第31話 康太は皆でピクニックに行く:その2
一人放置プレーのマサト。
両手に花&目の前に双輪の俺を恨めしそうに見ている。
「コウ、リタちゃん紹介してくれるって話だったよね」
「あ、ごめん、忘れてた」
「え!」
「いや、嘘。タイミングが合わなかっただけだよ。リタちゃん、この人が俺の友達の伊藤雅人」
「リタちゃん、お話はコウから聞いています。今まで大変だったのですね」
「いまはもうだいじょうぶだよ、まさとおにいちゃん。おかあさんやななおねえちゃん、こうにいちゃんがいるんだもん」
リタちゃんの屈託のない笑顔と、おにいちゃんと呼んでもらえたのがクリティカルヒット、マサトもリタちゃんに「撃墜」されちゃったようだ。
「あら、リタちゃん。おにいちゃんが増えて良かったわね」
「うん」
マユ姉ぇはリタちゃんが嬉しそうにしているのは楽しいんだろうね。
「そうだ、マサト君は科学に詳しいそうだから、リタちゃん用デバイスのお話し聞いてみたら?」
「うん、そうだねお母さん。ボクじゃ電子機器なんて触れないし」
「え、何のことなのかな、デバイスって」
俺とナナはマサトにリタちゃんの魔法強化デバイスについて話した。
「なるほど、あの魔砲少女をやってみたいんだね」
「うん」
リタちゃんは、自分がやりたいことを分かってもらえたのが嬉しくて、にっこりと笑う
「そうなんだけれど、ボクじゃ九十九神さんをそれぞれ操作できても一緒に組み合わせるのが出来ないんだ。魔法少女系のおもちゃステッキなんて参考にしているんだけど、うまくいかなくて」
「それで、僕は何をしたらいいんだい?」
「ステッキに何個かスイッチを付けて、それに九十九神さんの能力を振り分けしたいんだ。スイッチの組み合わせでコンボとかできたら素敵なの」
「それはとっても面白そうだね。ぜひとも僕にも協力させてよ。そうだ、まずリタちゃんの魔法とか九十九神さんたちの動きを見てみたいな」
「お母さん、ここでマサトお兄ちゃんに魔法とかやって見せていい?」
「そうね、今日はお客様も少ないから派手にしなければ良いわよ」
「やったー! リタちゃん。マサトお兄ちゃんに良いところ見せようね」
「うん!」
マユ姉ぇ、絶対人払いの結界使っているぞ。
明らかに先読みしてるし、わざわざマサトに見せてあげるような方向に持って行っている。
恐ろしい人だよ、全く。
賑やかそうな様子に興味をもった大人男組は、こちらに来て話を聞きリタちゃんやナナの「芸」が見える事を喜んだ。
「これは一生に一回見えるかどうかの素晴らしいものですね」
「リタちゃ――ん、がんばれ――!」
「ぜひとも騒ぎにだけは、ならないようにお願いします」
楽しそうな雰囲気に流されたか、カオリちゃんも「ぐっちゃん」サンにお願いする。
〝オレも芸するぞ!〟
あー、こりゃ大変な演芸大会になるぞ。
俺の予想どおり皆の魔法合戦は、中村警視が心配する程の派手で鮮やかなものになった。
「たまや――!」
リタちゃんが撃ちあげた光の弾は空中で花火のように輝く
いったい、いつのまにそんな芸を覚えたんですか、リタちゃん。
「行けよ、漏斗」
空飛ぶ沢山の漏斗にGダムを知る男共は大爆笑、ビームを撃つところまでやると拍手喝采。
「ぐるぅぅん!!」
ぐっちゃんサンが叫ぶとその姿は2m弱にもなり、羽ばたきながら3方向に色の違うビームを放つ。
怪獣世代の吉井教授なんて大興奮。
「ああ、生きててよかった」
俺たちの世代だとそこまで怪獣に興味は無いけど、直撃世代にとっては感動ものなんだろうね。
ただ、巨大化は俺も知らない能力。
どこまでパワーアップするんだよ、ぐっちゃんサン。
なお、中村警視は、ぐっちゃんサンが巨大化したとたん、大慌てして周囲を見廻した。
うん、俺もマユ姉ぇがニコニコして「ぐっちゃんサン」の芸を見ていなければ慌てたと思うよ。
◆ ◇ ◆ ◇
あっという間に楽しい時間は過ぎて夕焼けが綺麗な時間となった。
俺達は後片づけをしていたのだが、その際にナナが何故かいない事に気が付いた。
「コウちゃん、ナナを探してきてもらえない? たぶん湖畔の何処かにいると思うの」
俺はマユ姉ぇの言葉を信じて周囲を見回ると、少し離れたところにある船着き場に、夕日に照らされ一人ぽつんと座っているナナを見つけた。
「ナナ、こんなところに居たんだ。マユ姉ぇが呼んでいるよ。皆のところに帰ろうよ」
そう声をかけた俺だが、振り返ったナナが目元に涙を貯めている姿を見て驚くと共に、普段ナナには無い色気をすごく感じた。
「コウ兄ぃ、もう何処にも行っちゃヤダ」
そう言って、ナナは泣きながら俺に飛びつき抱き付いてきた。
いきなりなナナの挙動にびっくりした俺、
「いったいどうしたんだ? いつも元気なナナらしくないじゃないか。第一、俺は何処にも行かないけど」
しかし、俺は胸元から見上げてくるナナの泣き顔に「オンナ」を感じてしまい狼狽えた。
「コウ兄ぃ、もうボクだけのモノじゃなくなちゃったよぉ」
「おいおい、落ち着いて話しなよ」
しかし、聞いている俺も落ち着かない。
まさか幼い妹だと思い込んでいたナナが「オンナ」の顔をするだなんて。
「最近、コウ兄ぃどんどん恰好よくなってきて、近くに女の人が増えるのが怖いの」
そういえば、ナナ妙に俺が恰好良くなるのを嫌がっていたな。
「今まではコウ兄ぃはボクだけのお兄ちゃんだったの。でも、リタちゃんが来て、カオリお姉ちゃんと知り合って、敵だったケイコお姉ちゃんとも仲良くなったの。どんどんボクからコウ兄ぃが遠ざかって行っちゃう」
ありゃ、リタちゃんだけでなくナナも周囲に嫉妬していたんだ。
「リタちゃんの事は良いの。あの子はとってもいい子だし、別の世界から逃げてきて大変だし、それにもう妹だもん」
今ではすっかり仲良し姉妹だものね。
「でもカオリお姉ちゃんはすっごく美人でお胸も大きいの。ケイコお姉ちゃんもとっても可愛いし、ボクなんてオトコの子みたいで誰にも何も勝っていないの」
ナナはナナなりに自分が女の子らしくなれないのを困っていたんだね。
「ホントはリタちゃんとボク以外は、コウ兄ぃが女の子と居てほしくないの。でも、すっごい我儘なのはボクも分かっているんだ」
不思議だね、血の繋がりどころか種族・世界の繋がりすら無いのに、姉妹揃って同じことを考えているんだ。
「だからコウ兄ぃを困らせたくないんだけど、今日カオリお姉ちゃんやケイコお姉ちゃんと一緒にいて自分の嫉妬が恥ずかしくなっちゃったんだ。だって二人とも素敵なお姉さんだから、コウ兄いが取られたりするのを恨んだりするのは間違っているんだもん」
「それで、誰にも顔を逢わせたくなくなって、ここに逃げてきていたんだ」
「うん」
「それ同じこと、リタちゃんも言ってたよ。姉妹揃って同じこと言うなんて面白いね」
「そうなの?」
「うん、リタちゃんもナナお姉ちゃんなら良いけど他の女の人はダメだって」
「おかしいね、姉妹揃って同じなんて」
泣き笑うナナに俺はこう言う。
「姉妹だからこそ、同じじゃないのかな? 例え生まれた世界は違っていても姉妹になったんだからね」
「コウ兄ぃ、恰好良い事言い過ぎ」
噴出して少し涙が止まったナナに、俺はさらに言う。
「俺は、ナナの笑い顔がとっても好きだよ。ヒマワリのような元気な笑顔を見ていると安心するし、俺も元気が出るんだ。だから泣かないで」
俺の「好き」発言にびっくりして泣くのをやめ、顔を赤くしたナナ、
「え――、それってまさかプロポーズぅ!?」
「いや、まだナナにはプロポーズなんて早いよ。俺、ナナの事は大好きだよ。そりゃまだ妹感覚だけどね。この先どうなるかは俺にも分からないけど、少なくともナナやリタちゃんを泣かすような事はしないと約束するから」
「うん、約束だよ」
そう言ってナナは俺を強く抱きしめてくれた。
俺も、ナナをそっと抱きしめた。
小さいけど暖かくて良い匂いのするヒマワリのような女の子を。
知らぬ間に幼かった妹が「乙女」に成長し、俺の恋人候補に名乗り出たのに驚きつつも感謝して。
◆ ◇ ◆ ◇
二人笑いあいながら手をつないで帰ってきた様子を、いつもどうりニコニコして迎えてくれるマユ姉ぇ。
絶対、ナナの心境を読んで俺を差し向けたに違いない。
「ななおねえちゃん、どこいってたの――! さがしたんだよ」
「リタちゃん、ごめんね。ちょっと迷子になってたんだ」
「おねえちゃん、こまるよぉ」
姉妹の仲良さげな様子を楽しく見ていた俺にマユ姉ぇは近づいて、
「ウチの娘達を泣かすような事はしないでね。それと絶対18歳になるまでは手を出しちゃダメよ」
と、ナナ達に聞こえないような小声で笑みを浮かべながら言ってきた。
あー、全部お見通しなのね、マユ姉ぇ。
「うん、それは絶対守るよ。ちなみにマユ姉ぇ、その時はお義母さんって呼んだらいいの?」
俺はいつもやられている仕返しとばかりに、ふざけてマユ姉ぇに聞いてみた。
「そうね、マユお義母さんで良いわよ。孫は何人が良いかしら」
ありゃ、逆にやられちゃったよ。
孫の件で俺が赤面しているのを見たナナ、
「コウ兄ぃ、何お母さんと話しているの?」
「いや、なんでもないよ。将来こうなったら良いなって話だよ」
そうだ、未来はまだ分からない。
将来、俺が別の人を選ぶかもしれないし、ナナが俺以外の人を選ぶことだって十分ある。
少し寂しい気がするけど。
また、俺にはリタちゃんを幸せにすべく、リタちゃんの世界と対峙する使命がある。
この世界でもデーモンが暗躍しているし、例のナイトもブチのめしたい。
それらの思いを強くした俺は、マユ姉ぇに感謝の気持ちを述べた。
「マユ姉ぇ、今日はピクニックに皆を連れてきてくれてありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
マユ姉ぇは、ナナと同じヒマワリのような笑顔で答えてくれた。
そう、とても暖かくて元気が出る笑顔で。
これにて日常編その2終了です。
次からは、第一部最終章の始まりです。
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