第32話 康太は遺跡発掘を手伝う:その1「古墳発掘」
11月も中頃になり、そろそろ冬の気配がし始めた。
俺は、マユ姉ぇとの修行を続けつつ、大学での勉学に励んでいた。
最近の俺の研究対象は、リタちゃんと出会った遺跡の上にある古墳。
小山上部にある円墳について詳細に調べているのだけれど、盗掘が江戸期以前に行われている上に、明治期に石碑に使うからと棺が埋葬されていた石室の天井石を取り外されていて、石室の形が完全に失われていた。
なぜ天井板が石碑に流用されているかというと、大抵天井板は一枚の平べったい大石が使われており、これが石碑に使うのに好都合な形だからだ。
明治期や江戸期辺りにこのように破壊された古墳は多く、最近では高速道路建設ルート上にあるということで破壊されている。
古代を知ることができる遺跡が簡単に破壊されてしまうのは、考古学を学ぶものとしては非常に悲しい。
さて、問題の古墳だが、地域の古文書にも大した記載は無く、形状と地域の古墳群の制作年代から6世紀後半頃の地域豪族の墓と推定されている。
地下の遺跡について、その豪族が知っていたかは知るすべはないものの、何かある事までは知っていて死後まで遺跡を守る意味で古墳が作られたのではないかと、俺は想像している。
だって、そのほうがロマン溢れるでしょ。
勇者が死後も魔物を封じる為に、封じた地に自らの墓を作るとか。
なお、今回の古墳は該当しないけれども、天皇家に繋がる方々が眠る墳墓は基本発掘禁止されている。
誰も自分の祖先の墓荒らしされるのは嫌だから理解は出来るけれども、考古学者としては古代の秘密を知りたい。
ファンタジー世界にありがちなリアル神器があって「皇」の継承に使われるハイテクの国、日本。
そういえば、この話リタちゃんに話した事無いな。
今度話してみよう。
古墳発掘調査の話だけれども、普通は調査だけに予算は付きにくいので建設工事とかのついでに行われる事が大半だ。
今回の場合も、古墳や遺跡がある小山の所有者が近日中に土地開発を行って大型ショッピングセンターなんかの建設を行いたいとかの話があって行われるようになったそうな。
遺跡を破壊してしまうのは、俺からしたら勿体無いと思うのだが、お金が沢山動く話では俺の一存ではどうにも出来ない。
こうなったら破壊される前に徹底的に調査して、後の世にも古墳の存在を残すのが俺の仕事だと思う。
で、地下遺跡の方だが、あまりに異質な形状で何に使われたかすら判っていない。
まあ、俺と吉井教授は遺跡が異世界ゲート作成ユニットである事は知っているけれど、考古学的に公には出来ないし、原理も説明出来ないので手がだせない。
幸い、ゲート機能は破壊されているので危険性は無いと思われる。
なので、国や県の方に珍しい遺跡があった事を報告して、更なる調査を行う時間と予算を貰うように動くしかない。
「石」の成分分析も吉井教授の協力でマコトの所属する研究室に正式依頼は出来たが、これまた普通の大学にありそうな分析機器の能力では解析できず、神戸のSPring-8等の大型機器を使うしかない訳で、今はSPring-8のスケジュール空き待ちになっている。
なにせ、SPring-8は世界有数の放射光分析施設なのだ、分析を待っている試料は山ほどある。
つまりは現状、俺に出来る事は何も無く「お手上げ」状態なのだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「ただいま」
俺がマユ姉ぇ達のいる母屋に帰ると、玄関の様子が変わっていた。
今までは、狛犬1号・2号が居たのだが、代わりに別の像が2体居る。
全長20cmくらいの木像、その形状はイースター島にある有名な石像を模している。
〝モッ!〟
木像は俺の方へクッと向き目を光らして一瞥し、俺を身内と判断してくれて通れと言った。
そして再び外敵を監視すべく玄関外の方向へくるっと向きを変えていた。
なんか、こういうの昔のシューティングゲームで見た記憶があるんだけど。
「マユ姉ぇ、玄関の門番変わっているんだけど、どうして」
「あら、コウちゃんお帰りなさい。狛犬サン達は正式にナナの使い魔になったの。それで、別の門番さんを探してきたのよ」
「アレ、イースター島にあるモ○イ像だよね。九十九神化したものなんて何処から探してきたの?」
「お父様のところの納屋の奥にあって、私と目が合ったの。で、門番をお願いしたら良いよって言ってくれたの」
「また、あの「魔窟」からかよ。マユ姉ぇ、もしかしてあの納屋に星座の動物像から変形する鎧とか無いよね」
「流石に「聖鎧」なんてものは出てこないわよ。九十九神化している鎧さんとかは居た気がするけど」
マユ姉ぇ、「鎧モノ」の元祖は知っているんだ。
しかし、やばい鎧があるのはホントかよ。
「で、あのモ○イさんは、どんな能力あるの? 狛犬さんはブレス吐けたけど」
「あの子達は、輪っかのビームを口から出せたはずよ」
おい、今度はゲームからですか。
一体、最近の九十九神業界(笑)どうなっているんだ。
ゲームとかアニメの影響を受けるのが流行りかよ。
「それってシューティングゲームに出たやつじゃないの」
「あら、コウちゃん。古いゲームなのに良く知っているのね。あの子も漏斗さんも、こうやって欲しいなって言ったらやってくれたの」
はい、そういう事だったのね。
マユ姉ぇが九十九神さんたちにリクエスト出していたと。
だから妙に能力が現代的なんだ。
ぐっちゃんサンのビームとか巨大化も絡んでいそうで怖い。
マユ姉ぇ、案外オタクなの?
「マユ姉ぇ、九十九神さん達で遊んでない?」
「えー、コウちゃん。私、真面目よ」
「はいはい、分かったよ。そういえば玄関にナナとリタちゃんの靴が無かったけど、また何処かに一緒に行っているの?」
「リタちゃんのデバイスの最終調整とかで、マサト君のところに行った筈よ」
男の部屋に美少女2人行くのは本当なら危険だろうけど、相手がマサトだし二人とも強いから心配無いか。
「マサトも男ですからオオカミになったらどうするの?」
少しふざけてマユ姉ぇに聞いてみると、
「あら、マサト君はコウちゃんのお友達だし、大丈夫よ。もしかしてコウちゃん、心配なの?」
「心配はしていないよ、マサトの事は信用しているし。この前のピクニックで散々俺が遊ばれたから言ってみただけ」
「日が沈むのが早くなってきたし、帰り道は心配だから後で迎えに行ってあげると二人とも喜ぶわ」
「そうだね、じゃあマサトに連絡してから行ってくるね」
俺は、マサトの家に歩いて向かった。
そこで恐ろしいモノが開発されている事には気が付かずに。
これより第一部最終章「騎」との最終決戦編が始まります。
ブックマーク、感想、評価を頂けますと、とても嬉しいです。
では、皆様、宜しくお願い致します。