第50話 康太は迷宮探索をする:その4「地獄の門」
玄覚和尚は、話を続ける。
「華蓮尼より説明済みかと思いますが、現在の状況も含めてご説明します」
玄覚和尚は、手元のタブレットを使い説明する。
この辺り、呪術界もハイテク化しているんだね。
パソコンが普及しだしてから呪文の法則性とプログラム言語の類似性が見いだされ、IT機器による呪文詠唱なんてのを考えた作品も多々あるくらい。
「奥ノ院の近郊、この山麓に迷宮の入り口が開口しています。内部構造ですが、入口より50m程進んだ辺りに門と注意事項を明記した石版があります。門以降の構造ですが、華蓮尼達の探索によりある程度のマッピングが出来ています」
玄覚和尚は画面を操作して、迷宮第1層目のマップを表示させた。
おおむね500m四方のマップだ。
このマップの雰囲気って、まるで「魔法使い」のシナリオ1ぽいなぁ。
「迷宮内は第一層では、仕掛け罠は今のところ発見されておらず、小鬼らしきものや骸骨兵等のRPGゲームでいうところの序盤モンスターが確認されています」
まー、えらくゲームチックな設定なのね。
これ作ったヒト、どこかのゲーム参考でノリノリで作ったに違いない。
「第1層モンスター自体の脅威度はそこまで高くはないのですが、数が多いのと連戦になってしまうので、2人での攻略ではフロアーボスの部屋に到着するまでに疲弊してしまい、ボスにやられているのが現状です」
古今東西、数の力には質で戦うのは厳しい。
しかし毎回やられていても無事に帰還出来ているなら、命の心配がない分気楽だね。
「フロアーボスですが、小鬼王、田舎小鬼、小鬼魔術師に通常の小鬼と思われる20体以上の集団が存在しており、毎回囲みこまれたところに遠距離攻撃を喰らって敗北しています」
あら、お約束ではありますが、かなり手ごわい相手。
集団の力を生かしての戦法、これが出来る敵は強い。
「すいません、質問宜しいですか?」
俺は、和尚に気になった点を聞いてみた。
「えらく具体的にモンスターの種族名を言っていますが、どうして分かったのですか?」
「これまたあまりにゲーム的なのですが、各モンスターの頭上にホログラムにて種族名や固体名、それぞれの体力値が表示されるんです」
和尚は呆れた風に言う。
「この迷宮、明らかに作ったヒトが趣味満載で遊んでいませんか?」
俺は正直に思った事を和尚に聞いた。
「おそらくそういう事で、最下層のボスのところに誰かを招き入れる為の罠というか遊戯だと拙僧も思います。しかし無視できないのも事実なので、しょうがなく付き合ってあげているというのが現状なんです」
もしかして他の退魔組織が本気にならないのも、こういう理由なのか?
しかしリアルでMMORPGしなくちゃならんのは、どういう訳なのやら。
最下層のボスに会ったら聞いてみたいよ、たぶん俺は男子禁制だから行けないだろうけど。
「お話は理解できました。では私たちは今日からでも攻略をしたらいいのですか?」
マユ姉ぇの問いに和尚は、
「いえ、遠路はるばる来て頂いてお疲れでしょうから、今日はこちらに宿泊して頂き、明朝からの攻略をお願い致します」
俺達は「裏」本部に併設された宿坊にて、源泉掛け流しの温泉と美味しい精進料理を堪能して明日から迷宮攻略をする事になった。
俺の出番、本当にあるのかなぁ?
◆ ◇ ◆ ◇
翌朝、俺達は迷宮がある山麓まで向かった。
そこは「裏」本部から車で15分程離れたところで、入口周囲には仮設テントが多数設置されており、迷宮攻略の前線基地になっているようだ。
そこで俺達は防具代わりの服を支給された。
一見普通のジャージに見えるが、表生地はケブラー系の防刃繊維、中に衝撃吸収ジェルが薄くだが封入されている。
色は黒地に蛍光色のラインを引いていて、暗闇でもお互いの位置が分かるようになっている。
暗闇でも目立つから奇襲には向かないが、今回暗所にこちらから攻めていく形だから、この方が都合が良いのだろう。
他にはポーチが沢山ついたセラミックプレート入り防弾防刃ベストと防刃手袋、ライト付きスポーツ型ヘルメット、それに前衛用に強化プラスチック製の小手も貸し出されている。
金属鎧ほど重装備では無いけれども、比較的非力な女性や女の子が装備する事を考えればこんな感じになるだろう。
今回俺はたぶん出番が無いだろうけれども、新装備を持ちこんでいる。
それは、手の甲の部分に虎の意匠が掘り込まれた、真っ黒な鎖籠手。
秋山家の納屋「魔窟」から出土(笑)した一品で、軽戦士で盾役をする俺の為にマユ姉ぇが探し出してくれたものだ。
他にも全身鎧の九十九神さんも居たけど流石に重装備すぎるので、今回は秋山家代々の術者に伝わる物を貸してくれた。
効果として純粋に防御力がアップするのと、なんと気弾を撃つことが出来る。
要は、DBの「か○は○波」ごっこグッズ、もしくは「寺育ちのTさん」真似っ子グッズ。
片手撃ちと両手貯め撃ちの両方が出来て、遠距離攻撃力が低い俺にぴったりのものだ。
本来、気弾は武術者や呪術者がすさまじい修行の後、才能がある人が撃てる秘術。
俺レベルでは10年後でもできるかどうか分からない術を簡単に行えるものなので非常にありがたい。
なおマユ姉ぇ、自力で気弾は撃てるけれども「光兼」サンを経由した切断波の方がお好みなんだとか。
◆ ◇ ◆ ◇
装備の他、背嚢に水・携帯食料・簡易治療キットを入れたマユ姉ぇ達は迷宮内に入った。
俺も男子禁制の影響が出ない門までは一緒に入る。
門の手前まで電源ケーブルが多数引き込まれており、照明で明るく照らされている。
ここにも簡易テントが設置されており、複数の僧が待機している。
少し涼しく感じる迷宮内、門の前には例のふざけた文章が書かれた石版がある。
「本当に教科書体フォントで、つい先日機械で掘り込まれたように書かれているなぁ」
「実際に見ると可笑しいわよね。手掘りならいざ知らずどう見ても機械掘りの石版なんだから」
迷宮入り口の門だけれども、重厚な金属製のもの。
彫刻が掘り込まれているけど、これ確かロダンの「地獄の門」。
東京上野の国立西洋美術館に本物があるので、俺も見たことがある。
ただ、迷宮の天井が約5m程と高く、その為「門」も本物よりもずいぶん大きい。
「マユ姉ぇ、『地獄の門』が迷宮入口ってのは、さすがに無いよね」
「もう古代遺跡を装うのよりも見栄え重視だし、これ作ったヒト割と最近の文化に詳しいと思うわ。知識豊富なのは確かだと思うけど」
「『知』制作の迷宮の可能性が、ますます増した気がするね」
「まあ相手の思惑がどうあれ、私たちは攻略するしか無いから行くしかないわね」
マユ姉ぇは苦笑しながら門の前に進む。
「じゃあ、コウちゃん行ってくるわね」
「コウ兄ぃ、お土産待っててね」
「こうにいちゃん、わたしがんばるね」
3人の挨拶に何もできない俺。
「皆、くれぐれも注意して。光兼サン、今回は全員女性ですので守護宜しくお願い致します」
〝某にお任せあれ。女人を守護するのが某の役目なり!〟
今回俺にも素直に答えてくれた光兼さん、本当に頼むよ。
「康太様、私がお姉様達をお守りしますので、ご安心を」
「はい、私達二人でお守りしますぅ」
カレンさん、シンミョウさんもそう言ってくれている。
しかし、俺の中で不安がどんどん大きくなるのはどうしてか。
マユ姉ぇが門扉に手をかけると重い音を立てて自動で扉が開く。
自動ドアなのは良いけど、趣無いような気がするね。
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