第38話 康太は遺跡発掘を手伝う:その7「緊急出動」
ナナが学校で襲われていた頃、俺は大学で資料を纏めていた。
昼食後のまったりとした時間での作業、古墳発掘で集めた写真データが多数あるので分別が大変なのだ。
「教授、この調子だと上の円墳部分だけでどのくらい調査時間がかかりますか?」
「そうですね、あと二月といったところでしょうか」
「それまでに文科省から答え帰ってくると思いますか?」
「いえ、たぶんムリでしょうね。内藤さんが裏で手を廻しているのでは、私にもどうにも出来ませんし。それより内藤さんのお孫さんが黒幕だったのは困りましたね」
俺は今後の事もあって、マユ姉ぇの了解を得て吉井教授には事実を話していた。
「ええ、こっちを威力偵察なんてしてくるんですから油断なりません」
「じゃあ、今もここに監視役が来ているとか」
「いえ、この部屋はマユ姉ぇ特製の結界を張っていますから大丈夫ですよ」
そう言って、俺は窓際に有る小物を撫でた。
アイヌ伝承に出てくるコロボックルを模した木像だけれども、この子も九十九神。
防御と結界能力に優れていて、それを買われて教授の身辺警護をしている。
「流石に私も悪魔には勝てないですからねぇ。人ならなんとかなるんですけど」
「え、それ初耳なんですが、教授」
「私、これでも居合いと剣術の段持ちなんですよ」
細身で穏やかな紳士という外見の吉井教授に、そんな隠し芸があるとは。
「飛び道具持ち出されては勝てませんが、刀使わせてくれるなら真由子君とまではいきませんが人間相手ならそこそこやれると思っています」
なんか、俺の強さランキングどん下がりなんですけど。
「そうなんですか、ハハハ」
俺が乾いた笑いをしている時、俺のスマホから今まで聞いた事が無い警告音が聞こえた。
「すいません、マナーモードのはずなのにナニがあったんでしょうか」
俺はスマホ画面を見て驚いた、ナナからのSOSだ。
いつのまにこんなアプリ仕込まれていたんだ?
マサトの仕業かな?
「教授、すいません。ウチの従妹からのSOSです。申し訳ありませんが……」
「早く助けに言ってあげてください。ナナちゃんを襲ったというのなら、ナイトは本気でしょうから」
「はい!」
俺は「トリガー」が心の中で引かれたのを感じつつ、韋駄天の呪を唱え、マユ姉ぇにも一報を入れてバイクを飛ばしてナナの通う中学校へ向かった。
◆ ◇ ◆ ◇
その頃マユ姉ぇがどうしていたかというと、家で中村警視からナイトについての詳細情報の報告を受けていた。
「中村君、態々ウチに来てもらってごめんなさいね」
マユ姉ぇは、中村警視をもてなすべく、コーヒーとお茶菓子を用意していた。
「いえ、真由子さん。もう警察署で悪魔に襲われるのは勘弁して欲しいですので、安全なこの家で報告をした方が自分も安心ですから」
中村警視は目の前でグレーターデーモンとの戦闘を見せられて怖い思いをしたのがイヤだったそうな。
中村警視は、出されたコーヒーを一口飲み説明を始めた。
「これが内藤和也、ナイトの個人情報です」
中村警視からマユ姉ぇに手渡されたSDメモリーには膨大なデータが収容されていた。
マユ姉ぇは、手持ちのタブレットを操作して情報を閲覧した。
このタブレット、マサト推奨のお値段の割りに性能が良いヤツらしい。
アプリ系なんかも結構いじっているそうな。
「彼は出生からしばらくは普通の男の子だったようです。異常は彼が幼稚園に入ってからだそうで、直前に彼は例の遺跡のある小山で迷子になった事がありました」
中村警視は、続けて説明をする。
「その際警察にも連絡があり、その時の記録が残っています。彼は深夜になって自分から家に帰宅したそうですが、少し様子が変だったので医者に診て貰ったと記録されています」
「じゃあ、その際に遺跡が起動して悪魔と接触した可能性があるのね」
「自分はオカルトには詳しくはないのですが、おそらくは。その後、彼は二重人格的な挙動を行い、そのため何回か小児精神科への通院を行っています」
「私の方の情報もそういう話ね」
この際に悪魔と和也くん本人が主導権争いをしていたんだろうと、俺は後からマユ姉ぇに聞いた。
「その後、彼が小学5年生の時に交通事故にあったとあります。自分からトラックへ当たっていったとトラック運転手からの証言があります」
「つまり悪魔が彼を操って事故を起こしたのね」
「たぶん。その後彼は病院に収容されましたが、脳に多大なダメージを受けており脳死判定を行うかどうかというところまでいっていました。しかし、急に意識を取り戻し、その後は何の後遺症も残さず回復したとあります」
「私の情報筋でその際のCT画像を見せてもらったけれど、脳死状態と判断してもおかしくないものだったわ」
マユ姉ぇの情報網は恐ろしいもので、本来秘匿されるべき患者の個人情報まで仕入れているのだ。
この事を後から聞かされて、俺は更にマユ姉ぇが怖くなった。
「事故1年後に、両親の事故死があって今になる、というのが彼の個人情報です」
「それらを総合すると、幼少期に悪魔に憑依されて、小学生時代に完全に乗っ取られて、今は悪魔そのものということになるわ」
「そうだとしますと、警察では手出しが出来ません」
「とりあえず、警察の方はSNSからの犯罪幇助の方向で動いてね。後は、こちらでなんとかします」
報告が終わった直後、ナナからのSOSが鳴ったそうだ。
「これはナナからのSOS。急いで学校に行かなくちゃ! 中村君、警察にも動いてもらえない? 学校から通報があったという事で」
「はい、了解です。自分は警察に連絡してから学校に行きますので、お先にどうぞ」
「リタちゃん! お姉ちゃんが危ないの。お姉ちゃんの小物サンと貴方のステッキ準備して学校に助けに行くよ!」
「うん!」
その直後に俺からの電話があって全員学校で合流する事になった。
◆ ◇ ◆ ◇
俺はバイクを運転しながらマユ姉ぇとハンズフリーで電話をした
「こちらは後5分で着けそう。そちらはどう?」
「こっちも後4分くらいかしら。さっきリタちゃん宛てにナナから電話が入って今は録音中。どうやら悪者がペラペラと悪事を自白しているところなの。うまく時間稼ぎしているわ」
「じゃあ、このまま突撃すれば良いんだね」
「ええ、どうやら下駄箱のところで悶着しているわ」
「で、校門をどうやって開けるの。今は学校の門扉閉められているから入り辛いんだけど」
2001年に発生した大阪教育大学付属池田小学校での小学生無差別殺傷事件以降、学校の安全対策は厳しくなり、保護者といえど簡単に学校へ入れなくなっている。
「しょうがないわ。もうすぐ到着するから強行突破するわよ。リタちゃん、2個大玉で門扉吹っ飛ばして」
「うん!」
いくら娘のピンチとはいえ、即破壊行動に移れるマユ姉ぇは凄いというか、怖いというか。
俺からもマユ姉ぇの車が確認できたところ、そこから大きな光の弾が発射されて中学校の門扉どころかコンクリート製の門や塀まで吹き飛んだ。
もちろん轟音と衝撃波、閃光が発生し、周辺のガラスは砕け散った。
「コウちゃん、突撃よ!」
そう言いながらマユ姉ぇは車を突っ込ませ門扉跡を踏み越させてグラウンドを疾走した。
俺もしょうがないのでマユ姉ぇの後をついて下駄箱のある場所に突っ込んでいった。
下駄箱の周囲は割れたガラスで散乱しており、そこにナナとナイトだけが立っていた。
ナナの周囲には小さなものがシールドの様に多数展開されており、10人程の人がナナを取り囲むようにして倒れていた。
「そうね、到着が遅いよ、コウ兄ぃ! お母さん!」
「ああ、遅くなってごめんね、ナナ! 助けに来たよ!」
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