」が明るく輝いていた。
思わず俺は迷宮内を見た、だって「石」が前回輝いた時はリタちゃんが裸でこっちに来て、グレーターデーモンと一戦したからだ。
しかし幸い「石」以外はどこも反応が無く、俺は一安心した。
「あら、『石』が結界の効果を打ち消しているのね。 それでなのね、今回コウちゃんが役に立つかもって予感がしていたのは」
マユ姉ぇのカンは良く当たるけど、今回はそれで皆が無事だったのは良かったよ。
「じゃあ、このまま迷宮探索パーティに俺を加えてくれるかな?」
「ええ、喜んで。良いわよね、皆」
「コウ兄ぃ、頼りにしてるよ」
「こうにいちゃん、よろしくね」
「流石、三鈷杵の継承者。良い動きを見せて頂きました。それでは前衛担当を宜しくお願い致します」
「康太様、スゴイですぅ。カレンお姉様もお強いですが、康太様の素早さはお見事ですぅ」
若干一名、方向性がマズイ気がしないでも無いが、まあそこは気にしちゃダメかな。
あえて突っ込むと、リタちゃんやナナの嫉妬が怖いから。
「では、このままフロアーマスターの部屋まで一気に行きますか? 寄り道しなくてはならない事も無いですよね」
戦力が十分なら消耗する前に勝負をつけた方が良いに決まっている。
マップも分かっているなら寄り道をする必要も無いし。
なお、小鬼達が滅んだ後には死体は残っておらず、コインが数十枚散らばっていた。
何故ここまでRPG的にする意味があるのか、俺は迷宮主に今回の意味を聞ける機会が出来たので楽しみだ。
「ええ、もうこのフロアーはボス退治以外の用は無いですからそうしましょう」
カレンさんに同意してもらい、俺達は第1層フロアーボスの住まう部屋へ向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
「この扉の向こうがフロアーボス、小鬼王率いる集団のいるところです」
迷宮入口以降、戦闘といえるものを殆どしないまま俺達はフロアーボスの部屋まで来た。
やはり6人と2人では戦闘の楽さが違うのだろう。
カレンさんは得物の仕込み錫杖を構えて緊張している。
毎回、ここで負けているから緊張するのも当たり前だ。
なお、仕込み錫杖は杖の下3分の1くらいが日本刀型の刃物になっている。
武器分類上、薙刀よりは長巻に近いだろう、いうまでもなく銃刀法違反だけれど迷宮内なら大丈夫……だよね。
シンミョウさんも普通の錫杖を握りしめて緊張している。
そんな二人を見てマユ姉ぇが言う。
「大丈夫よ、この面子ならたぶん一発で勝てるから。じゃあ作戦会議するわよ」
そして話されるマユ姉ぇの大胆な作戦。
「それ確かに決まれば一撃必殺だし、俺がおとりするだけでしょ」
「ボクは賛成だよ、リタちゃんの火力、いやこの場合冷却力なら勝てるね」
「うん、わたしがんばる!」
「真由子お姉さま、確かに効果抜群ですが、そこまで呪文の威力があるんですか?」
「リタさんの魔法頼りですが、もし可能ならスゴイですぅ」
「リタちゃんの魔法の威力はすでに実証済みだから大丈夫よ。後は一発でどれだけ巻き込めるかだけ。そこはコウちゃんの動きしだいかな?」
「ああ、がんばるよ俺。これがタンク役の醍醐味だもの」
PRGでのタンクとは敵からの敵意を貯めて攻撃を自分に集中させる職種。
もともとスピード型かつ防御力が高めの俺にぴったりの役割。
じゃあ、やってみますか。
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