第40話 康太は遺跡発掘を手伝う:その9「またまた後始末」
さて、どうやって警察やら学校に説明しようかと思った俺だが、助かった事に警察の先頭にいるのは、中村警視。
ラッキー、誤魔化せるとその時は思ったのだが……
◆ ◇ ◆ ◇
「真由子さん、貴方何やっているんですかぁ! 器物破損、不法侵入、未成年への傷害、交通法規違反などなど。違法行為のオンパレードでは無いですかぁ!」
俺達はナナ、リタちゃんを含めて全員揃って警察署の会議室で中村警視に絞られている。
そりゃ、あれだけ派手な破壊行為していたんだ。
取調室に連れ込まれなかっただけでも、中村警視には感謝している。
「そりゃ娘さんが大事なのは分かりますが、門扉やガラスの破壊どうやって責任取ってくれるんですか?」
「ごめんね、中村君。ナナの事がが心配で心配でやったったの」
「それは理解できますよ。でもね、門扉破壊は無いですよ!」
「時間が無かったのよ。実際助けには入れたのギリギリだったし、あの破壊音で注意引けたから間に合ったようだし」
「でもね、破壊していいものじゃないでしょ」
「ええ、だからそれは分かっているの。弁償はしなきゃいけないわよね」
「そうなんですが、どんな方法で破壊されたかが科捜研で分からないという答えが出てしまったんですよ。そりゃ自分は魔法で破壊したというのは知っています。ですが、そんなの公に言えますか? 言えないでしょ。だから困っているんです」
そうか、リタちゃんの光魔法で破壊したから煙硝反応は無いし、鈍器でもないから痕跡が無いんだ。
爆発音と衝撃波が発生しているのに火薬の反応が出ないんじゃ科学捜査している人は困惑するよね。
「ごめんなさい、わたし、こわして」
「いえ、リタちゃんは悪くないですよ、お姉さんを守るためだったのでしょ」
「うん、ありがとう」
中村警視もリタちゃんには甘い。
「ごめんなさい、ボクがナイトから逃げなきゃ被害が大きくならなかったのかも」
「それも違うよ、ナナちゃん。ナナちゃんが逃げ切れたから、あの程度で済んだんだよ。お母さんはナナちゃんを助けるためなら学校ひとつくらい破壊しちゃうから」
中村警視はナナにも優しく話す。
しかし偉く現実味のある説明だ、というかマユ姉ぇは過去に何か仕出かしたのでは?
「もしかしてマユ姉ぇ、過去に派手にやっちゃったんですか?」
「ええ、昔近所の悪ガキが真由子さんの友達の飼い犬を連れだしてしまい、もう少しで交通事故で殺しちゃうところを真由子さんが助けだしたんです。その時の真由子さんの怖かった事ったら。まだ小学生低学年でしたが、それはすさまじかったです」
中村警視は思い出しながら話す。
「悪ガキの家に行ってそこの両親に事態を説明し、両親を土下座するくらいまで問い詰めました。そして当の本人を百鬼夜行呼び出して地獄送り寸前まで追い込んで、精神崩壊寸前で助けて今後誰かを泣かす事をしたら許さないと説教したそうです」
ひぇぇ、悪ガキが全面的に悪いとは言え、そこまでやるか。
しかし、百鬼夜行呼ぶってどうやるんだよ。
「で、その悪ガキは今どうしているんですか?」
「キミの目の前に居ますよ。自分、いや僕なんです。あの頃両親の仲が悪くて僕は荒んでいました。で、ジャイアニズムですか、そういう悪ガキ大将気取っていたのですが、真由子さんにシメられちゃいました。でもそれで良かったんです」
中村警視は遠い目で語る。
「おかげで命の大切さを知りましたし、誰かのために戦う強さも知ったんです。泣きながら幼女がオトナに食って掛るんですよ。ホント、今思い出しても凄いですよ。おかげで仲が悪かった僕の両親も子供に説教されて恥ずかしかったのか、あの後仲直りして家族円満になったんです。だから真由子さんは僕の恩人だし、あの姿に憧れてしまって初恋の人なんです」
うん、良い話ではあるよね。
百鬼夜行が無ければ。
「すいません、中村警視。お尋ねしますがマゾっけあるんですか?」
「うん、それは否定できないね。困ったもんだよ。だから今も真由子さんには頭が上がらないんですよ」
恥ずかしそうに笑う中村警視を見て、俺は嬉しくも恥ずかしいような変な気分になった。
マユ姉ぇ、小さい頃からマユ姉ぇだったんだね。
「中村君、その話はそのくらいにしてくれない。恥ずかしいわ、子供の頃の暴れた話なんて」
珍しく狼狽しながら顔を赤くするマユ姉ぇ、流石にマユ姉ぇでも幼少期の暴れた話は恥ずかしいらしい。
「はい、そうですね。もう昔話ですし」
中村警視は表情を真面目に戻して話す。
「さて、それはそれとして、破壊が行われたのは事実ですが、科学捜査では破壊された方法も犯人も分からない訳です」
「あら、そうなの。じゃあ誰が何で破壊したのか分からないというのが警察の公式発表なのね」
「ええ、困った事にそうなんです。だから真由子さんにお支払い願っても困るんですよ」
「じゃあ、寄付という事ではどうかしら。娘がお世話になっていますし、校庭を車で乗り入れて荒らしたのは事実だし」
まー、それが落とし所かな。
「門扉破壊・ガラス破損については、それで終わらせましょう。次は校庭に乗りつけた件はどう説明するんですか?」
「それは娘からのSOSを聞いて急いで学校へ乗りつけたら、ちょうど門扉が破壊、いや開放されていたので、ちょうど良いと思って乗り付けたの」
おいおい、それ報告書に書いて上が認めると思うの?
「では、そのように供述して下さい」
いいんだ、というか説明が面倒になって投げたな、中村警視。
「次に何かと戦闘していたという目撃情報がありますが、それは何ですか?」
「さあ、私達は誰も武器を持っていなかったし、何か幻でも見ていたのでしょうか?」
あの後、マユ姉ぇの手元を見ると何も持っていなかった。
どうも「光兼」さんの写し身を使って切り裂いたらしく、その写し身を消したら何も所持していない事に出来るらしい。
なお、「光兼」さん本体は車の奥のほうで隠れていたそうな。
俺が持っていたのは銀製の三鈷杵だし、リタちゃんが持っていたのは「おもちゃのステッキ」、ナナもタイルと和バサミだけ。
武器といえるのはせいぜい和バサミだけれども、カバーに入ったままポケットの中にあったでは銃刀法違反で捕まえるのは難しい。
「はいはい、ではそのように説明をお願いします」
「いいの、中村君?」
「いいも悪いも無いんですよ。警察は法で定められた犯罪しか逮捕できませんから。悪魔と魔法対戦やってモノ破壊しましたなんて上に説明できる調書書けますか? 自分、そんなのムリです。だったら真実書かないで済ませるしか無いじゃないですか! これが誰かを殺したとかなら動けますよ。でも、人助けしていましたじゃ、理由も立ちはしないです!」
「ホント、ごめんなさいね。私ついやりすぎる事があるから。後ね、もう少しで人殺ししていたかも知れないの」
「ナイトの事ですか?」
「ええ、トドメをし損ねて逃がしちゃったの」
「その善悪については後にして、彼は強かったのですか?」
「そうね、一対一では負けるかもね。でも、今回は4人がかりで戦えたので楽だったわ。パーティにタンク役とDSP役が居てくれると助かるの」
「そりゃRPGでの話でしょ。現実では違うんじゃないですか?」
へー、中村警視最近のMMOPRGを知っているんだ。
「あのナイト、見た目の外見に精神が引きづられているのか、偉く幼いのよ。だから陽動にも挑発にも簡単に乗ってくれたの。でも今までの行動を考えれば彼が指示を出していたとは思えないわ。別の黒幕なり参謀が居たのでしょう。今は近くにはいないようだけれど」
そうだよね、SNSで指示を出していた用心深いヤツとはかなり違う。
あんなに簡単に挑発に乗るヤツならもっと直接的な行動に走るだろう。
なら、今その参謀なりと合流して作戦を練っているかも。
「なら、マユ姉ぇ。逃がしたのはかなりヤバイんじゃないの」
「そうね、参謀とかが動けば不味いわ。おそらく、私達を直接襲うでしょうね」
「じゃあ、どうするの?」
「そうね、こっちから先に強襲しましょうか。向こうに時間を与えるのはヤバイし、こっちは逃げ場所を知っているんだから」
「え? ナイトのヤツ、何処に逃げたの?」
「おじい様の家でしょ。真っ裸にしてあげたし、逃走するにもお金が必要でしょ。なら泣きつく先なんて一箇所しかないわ」
マユ姉ぇは中村警視の両肩を両手でガバっと押さえた。
「という事で、今から私達は内藤宅を強襲するから見逃してね!」
犯罪行為を今からやりますって、警官に直接言う事なの?
聞かない事にしてくれれば良いけど、聞いちゃったら捕まえるしかなくなるぞ。
「あのね、真由子さん。そういうの冗談だけにしてくださいね。では事情聴取を内藤和也少年にもしなくてはなりませんので、皆様ご同行下さい」
そうか、そういう手で内藤宅に伺う事にすれば良いんだね。
「自分は何も聞いていません。しかし、警察官としてではなく一個人として言います。くれぐれも命をムダにだけはしないで下さい」
「どうもありがとう、中村君!」
そう言ってマユ姉ぇは満面の笑みで中村警視をハグした。
「あわあわぁ」
あら、中村警視ってうぶなのね。
まあしょうがないか、初恋の女性に感謝のハグされて赤面しない男はいない。
それも絶世の美女ならしょうがないね。
この事は正明さんにはナイショにしてあげるね、マユ姉ぇ。
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