第253話 康太の魔神退治:その44「リタ姫は諦めない その1!」
「うーん」
わたしは、起き上がって伸びをする。
ふかふかした布団がとっても気持ちいいの。
あれ、この天井ってウチじゃないよね。
旅館の天井でもない。
だって、天蓋つきのベットなんて和風旅館にあるはずないもん。
それにいつも抱っこしあっているナナお姉ちゃんが居ない。
でもここの天井やベットに見覚えがあるんだけど。
どこだったっけ?
「Edelfräulen!」
あれ、神聖語だ?
この声、聞き覚えあるの。
お爺ちゃんというか執事さんとかいう感じ。
「おう、やっと起きられたのじゃ! リタ姫様、お加減は如何なのじゃ!」
わたしは、あんまり働いていない頭を動かして、おいおいと泣きながら私を見つめる人を眺めた。
もう老人といってもおかしくない風貌で、長めの頭髪は真っ白。
おしゃれなちょび髭、そして長い耳。
「あ、Rupert! ルーペルトなのね。生きてたの、良かったぁ」
私は思い出した。
眼の前のルーペルトは執事、私の側使えをずっとしてくれていた人だ。
「それは、姫様こそでございます。王が崩御なされた時に、ご一緒に高みに昇られたかと思うておりました。しかし、このように美しくご成長なさったお姿を見て、ワタクシ感激でございます」
「ルーペルトはどうして無事だったのですか? 城内は悪魔の手に落ちたはずではなかったのですか?」
最近使っていなかった神聖語を一生懸命思い出しながら使うわたし。
そして少しでも姫様モードに戻らなきゃと思う。
ここ1年以上、ずっと日本語で考えていて「可愛いくて、お転婆な妹」モードをやっていたので切り替えが難しい。
どうやらわたし、向こうの姿が素で「お姫様」やっていた時は、かなり気を使っていたっぽいの。
頭の中も日本語で考えるクセがついている。
だって、日本語の方が使える言葉多いんだもん、わたし。
そう考えたら、日本の学校教育って凄いよね。
「はい、王や騎士の方々のおかげで城内の側使えや雑用を行うもの達の大半は無事に生き残っております。今は『将』様の元、御仕えしております」
皆が無事だったのは良かったね。
でも、「将」はどうしよう?
このままじゃ、わたし大変な事になりそう。
人質なのは間違いないし。
「そういえば、どうしてわたくしはここに居るのですか? 詳細を説明してくださりませんか?」
「はい、姫様。今から丸一日程前、『将』様が酷く傷ついたお姿で気を失われた姫様を連れて戻ってこられたのです。そしてワタクシめに、姫様を丁重に扱うようにと申し、姫様を預けられたのです。姫様のお召し物ですが、申し訳ございませんが姫様にお似合いではありませんでしたので、女官の手によって着替えさせて頂きました」
なるほど、戦闘用のジャージからネグリジェに着替えさせられている理由が分かったの。
わたしは、気絶する前の事を思い出した。
アリサちゃんを助ける為に防御結界から飛び出したわたしは、紐みたいな悪魔に捕まった。
そしてアリサちゃんから飛び出した霊体がわたしを助けようとしてくれた。
あの姿はエルフ、それに姫様と呼んでくれていた。
その後、霊体は「将」のブレスで焼かれて、わたしは「将」に咥えられたんだ。
そしてムリヤリ転送門に連れ込まれて気を失ったのね、わたし。
「うーん、だれか みおぼえあるんだよね。 あ! アンゲリカおねえちゃんだ!」
「姫様、今なんと申されました? 聞き覚えの無いお言葉を姫様が話されているのですが?」
「ええ、ごめんなさいね。つい、考え事をしていたのですわ」
危ないの、つい日本語モードになっちゃう。
アンゲリカお姉ちゃん、わたしが小さい頃良く遊んでくれた近衛騎士のお姉さん。
この星最後の日、わたしが門鏡で脱出する時に、わたしを捕まえようとしていた上位悪魔に体当たりをして、わたしが逃げる隙を作ってくれた人。
「そうか。おねえちゃん、あのときに なくなったんだ」
わたしは鏡からお姉ちゃんを呼んだ。
お姉ちゃんも一緒に逃げようと思ったから。
あの時、お父様も亡くなっていて、誰も近くにいなかったの。
だから、良く知っているお姉ちゃんが一緒に逃げられたらと思った。
でもお姉ちゃんは悪魔に殺された。
だって、その悪魔はすぐにわたしを追いかけて地球まで来たから。
そしてコウ兄ちゃんによって倒された。
多分、わたしが呼んだからお姉ちゃんの霊というか魂が鏡を通って地球に来たんだ。
「だから、ありさちゃんについたのね」
「あのー、姫様。先程から姫様が話されているお言葉の意味が分かりません。姫様に何かあったのですか?」
「ごめんさいね、ルーペルト。わたくし、逃げ延びた先で新しく言葉を覚えて、いつもその言葉で話していたので、ついそちらの言葉で話してしまうの」
「そうなのですか。姫様がご無事なら、問題ありません。しかし、姫様。よくぞ2年近くご無事でお美しく成長なさったものです」
ルーペルトはわたしの顔を眺めてさめざめと泣く。
「向こうで沢山の方々に助けてもらいました。そこはここから遠く離れた星で、わたくし達とは少し違いますが優しい方々が多く住む美しいところです。そこでわたくしは、新しく家族、父母と姉2人、兄を得ました。そして今度、妹が生まれる予定ですの」
「は、それは一体どういう意味でしょうか? 姫様はどうやってそのご家庭に入られたのですか?」
ルーペットは首を傾げた。
そうね、わたしも昔なら不思議に思ったよね。
リタちゃんが諦めずに頑張るお話、その1です。
日本での生活が長かったリタちゃん、姫様からすっかりお転婆お嬢さんになってしまっています。
まあ、書いていて筆者は、にんまりしてしまうくらい可愛いんですが。
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