第43話 康太は遺跡発掘を手伝う:その12「悪魔大戦」
「マユ姉ぇ、今だ!」
俺の叫びを聞いたマユ姉ぇは時間をかけて準備していた呪を起動する。
「オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラマニ ハンドマ ジンバラ ハラバリタヤ ウン! 光明真言破地獄曼荼羅!」
マユ姉ぇは、光明真言五色光印を結びながら光明真言を唱える。
すると、俺が立っている場所をほぼ中心に半径30m程、全部の悪魔が入る光の円状結界が形成される。
これこそが「光明真言破地獄曼荼羅」、大日如来のありがたいお力で結界内の邪なるものを破壊する呪。
今回、マユ姉ぇには後方待機してもらい、ナイトが人質を使うまで呪を準備して待ってもらっていた。
だから、ナイトがいつまでたっても人質を使わないので、正直俺達は焦れていた。
まー、グレーターも結界内に呼んでくれたのはラッキーだったかな。
結界内の悪魔憑き人質は苦しみだして倒れ、レッサーデーモンが出てくる。
そのレッサーも、もがき苦しみ、5柱程は燃え上がり塵になった。
グレーターも多大なダメージを受けたようで動きが止まる。
その隙を逃さぬように、俺は三鈷杵から光の剣を生やす。
「オン マリシエイ ソワカ!」
俺は追加で摩利支天の呪を唱える。
摩利支天は、武家に愛された仏で、楠正成や前田利家等に信仰されている。
呪の効能として回避能力向上と刀攻撃を強化する効果がある。
そのおかげで「光の剣」が少し太く、また長くなる。
なお、本来の俺の呪力ではこんなに沢山の呪の重ね掛けるなんてとても出来ない。
「石」と三鈷杵による基礎呪力の底上げがあるから出来るだけ。
マユ姉ぇは「素」で今の俺と同じ事が出来るんだから凄いや。
「うりゃぁ!」
俺は刀身80cm程の光の剣を使い、結界からのダメージで膝を付いているグレーターデーモンの一体を左切り上げ、唐竹(上から下)、喉下への平突きの三連撃で仕留める。
「おのぉれぇぇ!」
ナイトも膝付いて吼えているけど、今は無視。
デーモンの数を減らすのが優先。
次の得物を探すが、もう一匹のグレーターデーモンはナナからの砲撃で消し飛んだ。
「望遠鏡サン、いっけぇぇ!」
ナナや、そのネーミング違うんじゃねぇ?
しかし、その名前どおり望遠鏡サンは正面レンズ口径いっぱいの太いレーザー(?)を放ち、グレーターデーモンを一撃で焼き払った。
おっそろしぃ、とうとう俺ナナに最大火力でも撃ち負けたよ。
まあ、可愛い妹のパワーアップは喜ぶべきだけどね。
と、韋駄天加速状態でムダ思考を1秒した俺は数減らしに目の前でうごめくレッサー共を一刀の元に切り捨てる。
俺が次の敵を探すべく周囲を見晴らすと、吉井教授も参戦していた。
「虎徹(偽)」を振るい、的確に一体ずつレッサーデーモンを倒している。
よし、このまま倒しきれれば、こちらの勝ち。
そう思ったけど、流石はアークデーモン。
ナイトは自分の両手の間に闇を集め、何か呪文を使おうとしているのを俺は見た。
「教授、後退して。ナイトが何かやる!」
「はい!」
俺と教授は一旦結界の外まで下がるが、それと同時にナイトが集めた闇が膨れ上がり結界内を満たすと同時に結界が崩壊した。
「ごめんね、コウちゃん。力技で結界内を汚染して破邪効果を打ち消されちゃったわ」
マユ姉ぇは俺達に謝るが、あれだけの戦果が出れば文句なし。
この時点でマユ姉ぇが一番レッサーを倒しているしね。
「大丈夫だよ、レッサーも半分以上は倒したし、グレーターも全滅。後は俺が前に出るから支援してくれれば戦えるよ」
「じゃあ、私も前衛に出るわ。先生、コウちゃん宜しくね。ナナ、リタちゃん支援お願い」
「うん、お母さん気をつけてね」
「みんな、がんばって!」
「こちらこそ、お願いしますね、真由子君」
「ああ、マユ姉ぇ。いくよ!」
さあ、第2ラウンド、いや3ラウンドかな。
再び戦闘の開始だ。
「おまえら、どれだけ小細工してくるんだよ。僕が満足に戦えないじゃないか!」
ナイトはイラつくように叫ぶけど、こっちは生身の人間。
策無しに戦うほどバカじゃない。
「そりゃそうだよ。人間が悪魔と戦うんだ、打てる手は全部打つに決まっている。ナイト、怯えろや。そして力を全部見せぬまま滅びるがいい」
いやー、このセリフ言ってみたかったんだ。
元ネタのオジサンじゃないけれど、スペックは圧倒的に向こうが上なんだ。
真っ向勝負する必要なんて無いよ、絶対。
「おまえら、人間が僕を馬鹿にするのか。こうなったら本気を出してやる。見てろよ」
ナイトはそういって腰や脚部を変形させる。
これは高速移動か何かしてくる。
しまった、煽りすぎた。
騎士の名の様に突撃をしてくるのでは無いか?
俺は瞬間的にそこまで考えてマユ姉ぇ達に話す。
「アイツ、たぶん突撃攻撃してくるよ。皆注意して」
「あら、そうなの? じゃあ私に任せてね。ナナ、リタちゃん。レッサーさんを全部やっちゃってね」
「りょーかい!」
「うん!」
レッサーデーモンに囲まれて一緒に轢き殺されるのはイヤだ。
だから囲めないように数減らししてくれるのは、非常にありがたい。
「さあ、ナイトくん。オバサンに向かっていらっしゃい。」
そう言って、マユ姉ぇは俺達から斜め方向に離れて前に進む。
あー、マユ姉ぇ。まだ「オバサン」って言われたのを根にもっているよ。
怖ぇぇ。
「じゃあ、自分から死にに来たオバサンから轢き殺してあげるね」
脚部を4脚に変形させ、ケンタウロスみたいになったナイトはそう言った次の瞬間、衝撃波を発生させながらマユ姉ぇに突っ込んだ。
「マユ姉ぇ!!」
「お母さん!」
俺はマユ姉ぇのピンチに大声で叫んでしまった。
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