第28話 康太は女難の相に困惑する
デーモン事件を解決した俺だが、あれからもカオリちゃんの家庭教師を続けている。
しかし、今は彼女だけでなくケイコちゃんも一緒になっての勉強会になっているのは、想定外だった。
◆ ◇ ◆ ◇
呪詛による傷がだいぶ良くなった蒼井恵子、ケイコちゃんは退院後まずカオリちゃんの家に向かったそうだ。
「皆様には、ご迷惑をおかけして申しわけありませんでした」
まだ右目周辺をガーゼで覆った姿のケイコちゃんは、カオリちゃんやカオリちゃんのご両親の前で90度腰を曲げて深々とお辞儀をしたそうだ。
まあ、女の子が土下座というのはおかしいから、謝罪の形としては悪くないと思う。
「とても許してもらえるとは申せませんが、学校で香織さんとお話しすることを許可願えればと思いまして、謝罪に参りました」
「お父さん・お母さん、私がもう許してあげているのだから、学校で会うのくらいは認めてあげて」
カオリちゃんの言葉を聞いたご両親は、こう言ったそうだ。
「蒼井さん、貴方のやった事は人として最低の行為だったのは理解していますよね」
お父様の言葉に、ケイコちゃんはうなずいて答えたそうだ。
「はい、だからこそ許されなくてもしょうがないと思っています」
「それが分かっていて、ここに来たのはどうしてですか?」
「もしかすると罰を受けたいから来たのかもしれません」
「どうして?」
「今回、私は多くの人に助けられて罪を償う事もなく、無事に退院できました。でも本当にそれで良かったのかと思うんです。罵られたり、無視されたりしても不思議じゃないんです、ワタシの犯した罪は。なのに皆無事で良かったと言ってくれるのが心苦しくて」
その言葉を聞いたお父様は、にっこりと笑って言ったそうだ。
「カオリから貴方の事情は聞いています。貴方自身も唆された被害者だったのでしょ。それに同じ歳の娘を持つ親としては誰も心配するのが当たり前だよ」
この言葉を受けてケイコちゃんはお父様の顔を見上げたそうな。
「もう貴方は大丈夫、周囲の愛を感じられるようになったのだから。もう二度と悪い企みになんて騙されないでしょう」
「はい。じゃあ」
「とうの本人が許しているんだ、外野がどうこういう事じゃないよ。これからもウチのカオリを宜しくね」
「ありがとうございます」
ケイコちゃんは大泣きだったそうだ。
もちろん、カオリちゃんもケイコちゃんと抱き合って泣いたそうな。
「学校だけと言わずに、ウチにも遊びにおいで。そちらのご両親ともお話ししたいしね」
「本当にありがとうございます」
なお、事前に俺やマユ姉ぇからカオリちゃんのご両親にケイコちゃんの事情を話しており、本人が謝罪にきたら許してあげてほしい旨を伝えていた。
「ホント皆様お人好しすぎですよ。カオリもそうだし、功刀先生もそうだ。襲われた人が揃って許してあげてなんて言ってきたら、もうしょうがないじゃないですか」
お父様は苦笑いして俺の話を受け入れてくれた。
「まあ、娘が大事なのはどこの親も同じだし、仕事にかまけているのも同じなだけに他人事じゃないです。だからこそ大した被害もなく終わったのなら許してあげるのも親の務めでしょう」
◆ ◇ ◆ ◇
ただ、この流れでなんで二人分家庭教師をしなくちゃならなくなったのかは、俺には分からない。
もちろん二人分のバイト代を頂けているのは嬉しい。
美少女二人を公然と眺めていても怒られないのも良い。
しかし、こう女難のフラグだけ増えていくのは、実に精神衛生上宜しくない。
「ぐっちゃん」サンが公然とふよふよとしているカオリちゃんの部屋での勉強会。
「先生、この問題はどう解いたら良いんですか?」
カオリちゃん、その「水密桃」を強調するような姿勢で聞いてくれるのは、やめてもらえないかな。
「ワタシにも、ここを教えてください」
ケイコちゃん、その笑顔思った以上に破壊力あるんですが。
二人が二人して自分の魅力をアピールしながらの授業は、俺のSAN値をガリガリと減らしてくる。
こりゃアカン、うまく話題を与えて逃げないと。
さもないとSAN値直葬便なんて事になりかねない。
「大学院生家庭教師、女子高生二人を××する」なんてシャレにもなりませんぞ。
「二人とも少し休憩しようか」
「はい」
「ケイコちゃん、傷の具合はどうだい?」
まだガーゼで覆われている右目を押さえてケイコちゃんは言う。
「はい、まだ少し跡が残っていて紫外線に当たるとシミになるかもしれないので覆っておいた方が良いとの事です。でもたぶん来年までには綺麗になるって言ってくれていますから心配はしていません」
「それが良かったね」
ホント、可愛い女の子の顔に傷なんて残せないよ。
「今回、入院してよく分かったのですが、医療関係の人ってスゴイんですね。色んな病気や怪我の人を治していけるなんて。真由子お姉さまも看護師だったそうですし、ワタシ医療関係の大学に行ってみたくなったんです」
「それはどうして?」
「皆さんに助けてもらった恩を何かの形で返していけたらと思ったのと、もともと生き物関係は好きだったので、そちらの勉強が出来たらと思いました」
「それは良い夢だね。ただ、医療関係は学力も体力もいっぱい必要だよ。だから頑張ってね、俺も出来る限りサポートするから」
「はい、ありがとうございます」
ケイコちゃんの花咲くような笑顔を見れたのは、今回の報酬としては十分すぎるくらいかな。
ホント、助けられて良かったよ。
「で、先生、私の事は無視ですか」
恨めしそうにこちらを見るカオリちゃん。
「いや、そんな事無いって。そういえばいつのまに『ぐっちゃん』とお話出来るようになったの?」
そのジト目に色気と殺気を感じた俺は、急いで話題変更をする。
「いつなんだろう? 大百足に襲われた後、あ、ごめんねケイコちゃん。話蒸し返して」
「今さらじゃない、ワタシが悪かったんだから。で、ワタシも気になっていたのよ。ぬいぐるみサンが空飛ぶのは不思議だもん」
「この子は九十九神といって人と長く暮らしていた道具なんかが周囲の力や人の思いを受けて、一種の妖怪化をしたものなんだ。妖怪といっても人との関係が強いもので、大抵は友好的でお友達や仲間になってくれるんだ」
「だから、こうやって飛んでいるんだね。ぐっちゃんだったっけ。前はごめんなさい。カオリちゃんを襲ったりして」
〝もう気にしていない。ケイコ、カオリの友達、許す〟
「ぐっちゃん、ケイコちゃんの事許してくれるんだって」
「ありがとう、ぐっちゃん。握手して良い?」
ぐっちゃんサンは羽を片方ケイコちゃんの方へ差し出した。
「ぐっちゃんって温かいね。これからもカオリちゃんの事をお願いね」
「ぐぅぅー!」
「え、ワタシにも聞こえたよ、こちらこそ宜しくね」
「あら、ぐっちゃんご機嫌ね」
へー、鳴き声出すこともできるんだ。
しかし、カオリちゃんは完全に意思疎通しているよ。
「ごめんなさい、話を戻しますね。襲われた後から毎日ぐっちゃんに話しかけていたの。そのうちぐっちゃんの仕草で言いたいことは分かってきたし、夢の中にも出てきてそこで一緒に空飛んだりお話ししていたの。で、気が付いたらぐっちゃんの『声』が聞こえるようになっていたの」
「そうか、リタちゃんの念話とかも聞いていたし、魔に近づいた影響で聞こえ出したのかもね。ケイコちゃんも同じく魔に近づいたから、これから霊とか見えたり聞こえたりするかもしれないから、一応注意してね。全部が悪霊じゃないけど、ヤバいのはいるから」
それからその日はあまり勉強にならなかったけど、二人の美少女の仲良く笑いあう姿とそれを機嫌よく見守るぬいぐるみという、「良い絵」を見れたのは良かったかな。
なお、ここでの話は絶対リタちゃんに知られると怖いので注意せねば。
これより暫く日常になっていない日常編をお送り致します。
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