第264話 康太の魔神退治:その55「強襲 その8!:邪神の罠」
「兄上、そこにいるダークエルフは軍師殿か?」
「ああ、そうだ。何? お前らこの軍師が欲しいのか?」
『将』は横に居るダークエルフの正体を知らない。
「そうか、知らぬのか。おい、ナイとかアルとか、ラトと言うんじゃろ? イイ加減何回もワシらの前に出てくるのをやめてくれぬか?」
「おい、何でチエがアルラトの名前を知っているんだ? 『草』にでも聞いたのか? それに何回もとはどういう意味だ?」
「ほう、私の正体を今回も見破ったのですか。こちらこそ、私のジャマを毎回してくれて困っているのですよ」
「将」は、俺達とアルラトを名乗る「這い寄る混沌」を見比べながらきょろきょろしている。
「兄上、一言だけ言おうのじゃ。そのアルラトの言う事を信用すると酷い目にあうのじゃ。ここいらで引くのが大事じゃ。ワシから父上に取り成すから、やめるのじゃ!」
「なんで、俺がチエのいう事を聞かなきゃならねーんだよ。アルラト、早く例の手を使うんだ!」
「御意」
チエちゃんが必死の説得をしたものの、それは「将」には聞き入れられなかった。
アルラトは、あの嘲笑をしながらアイテムを懐から出した。
「あ! それは、あるふの ひほうなの!」
リタちゃんがアルラトが取り出した「壷」を見て叫ぶ。
今、リタちゃんや先王陛下が俺達の保護下にいる以上、秘宝は起動が出来ないはず?
「では、こうしましょう!」
そう言ってアルラトは手に持った秘宝、陶器らしきもので出来た「クラインの壷」を両手で握りつぶした。
「え!」
「将」を含めてそこにいるアルラト以外の全員が驚く中、アルラトは「将」の方を見て嗤う。
そして両手に握ったナニか壷由来のモノを、無造作に「将」の腹部へ突っ込んだ。
「おい、ナニをする! こんなことをして……、ナンダこれハぁぁァァア!」
アルラトを怒鳴った「将」、しかし次の瞬間激しく苦しみだし、大きく痙攣をしだす。
「オイ! ワシの兄上にナニをした!」
チエちゃんは普段見せない怒気を出して、その怒りをアルラト、いや「這い寄る混沌」に向けた。
「いえね、壷の封印が解けないから異界へのゲートは開けないし、壷を壊したらゲートは不安定になり崩壊するのですよ。だから壷の中のゲートを取り出して、壊れる前に『器』に突っ込んだだけです。さて、もうじき器が膨れ上がりますよ」
そうこうしている内に、「将」の外見は人に近い形から風船のように膨れ上がり、以前リブラが成り下がったような肉の山になっていく。
「皆、一旦避難するわよ!」
俺達はマユ姉ぇの掛声で急いでその場から後方にある神殿の方へ逃げた。
ハハハと、どんどん大きくなるアルラトの嘲笑。
肉の海となった「将」は近くに居た配下の上位悪魔達を飲み込み、城の外壁の一部をも巻き込んで成長してゆく。
「さて、アルフにお集まりの皆様、これからが最終章にございます。この星、いやこの世界全ては『将』様がお望みのように呑みこまれ、無へと帰すのです。そして我が滋養となり、異界より『外なる神々』を呼ぶのです!」
そう言うと、アルラトは空中へ飛び上がり、肉の海の中心へと降り立ち融合していった。
「チエちゃん、もう一回リブラ戦みたいにして『将』を閉鎖空間へ送れない?」
「そうじゃな。父上や他の魔神将の助けがあれば可能じゃ」
「だったら、そうやってからアルラトを滅ぼして、『将』、お兄さんを引っこ抜いて助けてあげない?」
俺の提案にチエちゃんはポカンとした顔をした。
「なんでじゃ? 兄上は極悪人じゃ。助ける理由等ないのじゃ」
「何でと言われても……、ねえ」
「コウちゃんならそう言いそうよね」
「うん、ボクもコウ兄ぃならそう言うと思ったよ」
「わたしも それでいいよ。たすけたあとで いっぱい おこってあげるけど」
「ほう、実に甘いのぉ。この甘さがいずれは命取りになるぞ、コウタ」
また皆から毎度のお小言を喰らう。
「と、とりあえず一旦神殿に帰って、チャットルームで方針決めよう。ここで話していると時間が経ちすぎるし」
「そうね、まずは撤退よ!」
◆ ◇ ◆ ◇
俺はチャットルームに全員を集めて、再度「将」救出計画を話した。
「我が孫ながら甘いな」
「そうよね、甘いと思うわ、私も」
爺ちゃん婆ちゃんも俺を甘いという。
「俺は外様で、兄上は助けたいと思うのも事実だけど、甘いと思うのも確かだ」
「わたしもそう思います。危険を犯して兄上を救うメリットがあまりありません。クロエお姉様を危険には晒せませんし」
「わたくしとしては、面白ければOkですが、皆さんの安全優先ですわね」
「僕はアイツ嫌いだよ」
「ワシは運命に任せるぞ。『将』に運があれば助かるだけの事。ワシに反逆した段階で普通は命が無いぞ」
魔神王・魔神将関係者は全員渋い意見。
身内とはいえ、この状態を引き起こした原因に対しては冷たく言うのも分からないでもない。
「私はコウタ君達には随分と助けてもらっているから、役には立ちたいが手を出せる範囲を超えてしまっているよ」
「それは私も同じよ、ススム君。私では力不足なの」
「うーん、姉御はそんなに弱いとは思わないよ。俺は兄貴の言う甘い事好きだよ。でないと、俺とっくの昔に死んでいるしね」
「タクの命の恩人じゃ。ウチとマヤはコウタさんの意見に従うぞ」
「うん、お兄ちゃんの恩人だものね」
ススムさんやアヤメさんは力不足を嘆き、タクト君達姉兄妹は俺を助けてくれるという。
「俺はコウタ坊の言う甘い戯言は嫌いじゃないさ。出来るなら何でもそうあってほしい、夢物語かもしれねーけど、それを適えるかどうかは本人次第。後は、コウタ坊が決めなよ」
グレイさんは、俺の意見を大事にしてくれている。
オトナだよね。
「私達は皆様が出した結論に従いますわ。まあ、コウタさんが甘いのはもうお約束ですけどね」
「その甘い冒険で、私達も随分と強くなったのも確かですぅ」
尼僧組は俺の意見に消極的賛成っぽい。
もう随分と俺と一緒に冒険してきたから諦めモードなのかもね。
「先輩って突撃するか、激甘な事言っているか、それだけですものね。最近は相談してくれるだけマシですね。でもそんな先輩、好きですよ、アタシ」
コトミちゃんは辛らつに言ってくれているけど、最後に俺を肯定してくれた。
「あーん、コトミお姉ちゃん! コウ兄はボクのモノなのぉ!」
「おねえちゃん、わたしのおにいちゃんだよぉ!」
うーん、意識体のはずなのに、両腕から「ふくらみ」の感覚があるのはどうしてだろうか?
「最終的には、俺はチエちゃんやマユ姉ぇの命令に従うよ。どうしたらイイ?」
「本来は総指揮はワシじゃが、身内では判断が甘くなる。母様、判断を頼むのじゃ!」
俺とチエちゃんは判断をマユ姉ぇに託した。
そしてマユ姉ぇは答えを出す。
「では、作戦を発表します。皆様が想像した通りの予定案でどうぞ!」
「やっぱりなのじゃな」
「うん、ボクもそうだと思うの!」
え、それはどういう事?
「ごめん、マユ姉ぇ。その想像した案って何?」
「え、言いだしっぺが一番分かっていないの? もう困ったわね」
マユ姉ぇは笑っている。
他の皆も俺を見て苦笑しているんだけど。
「だからね、コウ兄ぃ。皆一杯文句を言っていたけど絶対助けないっては誰も言っていないよね」
「そういえば、難しいとか甘いとは言っていたけど」
ナナは俺に笑いかけて話す。
「もう今更なんだもん、コウ兄ぃの激甘なお人好し」
「そうじゃな。もう慣れっこなのじゃ、皆。でもな、そのお人好しに救われた人々はワシも含めて多いのじゃ。出来る限りの事をするのじゃ! 駄目な時はまた考えればイイのじゃ!」
「ありがとう、皆!」
「おいおい、コウタ殿。本来感謝するのはワシら悪魔族じゃぞ」
俺は浮かんできた涙を拭って皆に感謝する。
ここまで来たんだ、最後までお人好しで押し通すぞ!
這い寄る混沌は、別世界への門が欲しいのです。
自らの本体、そして「外なる神々」を呼び込むために。
だから、空間を切り裂く魔剣シャドウスマッシュをも欲しがったのです。
しかし、コウタ君のお人好しは一切ブレがないね。
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