第46話 康太は迷宮探索をする:その0「新生活」
俺達が攻略した迷宮のもっとも奥の玉座に座るボスは、黒髪の東欧系ゴスロリ幼女。
「ようこそ、ワシの玉座へコウタ殿。どうでおじゃったかな、このダンジョンは?」
「のじゃ」系幼女とは、また女難増えそうな敵なんですが。
頼むから誰か俺に女難払いのお祓いしてくれませんか?
◆ ◇ ◆ ◇
アークデーモン「騎」を退治したのは、去年の冬。
今は4月桜の季節、俺は大学院2年目となりそろそろ進路を決めなくてはならない時期に来ている。
可能であれば大学に残って研究生活を続けたいのだけれども、こればっかりは俺の一存で決めていいものではない。
学費に関してはアルバイトで稼いでいる分に加えて両親の保険金や遺産もあるのでしばらくは問題は無いだろう。
マユ姉ぇには以前研究生活を続けたいと聞いた事がありその際に、
「コウちゃんの好きにしたら良いわ。後から後悔だけはしないようにね」
とは言ってくれている。
しかし、例の「石」を拾って以降何かと霊的事件にあう事が増えており、「騎」事件以降でも数件の事件を解決している。
もう、俺「こっち」の方で生活しても良い様な気もしているけれど、安定した生活には程遠そう。
まあ、研究生活も安定はしていないか。
大学の研究職員として雇ってもらえるなら一番なんだけれどもね。
吉井教授には相談してみた処、今年の修士論文や他の論文内容次第でいけるかもとの事。
最近、国立大学は独立大学法人になって研究費も削減されている。
なので研究員を雇うのも本人に実績がないと難しいようだ。
研究職での実績と言えば、論文を書いて大きな専門雑誌に掲載されてナンボ。
考古学なら日本考古学協会の「日本考古学」、科学系なら世界の「ネイチャー」「サイエンス」などなど。
名のある雑誌に名前付きで論文発表するのが、研究者としての夢。
俺なんてそこまで望まないから、小さな学会で良いからポスター発表ができるくらいのもの書きたいな。
まずは足元から固めるとしよう。
考古学なんて就職先に、元々大学以外には博物館の研究員や学芸員とかしか無いんだ。
目先のやれる事から片付けますか。
◆ ◇ ◆ ◇
俺の方はこんな感じだけれども、ナナやリタちゃんの方も大分変わった。
ナナは中学2年となり身長も大分伸び、おそらく145cmは超えたと思う。
多分来年までには150cmを越えて、容貌含めてますますマユ姉ぇに近づいていく事だろう。
まあ、「胸」の方は「まだまだ」っぽいけどね。
髪型も子供っぽいツインテールからポニーとかにしたりと色々変えている。
女子から乙女へのイメチェンを狙っての事と思われる。
リタちゃんの良き姉として、俺の彼女候補として、ますますオンナっぽくなっていく事だろう。
しかしながら言動に関しては、殆ど変わっていないのはご愛嬌か。
リタちゃんだけれども、彼女は春から姉と同じ中学校に通うことになった。
一時期、ドイツ語が話せる事からドイツ系のインターナショナルスクールに行こうかという話もあったけれども、リタちゃんの日本語能力の向上とお姉ちゃんと一緒の中学校に行きたいという本人の希望があったからだ。
リタちゃんも大分成長して身長140cmは越えたくらい。
スタイルに関しては、……まあ食生活と適度な運動・睡眠で今後に期待かな。
豊満なエルフってのも最近は「あるある」ネタだろうけれども、俺の中にはどうしても華奢なイメージがあるし、現実リタちゃんの種族はどうやら豊満とは程遠いらしい。
リタちゃん、髪を以前のショートボブから少し伸ばしてミドルボブにしている。
将来的にはナナみたいに長くしたいんだそうな。
エルフ耳を隠すのにも髪が長いほうが楽なのもあるそうだけれど。
今は毎朝姉妹一緒に中学校に通うのがとても楽しいらしい。
実際、タイプが違うセーラ服美少女、長いツインテールの黒髪ボーイッシュ美少女、ミドルボブのプラチナブロンドに翠の目の北欧系エルフ美少女の二人姉妹が仲睦まじく歩いている姿は近所や周囲・学校でも注目の的らしく、兄貴な俺としても鼻高々である。
二人に不埒な「虫」が付かぬよう、今後も警戒が重要だろう。
マユ姉ぇの方も大分変わった。
愛する旦那様、正明さんが海外長期出張から帰ってきて来たからだ。
おかげで俺は母屋に行くのに大分気を使っている。
だって、久方ぶりに愛する夫婦が揃ったのだ、ヤル事やらない訳は無い。
夫婦水入らずを邪魔する程、俺はガキじゃないよ。
それに俺の身近で唯一の「常識人」の正明さんを困らせる気はない。
正直、「アレ」な人々や女難について正明さんに相談したいくらいだもの。
といって修行は辞める訳にも行かず、大学から帰ってからはマユ姉ぇに扱かれる毎日は変わらない。
ナナ達に応援されながら、黒焦げになる「いつもの日常」が続いている。
これが「普通・日常」かと聞かれたら、返答に困るけど。
◆ ◇ ◆ ◇
そんな日常を変える切っ掛けの速達書留がマユ姉ェ宛に来たのは4月後半、ゴールデンウイーク前であった。
その書留は、和歌山県伊都郡高野町、つまり高野山真言宗総本山金剛峰寺からのものだった。
高野山金剛峰寺とは、弘法大師こと空海が起した真言宗の総本山。
そして俺やマユ姉ぇが使う真言密教呪術の総本山でもあるのだ。
社会に対して表向きには普通の仏教寺、四国八十八箇所参りの結願奉納に参るお寺。
だが、その「裏」には大師様が中国から持ち帰り伝えられた真言を使う呪にて退魔行を行う組織が存在する。
俺もマユ姉ぇから高野山退魔組織「裏」については聞いていたし、マユ姉ぇも看護士免許取得後に、しばらく高野山「御山」にて修行をしていたそうだ。
「マユ姉ぇ、高野山からの書留には何が書いてあったの?」
日課の稽古が終わって夕食後(結局、マユ姉ぇの家で食べている俺)のまったりとした時間、ちょうど二人きりだったので俺はマユ姉ぇに聞いてみた。
書留が「裏」から来ていること自体はすでに聞いていたけれども、内容は知らなかったからだ。
「『御山』からの退魔行依頼だったんだけれども、私一人だけじゃどうにもならないから困っているの」
在野ながら凄腕のマユ姉ぇに依頼が来るというのは大変な事案だとは思うけど、一人じゃどうにもならないってどういう事なんだろう?
「俺が手伝える事があるなら何でも手伝うよ。俺も少しは前よりも強くなっているし」
しかし、マユ姉ぇは困った顔を続けている。
「コウちゃんが来てくれたらとても助かるんだけど、コウちゃんオトコノコだよね」
「それどういう意味? 俺は男だよ」
「だからダメなのよ。だって今度の場所は男子禁制なんだもの」
なんじゃそりゃ?
男子禁制の場所の退魔行ってなんだろう?
「それって何処での仕事なの?」
俺の疑問にマユ姉ぇは答えてくれた。
「実は、迷宮攻略なの」
これより第2部新章の開始です。
新たなキャラ「のじゃ」幼女の正体は、そして康太達はどうするのか。
これまで以上の楽しい物語をお届け出来ます様、執筆がんばります。
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