第27話 康太の家庭教師:15日目「一件落着」
デーモン事件より数日後、俺とリタちゃんは恵子さんのお見舞いに行った。
恵子さんが入院している大学病院は、ロリ医師いや、豊原医師の勤務する病院で内部にはマユ姉ぇの関係者が多くいて、霊障関係の事象をマユ姉ぇ経由で持ち込まれる事も多いらしい。
というか、マユ姉ぇが何処まで勢力を伸ばしているのか身内でも全貌を知る人間がいないくらい凄いのが実に恐ろしい。
「こんにちは。お加減如何ですか?」
「功刀さん、わざわざ来て頂きありがとうございます」
恵子さんは体調が良いのかベットに座っていた。
そして、そこにはカオリちゃんも居た。
「先生、ここに来るのなら私に連絡してくださいよ。せっかく一緒に……」
あれ、この雰囲気はヤバくないかい?
俺が察したとおり、その一言を聞いてリタちゃんは俺の腕にしがみ付いて殺気をカオリちゃんに向けて放つ。
あー、マユ姉ぇの殺気放出を学んで怖くなっているよ。
しかし、その殺気を浴びるも、何もなかったように笑うカオリちゃん。
「ごめんねリタちゃん、冗談よ。お兄ちゃんは取りませんからね」
本当に冗談なのか判らないけど、あの殺気を受けてさらっと流せるカオリちゃんも凄いぞ。
「うん、こうにいちゃん、だれにもあげないよ」
独占欲が強いんだろうか、リタちゃんって。
「うふふ。仲が宜しい事で」
恵子さんは大分調子が良いのか、俺達の「漫才」を見て笑ってくれている。
その姿はとても斧を振るってきた幽鬼と同一人物とは思えない。
「あの節は功刀さんにはとてもお世話になりました。襲っておいて助けてもらうなんて、今になって恥ずかしいやら情けないやら。また、小母様には病院も斡旋して頂きありがとうございます。おかげで綺麗に治るそうで嬉しいです。ぜひ宜しくお伝え願います」
右目周辺を大きくガーゼで覆っているも、その穏やかな表情は以前とは別人。
恵子さんはカオリちゃんとはタイプが違う可愛い系、ふわっとしたお嬢様髪型といい、今になって見てみればアイドルグループにいてもおかしくない女の子だ。
呪詛による皮膚の異常だけれども、レーザー治療やステロイド等の適切な治療で皮膚移植等をする事もなく、おそらく跡も残らず治療できるらしい。
女の子の顔に傷跡が残るのはイヤだもんね。
「こちらこそ、あの時は膝蹴りなんてやってごめんなさい。でも元気そうで良かったです」
俺は恵子さんに謝った。
いくら襲ってきたとは言え、女子高生に膝蹴りはあんまりだし。
「後、襲った件はしょうがないですよ。恵子さんには半分レッサーデーモンが憑依していた訳だから正気では無かったですし。病院の件はマユ姉ぇにも伝えておきますね。それと一応ですが、本人の前でオバサンとか言わないほうが良いですよ。先日もそれで警察署が大変な事になりましたから」
俺はざっと警察署での「惨事」について説明をした。
「あら、それは大変」
恵子さんは笑って答えるけれども、現場に居た俺は死にかけたんだぞ。
正直デーモンよりもマユ姉ぇの方が何十倍も怖いよ
「でも、あれだけお綺麗でお若いですから小母様とは呼び辛いですね」
「ななおねえちゃんとわたしのおかあさんだよ」
リタちゃん、そうだけどそれは言って良い情報なのか?
「案外大きなお子様がいらっしゃるのですね。でもお綺麗なのは本当ですねわ。それにあんなにもお強いなんて、ワタシ良かったらお姉さまとお呼びしたいです」
ここにも百合族が居たのかよ。
「それを聞けばマユ姉ぇも喜ぶと思います」
「しかし、今になればなんであの時カイトを生贄にするなんて考えられたのか不思議でなりません」
恵子さんの愛犬、カイトは雑種の初老犬で恵子さんが小学生の時に拾ってご両親に頼み込んで飼ったものらしい。
あの後、カイトも獣医さんに診てもらったところ異常なしだったのは良かった。
しかし、そんな愛犬を犬神の材料にしようと唆すナイトとやらは許せない。
「もう警察にはお話したとは思いますが、ナイトとはどういう人物なのですか? 宜しければ俺にも話して頂けますか?」
「はい。ナイトは、一月くらい前にSNSで接触してきました。あの頃、ワタシはカオリちゃんに嫉妬をしていてどうしたらいいのか悩んでいたんです。ごめんね、カオリちゃん」
恵子さんはカオリちゃんの顔を見て謝る。
「ううん、もう良いのよケイコちゃん」
「嫉妬の感情をSNSで吐き出していると、良い解決方法があるって接触してきたのがナイトです。その甘い言葉に騙されてワタシはナイトに色々相談をしてワタシとカオリちゃんの個人情報なんかも話してしまいました。そしてナイトから呪いの方法が送られ、ワタシは呪いのペンダントを作ったのです」
過去の罪を辛そうに話す恵子さん。
自分の罪と向き合おうとしているのは立派だよ。
「あの頃から頭の中はカオリちゃんへの怒りと嫉妬でいっぱいになっていて、今思えばあの時にもう悪魔に乗っ取られかけていたんだと思います」
大体想定どおりだね。
人の小さな悪意を嗅ぎ取り、それを増大させて呪詛を行わさせる。
そうして心が腐りきった人をデーモンの苗床とし、自分の尖兵を増やしていく。
その手法として足が付きにくく、かつ現代では便利な道具になっているSNSを利用しての悪行。
許せまじ、ナイトよ。
「で、今でもナイトとは連絡が取れますか?」
「いえ、あれからメッセージを送っても何の返答もありませんし、既読もつきません」
これは逃げられたか。
「警察にも同じ事を話しましたか?」
「はい、先日中村さんという方が来られてお話しました。あの方には捕まえないけれども、もう二度と呪いなんてしないでと叱られちゃいました」
中村警視、マユ姉ぇの殺気攻撃から復活できたんだ。
それは良かった。
「君にはご両親も居るし、カオリちゃんも付いているからもう大丈夫ですよ。おそらくナイトは恵子さんには今後接触はしてこないと思いますけど、何かあったら俺や警察に連絡してきて下さい。絶対に力になりますから」
「先生は強いし信用出来る人なのは私も保証するわ」
「あら、カオリちゃんの場合は信用というよりも惚れているんじゃないの?」
「何言っているのよ、ケイコちゃん。私と先生の関係は家庭教師以上のものじゃない……」
顔を真っ赤にしつつ目がハートじゃあ説得力ないよ、カオリちゃん。
それとね、俺の腕を握る力強すぎですからリタちゃん、少し落ち着いてよ。
いくら「貧しい」とはいえ、胸を押し付けられるのは困るから。
「こうにいちゃんのえっち。おむね、おおきいほうがいいの?」
リタちゃんの一言でカオリちゃんは俺の視線が自らの「水密桃」に行っているのを気が付いて、両手で隠しながら俺を睨みつけてくる。
「先生、もしかして私の事そういう目で見ていたんですか?」
おい、ちょっと洒落にならない事態になったぞ。
リタちゃん、まさか念話でカオリちゃんに直接説明したんじゃ……
〝うん、だってコウ兄様は私かナナお姉さまのどちらか以外に目をやってもらっては困るもん〟
はい、アウトぉぉ。
これでカオリちゃんとの関係も終わった……
家庭教師以上の関係を望んでいる訳じゃないけど、先生と呼んでもらわなくなるのは悲しいよ。
「もしそうなら言って頂ければ、二人だけのときにお見せしない事もないのに……」
え、それはあかんよ、カオリちゃん。
俺が逮捕される流れだし、リタちゃんが本気にしたら血の雨降るから止めてぇぇ。
今も俺の腕を握る力がどんどん強くなってきているよぉ。
しかし、カオリちゃん本気だったのかい。
なんで急に俺の周りがハーレムになりだしたんだよ!
「カオリちゃんったら、そんなに功刀さんに惚れたんだ。でも判るよ。ワタシを助けてくれた時も格好良かったし。それに大学院生なんてすっごく賢いんでしょ。ワタシも退院したら家庭教師してもらおうかしら」
すいません、これ以上女難が増えるのは怖いから勘弁して欲しいんですけど。
まさか、あの「石」魔力だけでなく、女難のフラグも集めるのかよ。
エロゲーやギャルゲーじゃないんだよぉぉ。
◆ ◇ ◆ ◇
とまあ、事件は一応の解決を見た。
主犯のナイトについては警察も身元を確認することが出来ず、逃げられてしまったのが気にはなるが、俺達にはどうすることも出来ない。
今後は警察とも連絡を密にして、ナイトを発見したら逮捕に協力したいと思う。
なお、事件解決後もカオリちゃんとの家庭教師関係は続き、俺はリタちゃんからの嫉妬攻撃にしばらく悩まされたとさ。
これにて第三章終わりです。
次からは再び日常編が始まります。
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