第30話 康太は皆でピクニックに行く:その1
「コウちゃん、紅葉が綺麗だから皆でピクニックに行かない?」
それはマユ姉ぇの突然の話から始まった。
「マユ姉ぇ、あまりに唐突なお話だけども、いきなりどうしたんだい?」
「いえね、最近たくさんの人にお世話になっているのと、リタちゃんを綺麗なところに連れ出してあげたいなって思ってなの」
「それは良いけど、マユ姉ぇ一体誰を連れて行くんだい?」
「吉井先生に豊原先生と中村君辺りはお礼がしたいから確実かな。それと伊藤君もリタちゃんに会いたいって話だったわよね」
「うん、そうだね」
しかし、俺の頭の中には後二人の女の子の顔が浮かんだ。
「あら、まだ誰か呼びたいって顔ね、コウちゃん」
「え、何か顔に出てた俺?」
「そうね、後二人女の子を呼びたいなって顔してたわよ」
マユ姉ぇは念話が使えるけど、言語化されていない思考まで読めたりするんだろうか。
「実はそう思ったんだけど、マユ姉ぇ俺の思考読んでない?」
「まさか、言語化されていないモノまでは読めないわよ」
つまり言語化されていたら読めるって事ね。
恐ろしや。
「カオリちゃんとケイコちゃんね。良いわよ」
「カオリちゃんは分かるけど、ケイコちゃんも呼んでいいの? だって……」
「もうケイコちゃんは大丈夫なんでしょ。それに彼女、私に直接会いたいって言っていたわよね」
「ありがとう、マユ姉ぇ。しかしどこまで先読み出来るんですか、マユ姉ぇ。」
「え、どうだろう。今までもそうなんだけどなんとなく頭に浮かんだだけだから。あまり気にしないでね」
いや、今まで的中率100%の予言しておいて気にしないでねとは、おかしいんじゃないの?
絶対気になるって。
「ねえ、マユ姉ぇ」
「はい。何なの、コウちゃん」
きょとんとしているマユ姉ぇに聞いてもちゃんと答えてくれるんだろうか。
「本当に何か分かっているのなら、早く教えてね。心の準備とかあるし」
「そうね、教えた方が良い結果になる事なら早く教えてあげるわね。でもね、世の中には後から知った方が良い結果が出たり、最後まで知らなかったから良かったって事もあるの」
そう言ってマユ姉ぇは、右手人差し指を頬にあててみる。
「例えばリタちゃんがこっちに来た時、全部教えていたらうまくリタちゃんを助けられた? ケイコちゃんの時もあらかじめ全部知っていて躊躇なく大百足を倒せていた?」
リタちゃんの時はうまく出来ていたけど、戦う力の無かったあの時の俺ではデーモンの事知っていたら怖くて戦えなかったかも知れない。
ケイコちゃんの大百足もケイコちゃんの事を考えて躊躇したらカオリちゃんが傷ついていたかも知れないし、最悪俺が倒されていたかも。
どっちも知っていて良い結果が残せていたかは不明だ。
ん? あれ、という事はマユ姉ぇ、全部最初から見通せていたって事?
「マユ姉ぇ、全部最初から知っていて俺がどう動くのか信用していてくれていたんだね」
マユ姉ぇは、はっきりとは答えてはくれない。
ただ、マユ姉ぇの満面の笑みは、俺の想像が事実なのを裏付けてくれているのだろう。
俺は、今までもその笑顔に勇気づけられてきたのだから。
そうか、分かった。ナナの笑顔が安心できるのも同じ理由だ。
親子とも同じ笑顔だからなんだね。
◆ ◇ ◆ ◇
そしてピクニック当日が来た。
10月の中頃過ぎの土曜日、まだ紅葉には早めだけれども秋晴れの良い天気。
向かうは、マユ姉ぇお勧めの高原にあるキャンプ場。
中央に池があって、その周囲をオートキャンプ場として整備されている。
その一角を予約しており、大人男組は現地集合、俺はマサトとバイクで、マユ姉ぇ達はカオリちゃん・ケイコちゃんを回収してとなった。
「こうにいちゃん、すっごくきれいだね」
そう言って青いラインが入った白いワンピースの裾をひらりと靡かせたリタちゃんは、まるで森の妖精だ。
まあ、エルフは半分妖精だから実際そうなんだけど、とっても可憐だ。
「コウ兄ぃ、早くこっちだよ」
リタちゃんの横で、ツインテールをひらめかせて俺を呼ぶナナ。
デニム地のジャンバーとショートパンツ、長めのニーソックスが元気娘のナナには実に良く似合っている。
「あらあら、コウちゃん人気者ね」
落ち着いた秋色のロングスカートと薄手のカーディガンを着たマユ姉ぇは、しっとりとした感じで実にイイ。
「先生、私も忘れないでくださいね」
薄手のニットから、はち切れそうな「水密桃」を揺らしフレアスカートにショートブーツのカオリちゃん。
その「ふくらみ」の圧倒的存在感は、素晴らしいとしか言えない。
「真由子お姉さま、待ってください」
短めのトレンチコートにカットソー、細めのジーンズのケイコちゃん。
細めだけどメリハリのあるスタイル、特に腰からのラインは実に艶めかしい。
高校生組もなかなか宜しい。
ただ、ずっと見ているとリタちゃんが怖いから気をつけないと。
え、男性組の服装だって?
そんなのどーでもいいでしょ。
◆ ◇ ◆ ◇
「こうにいちゃん、これたべて」
「コウ兄ぃ、これも美味しいよ」
俺は妹達二人に挟まれて、マユ姉ぇの作った料理を前に上げ膳据え膳。
その二人の目は「水密桃」に向いており、俺にカオリちゃんを近づけさせようとしない。
「あれ、すごいけどあぶない」
「あそこまで凄いと凶器だよね、絶対コウ兄ぃから遠ざけないと」
そんな二人をカオリちゃんは苦笑いしながらも暖かく見ている。
「二人ともお兄ちゃんは取らないから、そこまで警戒しなくてもいいのに」
「でも、あぶない」
「うん、コウ兄ぃが襲う可能性もあるし」
俺にそこまで自制心が無いと思っているんですか、二人とも。
そりゃ最近SAN値ガリガリ減っている気はするけど、まだ女の子を襲う程にはひどくないぞ。
ちなみに俺、あの神話TRPGも遊んだことがあるんだ。
「二人とも、そんなに俺が信用ならないのかい?」
「コウ兄ぃは信用しているけど、オトコは信用していないの」
「うん、おとこは、おおかみ」
「マユ姉ぇ、二人にどういう教育をしているの?」
「変な事は教えてないわよ。女の子は自分を大事にしてとは言っているけど」
「その通りだと私も思うけど先生なら大丈夫よ。今までも大丈夫だったし」
〝オレも見ているぞ〟
今日のキャンプ場は天候もよく最適なキャンプ日和なのにあまりお客がおらず人の目も無いので、堂々と「ぐっちゃん」サンはカオリちゃんの周囲を飛んでいる。
リタちゃんもエルフ耳を隠してはいない。
まさか、マユ姉ぇ人払いの結界なんて貼っていないよね。
「それが危ないの、カオリお姉ちゃん。そりゃコウ兄ぃは安全牌かも知れないけど、他のオトコもそうとは限らないよ。だってお姉ちゃん綺麗だしそんな危険物持っているんだもん」
ナナの目は危ないものというよりも羨ましいものとして、覗き込むようにカオリちゃんの胸を見ている。
「お姉ちゃん、どうやったら『お胸』そんなに大きくなるの?」
「うん、りたもしりたい」
「私、別に特別な事をした事はないんだけど。母は大きい方だったし、お婆ちゃん二人とも大きかったから遺伝かしら。ナナちゃんはお母様がお綺麗でスタイルも良いから大丈夫よ」
「りたのおうち、みんなほそい。 むね、おおきくならない」
リタちゃんは自分の胸を押さえながら悲しげに言うけど、巨乳エルフというのはあんまりイメージに無い。
ダークエルフが巨乳というイメージはあるけど、あれって「呪われた島」のアニメからだった覚えがある。
「でもリタちゃんは可憐でとっても可愛いから、私そっちの方が羨ましいな」
「かおりおねえちゃん、ありがとう」
結局、ヒトは無いものねだりなのかもね。
二人の娘の可愛い様子を眺めているマユ姉ぇのところにはケイコちゃんがべったりとくっついている。
「お姉さま、改めてお礼を申します。おかげでワタシ元気になれました」
まだ右目周辺をガーゼで覆っているケイコちゃんだが、その花咲くような笑顔を見て、マユ姉ぇも笑い返す。
「あら、お姉さまなんて。私なんてもうオバサンよ。でもカオリちゃんの笑顔を見れたのは良かったわ」
マユ姉ぇの「オバサン」という声で俺はビクっとしたが、もっとびっくりして大汗かいているのが大人男組で酒盛りしていた中村警視。
なお、大人男組は一台の車で乗り合わせており、帰りは運転代行を頼むんだとか。
そりゃ警察官が飲酒運転はしないよね
「お姉さまや先生の助けが無かったらワタシ、こんなに笑えなかったと思います。カオリちゃんとも本当に仲良くなれたし、皆親切にしてくれるんですもの」
「それはね、ケイコちゃんが笑っているから皆笑い返してくれているの。人と喜び合えるのは良い事よ。そういえばケイコちゃん、医療系の勉強をしたいんだって?」
「はい、お姉さまに助けてもらったご恩を今度は私が皆に帰していけたらと思ったんです」
「あら、それは素敵な事ね。そんないい子になったケイコちゃんに私からのご褒美」
そう言ってマユ姉ぇはケイコちゃんに抱き付いて右目のあたりにキスをした。
「え――!」
顔を真っ赤にしたケイコちゃん。
「たぶん、これで綺麗に治るのがもっと早くなるわ。可愛い女の子の顔に傷跡なんて残しちゃ、もったいないですもの」
ケイコちゃんは急なハグ&キスで混乱して、
「はわぁわぁぁ」
と日本語になっていない言葉を発している
でも良かったね、ケイコちゃん。
憧れのお姉さまに祝福されて。
さて、大人男組だか、どうやらマユ姉ぇを経由して既に顔見知りだったよう。
さっきまでは日頃の憂さを晴らすべく賑やかにマユ姉ぇの料理を肴に酒盛りしていたけど、マユ姉ぇの「オバサン発言」が冷や水になったのか、急に大人しくなっている。
「中村さん、大丈夫ですか? 急に大汗なんてかいて。急性アルコール中毒かも知れません。豊原先生、見て頂けますか?」
「いえ、大丈夫です。真由子さんが気になって悪酔いしたのかもしれませんが、しばらくしたら大丈夫と思います」
「いや、大丈夫というのが一番危ないんですよ。ボクに診せてください」
「ホント大丈夫なんですよ。あの『一言』がショックだっただけですから」
「え、なんですか、それは?」
「すいません、大きな声で言うと死人が出かねないので」
中村警視は、二人にこそっと耳打ちをした。
「それは恐ろしい経験をなされたのですね」
ぎょっとする吉井教授。
「うん、真由子くんの殺気はボクも経験あるけど、あれは誰か死んでもおかしくないよ」
うんうんと過去の惨劇を思い出しているであろう豊原医師。
大人男組は、今度はマユ姉ぇネタで盛り上がっているもよう。
マユ姉ぇには全部会話が聞こえているんだろうけど、今日は自分が呼んだゲストだし無礼講なので追及はしないんだろうね。
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