第37話 康太は遺跡発掘を手伝う:その6「女は度胸」
「君、1年生の岡本奈々って子知らない?」
今は昼休み、昼食後の一息の時間。
中性的美少年が1年生女子生徒に聞く。
「ナナちゃんの事ですか。それならウチのクラスにいますけど」
急に聞かれた女子生徒は不思議に思うも、目の前の美少年先輩の美貌に目を奪われて色々答えてしまう。
「そうなんだ。で、どんな子なんだい。いやね、友達がその子の事気になって調べてきて欲しいって頼まれちゃって」
「ナナちゃんは元気で可愛い子ですよ。へー、ナナちゃんを気にしているオトコノコがいるんだ。それ誰なんですか、先輩。ナナちゃんにも教えてあげないと」
「いや、良いんだ。そこまでしちゃうと頼まれた僕が怒られるから」
少年は苦笑いしながら受け答えをしているのだが、その目はどこか冷たい。
「そうなんですか。あ、今あそこにいるのがナナちゃんです。ナナちゃん!」
女子生徒は、ナナに向かって手を振り呼びかける。
「えっちゃん、何? え!!」
ナナは友達の方を見て、彼女の横に居る男子生徒に気がつく。
その異様な気配と共に。
「いけない、逃げなきゃ!」
ナナは急いで今来た道を走って逃げる。
「あら、ナナちゃんどうしたんだろう。急に逃げるように走るなんて」
「何か急な用事があったのかもね。どうもありがとう」
そう言って少年、内藤和也ことナイトは優雅に女子生徒の前から去っていく。
「ほう、僕の事が分かるんだ。あのお兄さんよりも優秀だね」
ナイトはゆっくりとナナが逃げたほうへ歩いていった。
◆ ◇ ◆ ◇
ボク、岡本奈々は、今急いで逃げている。
まさか学校で直接向こうから近づいてくるなんて、ぶっちゃけありえない。
ナイトと学校で戦うなんて絶対ムリぃ。
小物サン達も2柱しか持っていないし、お母さんでも苦戦しそうなバケモノ、私が相手できるわけ無いよぉ。
お母さんも言っていたけど、逃げの一手。
5時間目が始まる前にどこか安全なところに行かないと。
「そうだ、お母さんに連絡!」
ボクはセーラ服の胸ポケットに突っ込んでいたスマホのSNSからお母さんにSOSを送った。
走りながらなのでボタン押すのが難しいけど、ただでさえ女の子が全力疾走していて目立つのに走りながら電話をするのはレディじゃないもん。
「どこが安全かな? 先生が沢山いるなら職員室も良いけど、先生に説明するのは面倒そう。人を隠すには人の中って言うけど、アイツ何かヤバイ感じがする。人質取るのもお構いなさそう」
ボクは、ぜーぜー言いながら走って養護教員室に入った。
「正岡先生、いますかー!」
正岡先生は養護教育と保健室担当の女の先生。
30前くらいのやや太めの先生で、今まで色々と相談したりして、仲良くしてもらっている。
「あら、岡本さん、どうしたの。汗いっぱいかいちゃって、息も荒いし走ってでもきたの?」
「うん、そうなの。ちょっとヤバイ先輩から逃げてきたから」
「あら、ナイト様がやばいってどういう事なのかしら?」
あちゃー、やっちゃった。
正岡先生は、ナイトの僕だったんだ。
「先生もナイトによって悪魔憑きになったんだ。ボク、ばんじきゅうーすなのかな?」
「ええ、そうね。大人しくしていたら痛くはしないわよ」
そう言いながら、正岡先生は私に近づく。
もうやるしかない。ナナ、ここが一番勝負よ。
オンナは度胸、オトコは愛嬌。
あれ? 逆だったっけ。
「すいません、先生。ボク、悪魔さんとはお友達にはなれませんので」
ボクはそう言って、手持ちの小物さんを起動した。
「タイルさん、和バサミさん。ボクを守って!」
タイルと和バサミは、ボクのお願いでセーラー服のポケットから飛び出した。
タイルさんは、何十個にも分身してボクの周囲を完全にガードしてくれた。
そして和バサミさんも分身して先生を襲う。
「タイル小物サン、展開後完全ガード、和ハサミ小物サン、先生の服切り刻んで裸にしてちょうだい!」
いくら悪魔憑きとはいえ、先生を傷つけるのはちょっとイヤ。
でも襲ってくるなら全裸にするくらいは許して欲しいよね。
「きゃぁ--!」
あっという間に先生は真っ裸。
「いくら悪魔さんでも全裸じゃ動けないよね。じゃあ、さよーなら!」
ボクは、再び全速力で逃げる。
学校の何処にナイトの仲間がいるか分からない。
なら、学校から逃げてしまうのが安全かな。
とりあえず小物サンは、しばらくは使えるから大丈夫だし。
ボクが下駄箱で外靴に履き替えようとしたところ、そこにナイトが待ち構えていた。
学校外へ逃げるのを読まれちゃったのね。
「女の子が髪振り乱して走るなんてハシタナイよ。せっかく僕がお話してあげようと思ったのに」
コイツ、自分が美形なもんだから女の子は自分のいう事全部従うとでも思っているんじゃないの。
コウ兄ぃの方が数十倍ステキなんだから。
「いえ、結構よ。内藤センパイ、いやナイトさん。貴方の悪巧みは全部知っているわ。もう逃げ場は無いのよ」
「逃げ場が無いのはキミの方じゃないのかな、ナナちゃん。周囲には僕の味方を集めているところだ。そしてキミは彼らに手出しできない。これで詰んでないとは言わせないよ」
逃げ場を奪うつもりなのね。
後、残り時間は……、5分くらい稼ぐと良いのかしら。
よし、これでもうボク達の勝利。
「あら、追い詰めたつもりが追い詰められたのね、ボク。降参と言いたいところだけど、聞きたいな。なんでいきなりボクを襲う気になったの?」
「もうキミも聞いていると思うけど、僕の送った間者がキミのお母さんに倒されちゃったんだ。これでこちらはキミ達の動きを掴みにくくなった。それにあの子優秀だったのに倒されて、僕はちょっとキミのお母さんに怒っているんだ」
ナイトは芝居じみた感じにボクに話す。
そうそう、そうやって話してくれるとボクも助かるの。
「だからね、僕はキミを僕だけの僕にして監視役にしたいんだ。それにそうなったら人質にもなるし、エッチな事も出来るしね」
「へー、そうやって正岡先生もおかしくしちゃったんだ。まさかセンパイ、マザコンですか? 居なくなったお母様の代わりなんてね。巨乳好きっぽいですけど。すいませんね、ボク胸は小さいですから」
「そうか、キミ僕の両親の事も知っているんだ。そうだよ、両親を事故に見せかけて殺したのは僕だよ。僕が本当の「ボク」じゃないことに気がつき始めていたから邪魔だったんだよ」
あらあら、自供しちゃったよ。
ナイト、アンタ賢いつもりのバカだったんだね。
「僕は女の子の大きい、小さい、若い、年増、全部関係ないよ。だって、この星の女性は全部僕の獲物なんだ。この星を悪魔でいっぱいにするのには女性を苗床にするのが一番だからね。」
コイツ、全女性の敵だ。
絶対、ゆるしてやんない。
「最後に聞かせて。ナイトはリタちゃんの世界の悪魔と関係あるの?」
「あの逃げてきたエルフ小娘の事だね。そうだよ、あの星も僕らの侵略範囲さ。ここもあそこの様に滅ぼしちゃうね」
え? 世界じゃなくて星って言ったよね。
じゃあ、リタちゃんのところは異世界じゃなくて宇宙の何処かに有る別の惑星なんだ。
さて、時間稼ぎは十分出来たわ、そろそろ逆転の時間よ。
「色々答えてくれてありがとうね、でもね、ボク貴方のペットにはなりたくないの。まだ悪あがきはさせてね。タイル小物サン、お願い!」
タイル小物サンは私を中心に周回をして球形の結界を作り上げた。
「おまえら、囲みこめ!」
ナイトの命令で集まっていた生徒、先生が10人程私に跳びかかる。
でもね、ボクをそのくらいで捕まえれると思うのは甘いよ!
「シールドスプラッシュ!」
ボクのお願いでボクの周囲を回っているタイルさんの分け身が周囲に飛び散る。
その散弾を浴びてナイトの僕達は全員ノックダウンする。
「痛いなぁ。よくも僕の顔にぶつけてくれたね」
散弾を数発顔とかにくらったのに元気だなんて。タフですね、ナイトセンパイ。
「タイルサン、そのまま防御展開。和バサミサン、ナイトもひん剥いちゃえ!」
「うぉぉぉ!」
和バサミさんの分け身はナイトに飛び掛るも、ナイトの咆哮で打ち消されちゃった。
「僕を甘く見過ぎだ。もう我慢ならない。痛くないようにしてあげるつもりだったけれど、たっぷり痛い目を見てもらってから僕にしてあげよう。まずは、お返しにひん剥いてあげようか」
「ナナちゃん、ぴーんちぃ」
「もう怯えても遅いぞ」
その時、校門の方から爆音と衝撃波が飛んできた。
その衝撃波で周囲のガラスは割れて飛散した。
でもね、ボクの周囲にはタイル小物さんがいるから大丈夫。
お母さん達、登場が派手なんだから。
「そうね、到着が遅いよ、コウ兄ぃ! お母さん!」
そう、ボクの王子様&本当の騎士に無敵のママの登場よ。
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