第47話 康太は迷宮探索をする:その1「男子禁制の迷宮」
「実は、迷宮攻略なの」
マユ姉ぇからの答えに俺は困惑した。
迷宮なんてものが現代の日本にあること、そしてよりにもよって其処が男子禁制なんてどーいう事だと。
「男子禁制の迷宮なんてゲームですら聞いた事無いよ」
「そうよね、善・中立・悪で入れないフロアーとかがあるゲームはあったけど、男子禁制は聞いた事が無いわよね」
確か「魔術師3」の最終部はそうだったんだっけ?
しかしマユ姉ぇ、案外ゲーム系に詳しいんだよね。
これもマユ姉ぇの謎の一つだ。
「で、その迷宮なんて何処にあるの?」
「最近、『御山』近くで地震があって、その時崩れた山麓から地下遺跡が発見されたそうなの」
そういえば、最近和歌山から九州にかけての中央構造線沿いで地震が多いのはイヤだよね。
南海トラフや東南海地震とかのプレート境界型地震は大体100~150年周期で起こる。
また、日本最大の活断層、中央構造線は約1000年周期で動いているらしく、1596年の慶長伊予地震、近年では2016年の熊本地震等が該当している。
2011年東日本大震災の事もあるし地震大国日本、注意しておいて悪い事は無いよね。
なお、地震と考古学は結構関係ある。
地震で滅んだ集落とか断層、津波跡が発掘で分かる事もあるし、古文書に地震の記録が残っている。
日本人は古代からメモ魔らしく、地震(西暦416年弁恭地震、日本書紀)や超新星(SN1006[西暦1006年に発見された超新星]、SN1054「M1かに星雲」・SN1181、明月記)の記録が残っているくらいだから。
「地震の事は俺も知っているけど、遺跡の話は聞いてないよ。考古学界隈で話題にならないはず無いのに」
「それは、あまりに不味い遺跡だったので『かん口令』が出たらしいの。コウちゃんがリタちゃんを見つけた遺跡でもそうだったでしょ」
「まあ、ありがちだよね。で、その遺跡が迷宮だったと言う事なの?」
「ええ、高野山大学や近郊の大学から発掘隊が結成されて中に入るとそこは石造りのトンネルで行き止まりに大きな扉があったそうなの」
「じゃあ、その扉を開けて大変な事になったと」
「いえ、少し違うのよ。扉の前には石版に書かれた注意書きがあって、そこには凄い事が書かれていたの」
困惑気味のマユ姉ぇが語るその内容に俺は驚愕した。
その注意書きとは、以下の内容を丁寧な事に現代日本語、英語、ラテン語で書かれていたそうだ。
・迷宮内は男子禁制である。
・冒険者パーティは5~6人を推奨する。
・内部には魔物が多数存在する。下層に下がるほど強くなり、倒された魔物は消えてアイテム等を排出する。
・迷宮内で冒険者は死亡しない。体力が0になった時点で正面門に無傷で転送される。
・各階のフロアーマスターがいて、倒せばその階は開放され、男性でも入れるようになる。
・最下層(第五層)にはボスと秘宝が隠されている。
・一ヶ月以内にそれぞれの層が解放されない場合、門が開かれて下層の魔物が上に上がる。
・正面門は半年以内に全フロアー攻略をしないかぎり開放され、内部の魔物が世界に放たれる。
以上、作ったモノが明らかに遊んでいるとしか思えない内容だ。
特に古代遺跡なはずなのに現代日本語、聞くところによると教科書体フォントで掘り込まれた石版というのがあまりにうさんくさすぎて怖い。
「こんな馬鹿げた話、誰も信じないよね」
俺は思わず本音をマユ姉ぇに言った。
「ええ、だから探検隊を男性で召集して突撃したところ、扉は開かなかったそうよ。門を女性に開けてもらって男性が入ってもすぐに力が抜けて戦うどころか歩くのがやっとだったの。そして出てきたモンスターに敗れて無傷で門外へ放り出されちゃったんだって」
「えー、じゃあその馬鹿げた注意書き、全部本当だったんだ」
「だから半年以内に攻略しないと、というのも真実の可能性がある訳なの。そこで女性術師の私に『御山』からの依頼があった訳ね」
話は分かったけど、あまりに作為的な迷宮の構造が納得出来ない。
明らかに特定の女性を招き入れたいという意図が見える。
そう、マユ姉ぇを。
「これ、マユ姉ぇをおびき寄せる罠じゃないの? もしかして逃した悪魔将『知』の仕業?」
悪魔将「騎」事件の折、ナイトの参謀として存在していたのが「知」。
しかし、悪魔将同士の話っぷりからしてお互い好意的ではない感じで、「知」が嫌々ながらとりあえず策を授けていた感じには聞こえていた。
この「知」は今現在ですら何処に居るのかすら把握できていない為、俺達は警戒してはいるのだけれど、その後全く動きを見せる事は一切無かった。
「それも考えられない事はないんだけれども、無視も出来ないから困っているの。実際戦える女性術師は『御山』にもあまりいないし、他の組織でも有力な人がいないそうなの」
拝み屋とか陰陽師、神道系、キリスト教系など多くの退魔組織は存在はするんだけれども、大抵の戦闘型術師は男性が大半で女性は居ても後方支援系が殆どらしい。
「『御山』からは1人から2人は派遣してくれるそうなのだけれども、5人以上推奨なら3人では難しいわ。まさかリタちゃんやナナを戦いには出したくないし」
母親としては当然の考え、幼い娘を戦いの場にはあまり出したくは無いよね。
「うん、リタちゃんやナナを戦いに巻き込みたくは無いよね」
「どっちかというと、それは違うのよ。2人とも、もう十分戦えるし『騎』戦でも戦ったでしょ。2人は学業優先、学校休んでまで戦いに行かせたくないわ」
ありゃ、そうなの?
まあ、リタちゃんは今後自分の星に帰れるなら向こうで戦う必要があるけどね。
そうそう、「騎」が口を滑らせた事で分かったのだけれども、リタちゃんは異世界人では無くて異星人だったんだ。
リタちゃんの故郷は、光でも何百年もかかるくらいとても遠くにあるだろうから、結局地球からは行けないのは異世界と一緒だけれども。
「それならゴールデンウィーク中に勝負をつけるって手があるけど」
俺の提案に、マユ姉ぇはまだ腰が重い。
「そう短期間で終わるのならそれでも良いけど、終わらなければ毎週ダンジョン攻略で和歌山通いなのはどうなのかしら」
交通費は高野山持ちだろうけど、あまりよろしくは無いわな。
「もう少ししたら『御山』からの人が情報を持って尋ねてくるから、それを聞いて決めようと思うの」
まあ、それしかないか。
しかし、俺は今回マユ姉ぇの助けになれないことが悔しかった。
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