第26話 康太の家庭教師:14日目「警察署で」
デーモン達を退治した翌朝、俺とマユ姉ぇは揃って所轄署に赴いた。
窓口で受付の婦警さんに聞くと既に中村警視はこちらに来ていて、すでに借りた会議室で待機中との事。
俺達は婦警さんに案内されて中村警視の待つ会議室へ入った。
「おはようございます。中村君、昨夜は無理言ってごめんなさいね。今日はちゃんと説明するから許してね」
「おはようございます、真由子さん。今日こそは色々言わせて貰いますからね」
それからマユ姉ぇと俺は今回の顛末を話した。
あまり関係ないとは思ったが、デーモン関連で関係ある可能性もあるのでリタちゃんの件も含めての話だったが、中村警視は目を白黒させて聞いていた。
「真由子さんが言わなければ、とても信用できる話ではありませんね。どこかのラノベ作者とかアニメ作家にネタを売った方がいいような気がしますよ」
俺も当事者じゃなければ同意見だけど、デーモンと何回も対峙するのは怖いんだぞ。
「でも現実なのよ。このように証拠もあるし」
そう言ってマユ姉ぇはリタちゃんのメディカルデータや大百足との戦闘映像、デーモン達の写真等を中村警視に提示した。
マユ姉ぇ、いつの間に写真なんて撮っていたんだ。
しかし、3匹のデーモンが「ナナによる小物無双」で呆れて口を開けている写真なんて実にシュールだよ。
「いや、真由子さんのおっしゃる事ですので信じてはいますよ。ただ、警察官としては対処できうる問題ではないですから困ります」
デーモンとかだと拳銃では効かないだろうしね。
「そこは私達が対処しますから、そういう事態になったら呼んで下さいね。お金は要りませんから、口止めとかして貰えれば十分なの」
「だから困るんですよ、真由子さん。警察が一民間の、それも霊能力者に頼って事件解決なんて上にどう説明すれば良いのか見当も付きませんよ」
そりゃ事件は解決したほうが良いけど、説明出来ない解決方法はお役所としたら困るわな。
「それは全部言わなければ良いと思うわ。それと確か警視庁の上のほうにもお父さんと関係ある方居たはずだし」
おいおい、まだ凄いコネあるのかよ。
どんだけウチの家系やらかしているんだか。
「あー、しょうがない、もうご自由になさってください。ただこれだけは約束してくださいね。命は大事になさって下さい。貴方達の命も我々警察が守りたい命ですから」
「ええ、それは絶対に守るわ。だから今後とも宜しくね、中村君」
「はいはい。それで真由子さん達は黒幕については何かご存知ですか?」
「SNSでの名前やデーモン達が話していた名前がナイトという事以外は掴めていないの。恵子さんから詳しい話を聞ければもっと分かるのだけれども。そういえば、彼女や他の3人は今どうなっているのかしら?」
「本来なら民間人には関係ないのですが、当事者ですので貴方方には特別にお話します。しかし他言は無用ですよ」
「ええ、分かっています」
「恵子さんは現在、某大学病院にて入院治療中です。これ、真由子さんが手回ししましたよね」
「あら、何の事かしら」
シラッと惚けているけど、マユ姉ぇの事だ。
何かやっているに違いない。
「まあ、良いんですよ。霊障なんて普通の病院じゃ手に負えませんから」
中村警視が呆れているのもしょうがない。
身内からでもマユ姉ぇは理解の範疇を超えている存在なのだから。
「他の3人は県の警察病院に収容しましたが、いまだ意識不明です。MRIやCTでは脳内に器質的異常は見られなかったものの、どんな刺激にも反応がないらしく治療方針も不明だとか。身元に関しては所有していた身分証で分かりましたが、彼ら全員の共通点としてSNSで例のナイトと接触していた形跡がありました。また彼らの周辺で不幸事が数件発生していました」
「つまり彼らも恵子さんと同じくナイトに唆されて、呪いとかに手を出して自分も破滅しデーモンの苗床になった訳なのね」
「ええ、おそらくは。ただ警察は呪いでは捕まえる事は出来ませんので、恵子さんにしろ彼らにしろ捕まえはしません」
中村警視は少し表情を緩めて話す。
「恵子さんの場合は運よく誰も傷つかず、ご本人も無事だったのは良かったです。近日中にお見舞いに行って、事情聴取兼ねて叱っておきますね」
「宜しくお願いね、中村君。恵子さんはもう十分反省しているけど、警察の人から捕まえないって言ってもらえれば、彼女も落ち着くわ」
「SNSの方は身元確認と犯罪に絡むという名目で調べておきます。何処の誰か判れば、犯罪幇助の名目でなら捕まえられますし。最悪の場合は真由子さん達にも出張ってもらう事になりますが、かまいませんよね」
「ええ、こっちからお願いしたいくらいよ。おそらくだけど、そのナイトはグレーターデーモン級以上の化け物だから注意してね」
「警察は悪魔退治の組織じゃありませんから、その際は頼みますよ」
中村警視は俺の方に向き直って話す。
「で、コウ君と言ったね。君も大変だろうけど、くれぐれも真由子さんを宜しく頼むよ。無茶ばかりしていて心配なんだ」
「俺のほうがマユ姉ぇに助けてもらってばかりですが、それでも俺は男です。女性を守るのは当たり前ですから」
「あら、真由子さん。甥っ子にお姉さんって呼ばせているんだ。まだまだ若いつもりなのかい? もう中学生の娘さんまでいるんだ。十分オバサンなん……!」
中村警視の言葉は途中で止まった。
マユ姉ぇから発する圧倒的な殺気に言葉を遮られたからである。
その殺気を受けて俺は「ちびりそう」になっているし、中村警視もおびえて硬直し涙目。
周囲の部屋からも、泣き声や叫び声が聞こえるのはどういった事だ?
屈強なはずの警察官がここまで怯えるマユ姉ぇの殺気って。
「中村くぅん。何言ったのかなぁ? お・ば・さ・??」
マユ姉ぇがむちゃくちゃ怖い。
早く発言を撤回するんだ、中村警視。
さもないと心臓が止まるぞ。
「お・ね・え・さ・ん、だよねぇ」
早く何とかしてぇぇぇ、俺の心臓まで止まりそう。
もう既に少しちびってるよぉ。
「はぁい、おねえさん、ですぅ」
恐怖で精神が壊れかけた中村警視、なんとか答えを紡いだ。
「そうよね、お姉さんよね」
一気に殺気が消えて、元のほんわかモードに戻ったマユ姉ぇ。
「はい、もー決して言いませんから許してぇ」
アラフォーのカッコいい優男が言う台詞じゃないよ。
でも俺はチビって硬直したけど、あの殺気を直接浴びて動ける分凄いのかもね。
「じゃあ、もう帰っても良いわよね。では後は宜しくね、中村君」
マユ姉ぇは、椅子から優雅に立ち上がって、
「コウちゃん、帰るわよ? あれ何しているの」
俺は椅子の周りとズボンの処理しているだけです。
「ちょっとトイレ借りてから帰るから、先に玄関で待っててね」
俺はトイレでズボンやらパンツの処理を行った。
最近マユ姉ぇと対峙する時間が長かった分、俺はこの程度で済んでいたが他の人はどうなったんだろう?
そう不思議に思い、トイレから玄関に行く間に窓口とかを見ると……。
うん、何も見なかった事にしよう。
そこいらじゅうで倒れている婦警さんとか、悶絶している屈強な警官とか、免許書交付に来ていて泡吹いている老人とか。
この世の終わりを見たような人ばかりだけど、俺は一応関係ないぞ。
俺は何も感じないようにして玄関で待っているマユ姉ぇと会う。
「あら、コウちゃん遅かったのね。そういえばここの警察署、何かあったのかしら、いっぱい人が倒れていて、救急車も来ているし」
救急車が数台、大急ぎで警察署の中に突っ込んできた風景を見て、俺はもう思考を止めた。
無意識の殺気だけでここまでの「殺戮ショー」を開催できる化け物相手に真面目に語るほうが間違っている。
後にリタちゃんに聞くと、マユ姉ぇは念話で強烈な殺気が飛ばせるらしく、射程距離内なら十分殺傷能力あるんだとか。
リタちゃんも一度マユ姉ぇに怒られた際、念話を通じてぶん殴られる衝撃で気絶しちゃったんだとか。
なまじ念話で会話を理解していた分、ダメージが強烈だったそうな。
俺、マユ姉ぇは絶対に敵に廻さないようにしよーっと。
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