第262話 康太の魔神退治:その53「強襲 その6!:秘剣 五月雨」
「しかし、事情があったとはいえ、悪魔軍を裏切ったのは事実じゃ。じゃから、ワシは父上達から逃げたのじゃ」
〝だから、オレと手を組まねーか? 今なら宇宙の半分をチエにやるぞ〟
これってラスボス定番のお誘いだよね。
ここまでテンプレだと信じる要素って無いや。
「まあ、ここまでテンプレとはのぉ」
〝テンプレとはナンだ?〟
「いや、コッチの独り言じゃ! で、他の見返りはナンじゃ? 地球や母様達に手を出さないというのなら、少しは考慮するのじゃが」
チエちゃんは、分身体が両手を広げて時間稼ぎ中ってのをジェスチャーで表している。
本体は、せっせとタブレットに情報を打ち込みつつ、準備中。
さあ、俺達も討って出ますか!
◆ ◇ ◆ ◇
〝それは、チエが地球とやらの支配をすればイイだけの事。勝手にするがイイさ〟
「では、支配するまでに行われる破壊や殺戮は?」
〝そんなのは、必要な損害さ。オレ達が全宇宙を支配すれば、それ以降の戦争なんて起きないからな〟
チエは、『将』の言い方に腹が立った。
失われてしまった命は取り返しが付かない。
そして失われた物語や技術、人々の思いは永遠に帰ってこない。
何故に兄が、この大事な事に気が付かないのか、チエには理解できない。
「なれば、兄上は全宇宙を支配して何がしたいのじゃ? 何かやりたい事でもあるのかや?」
〝やりたい事? そんなの支配する事さ。全てが俺のモノ。これ以上の何があるのか?〟
「そうか、タダのジャイアニズムか」
チエは呆れた。
何か目標や、やりたい事があるのなら可能な限り手伝う事は、やぶさかでは無かった。
しかし兄の望みは、ただただ全てを手に入れたいという事だけ。
〝なんだ? そのジャイアってのは〟
「兄上、オヌシは悲しい存在じゃな。満たされない思いをモノで満たすとは」
〝チエ、一体何が言いたい? オレの味方になるのかどうか、早く答えろ。さもないと……〟
「さもないと、人質の先王陛下に秘宝の起動をさせるのかや?」
〝ナニぃ!? なんで、その事を?〟
「毎回思うが、兄上はアホか? 既に手遅れじゃ。ここまでの会話が時間稼ぎということに気が付かないとはな」
〝ほう、チエも時間稼ぎをして分身で相手をする作戦か。オレが同じ事を考えないとでも?〟
「そこも考慮済みじゃ!」
チエの分身体は、屋上に陣取った部隊に命令を下した。
「皆の衆、迎え撃つのじゃ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「さあて、ナニが出ますかな? 出来れば上位悪魔クラスは勘弁だな」
先王確保部隊は、砲撃の隙をついて城内に潜入し、チエが時間稼ぎをしている間に先王が幽閉されている塔の入り口まで来た。
グレイは、軽口をいいながらも警戒を緩めない。
「ほう、諸君らもココが目的地か」
後から聞こえた声に皆は振り返った。
そこには魔神将「将」が立っていた。
「あら、いきなり大将首かしら?」
「なら、こいつを倒したらリタちゃんも万々歳だな、ウタさん」
秋山老夫婦は、凄みのある笑みをする。
「魔剣も持たない人間風情がオレを倒せるとでも?」
「将」は後ろに引き連れた悪魔達にそこに待機命令を出した。
「先輩、チエお姉様? こちらボスのコピーを引き当てました。ボス本体は、そちらに行ってますから宜しくです!」
コトミは、タイル九十九神を展開しつつコウタやチエ、CPに連絡をした。
「お、そこのオンナ。よく俺が分身体だとよく分かったな?」
「だって、オーラ薄いんですもの。分身体と本体の見分け方はチエお姉様で勉強しましたから」
コトミはアカンベーを「将」にする。
「他にも妙に手の内がバレるし、手回しがイイと思ったら『草』、オマエが裏切り者かよ。いつのまに人間と繋がっていんだ?」
「その事に関しましては、ノーコメントで。全部ネタばらししてしまう『将』様程愚かではありませんですから」
「草」の挑発に牙を向き、獣じみた顔をする「将」。
「姫もいねーんだ。お前らに手加減する必要も無い。全員死ねよぉ!!」
「将」はグレイ達に飛び掛った。
「あら、残念。お話している間に呪文のチャージ間に合っちゃったわ。おばかさんなのね、悪魔さんって」
そう老婆が言い、呪文を展開した。
「ナウマク サンマンダ ボダナン バヤベイ ソワカ! 風天 烈風無尽紫雲斬!!」
老婆の上に上げた篭手を身に付けた両手の間に空間が軋むほどの空気が集合し、断熱圧縮で数百度まで過熱され赤熱化した球となる。
そして両手を前に差し出すと、その球は破裂して老婆の前面に放出された。
「なにぃぃ!」
その破裂した球から発生した風は、真空と高熱、そして強靭な紫雲糸を伴った竜巻状の暴風となって、老婆たちの前に立ち塞がっていた悪魔達を襲った。
「ぐわぁぁぁぁ!」
比較的狭い廊下内での戦闘であったため、悪魔達に暴風を避ける先は無い。
暴風に巻き込まれた上位悪魔達は真空と糸により瞬間的に寸断され、その肉片は断熱圧縮で発生した高熱によって発火した。
「くそぉぉ、ババァめ!」
なんとか踏みとどまった「将」分身体だが、全身が焼け焦げた上に切り裂かれてズタズタ。
「お命頂戴!」
そこにカレン尼は、同じくフルチャージをしていた呪文を放つ。
「ナウマク サマンダ バザラダン カン! 不動明王 破邪倶梨伽羅剣!!」
カレンの持つ武具、それはチエ作の万能宝具。
通常は、間合いが遠く使いやすい長巻として使っているが、今回は不動明王が手に持つ三鈷剣の形状をしていた。
そこに不動明王の持つ破邪火炎の力を全力で込めたのだ。
その剣から伸びる火炎剣をカレンは振りぬき、破邪火炎で出来た刀身が「将」に大きく食い込む。
それは、1年4ヶ月前、リタ姫を救うべくコウタが作った炎の剣と同質なのは、何の因果か。
「ぐわぉぉ、まだ、まだだぁぁ!」
なおも足掻く「将」分身体に突進する老人。
「これで仕舞ぇだ! 秘剣 五月雨!」
老人が霞の構えに持つ妖刀が幾重にも分裂し、その剣先が無数の突きになる。
「が!」
老人と魔神将がすれ違った後、双方とも動きが止まる。
「う」
しかし、次の瞬間老人がふらつく。
「正蔵さん!」
老婆の声が大きく廊下内に響く。
「すまねぇ、いきなり大技使ったから少し脳貧血したよ。大丈夫さ、ウタさん。ひ孫の顔見るまで俺は死なねーし、ウタさんともっと一緒に居たいしな」
そうカッコつけた老人は、剣先を振って血を払う。
そして先程まで剣先に刺さっていた宝玉らしき球が床に転がったのを足で抑えて踏み潰した。
びしゃぁぁぁ!!
それまで身動き一つしなかった魔神将分身体は、宝玉が砕けた瞬間、弾けて砂と化した。
「流石、ウチの魔窟に100年以上あった妖刀だな。ウタさん、事件解決後正式に俺にコレくれない?」
「もう、最後までカッコイイままでいてちょうだいな、貴方」
微笑みあう老夫婦であった。
爺ちゃん、婆ちゃんカッコイイ!
これから、戦闘シーンモリモリですよ。
では、ブックマーク、感想、評価・レビュー等を頂けますと、とても嬉しいです。
皆様、宜しくお願い致します。