第252話 康太の魔神退治:その43「魔神王、ラブラブされる!」
「うぅぅ!」
頭を抱えながら起き出す魔神王。
「貴方、大丈夫かしら? 怒りと愛の親子ダブルパンチ、効いたでしょ。あたくしも余波かつ防御結界越しでも危なかったのですもの」
魔神女王は、「おほほ」って感じで王を見る。
「なんだ、今のは。怒りの感情は、まだ理解できる。今までも、これほどでは無いとは言え、戦いで幾度も浴びてきたからな。しかし『愛』とはナンだ? 何か、こう存在を揺るがされる感じがしたぞ」
王は、少し落ち着いたのか身体を起こし、あぐらをかいて俺達を見下ろした。
「確かに普通の悪魔の生活では感じない感情ではあるのじゃ! しかし、本来知的生命体が持つであろう感情であるし、ワシは母上からも十分感じるのじゃ!」
幼女形態に戻っているチエちゃんは王を見上げ、お得意の「ドヤ」ポーズをした。
「あら、ありがとうね、チエ」
「どういたしましてじゃ!」
チエちゃんは女王にニコリと笑いかけてから、王の方を見る。
「別にワシも悪魔たる本質を捨てよとは言わぬ。ただ、ワシらにはワシらの理屈、人間には人間の理屈がある事は理解して欲しいのじゃ。無闇に襲うばかりでは、お互いに不幸になるだけじゃ。出来れば共存共栄が望ましいのじゃ! まあ、難しいのは分かるのじゃがな」
チエちゃんはそう言って、マユ姉ぇに抱きつく。
「という事で、共通の敵になってしもうた兄上を懲らしめるのに協力して欲しいのじゃ!」
「王様、私からもお願いします。リタちゃんは異星の生まれとは言え、1年半近く一緒に暮らした、もう私の娘なんです。娘の奪還に協力をお願いします」
「王様、ボクからもお願い。妹を、リタちゃんを助けるのを手伝ってもらえませんか?」
「俺からもお願いします、王様」
チエちゃんだけでなく、マユ姉ぇ、ナナ、俺も王に頭を下げた。
「勝負に負けたワシは何もいえぬ。それにワシも面白い体験をさせて貰った。まさか魔神王に友にならんかという酔狂な幼子が居るとはおろうとは思わなんだ、ははは!」
王は豪快に笑う。
そんな様子に、当のナナはキョトンとしている。
今まで、悪魔だろうが妖怪だろうが幽霊だろうが「古のもの」だろうが友達にしてきたナナにとっては、自分の発言なんて当たり前なんだろうね。
「よし、ワシもチエの悪巧みとやらにかませろ! それで全部チャラだ」
「あら、貴方も面白いのが好きなのね」
「いいでは無いか。最近娯楽が少ないから飽きていたんだ。戦争もいまひとつ面白くないし、オマエも相手してくれんし」
「そうね、今の貴方なら、後でゆっくり種付けをしても宜しくてよ」
王に寄り添って、身体を密着させる女王。
まさか悪魔の母星でイチャイチャを見せ付けられようとは思わなかったよ。
「父上、母上。俺恥かしいです」
「『槍』や、これはしょうがないのじゃ。どうも母様やナナ殿のラブラブ光線受けたモノは、大抵こうなるのじゃ。しかし、今になってナナ殿の立場が分かったのじゃ。確かに両親に目の前でいちゃつかれると恥かしいのじゃ!」
「えー、ボクそんなにラブラブしてたのぉ? コウ兄ぃ、今日はまだイチャイチャしていないよね?」
魔神将達が恥かしそうにしているし、近衛の女性上位悪魔の方々が悶えている。
朧さんは、もうマユ姉ぇ夫婦で慣れているので、ため息だけだけど。
しかし、そういう隙をついて俺の腕を抱えて「ふくらみ」押し付けるナナもどーかと思うぞ。
「ま、まあ、これで一件落着かな。王様や女王様の協力を取り付けられたんだから」
「そうじゃな、まあ結果オーライじゃ!」
俺達に悲痛な戦いはムリ。
こうやって笑いながら勝って行こう、これからもね。
ただ、チエちゃんや。
俺とナナだけでなく、自分の両親のイチャイチャシーンをハイビジョン撮影するのは、どーかと思うぞ。
◆ ◇ ◆ ◇
「これをペッタンで治るのじゃ!」
チエちゃんは王の裂けた頬に手持ちのマテリアルを張りつけた。
自分の義体製造時のノウハウを使い、「調」やカズヤ君の再生に用いたマテリアルだ。
「ほう、これはスゴイな。今までなら高速再生呪以外はゆっくり治すしか無い傷が治ったぞ」
俺の魔剣で出来た傷は、治りが遅い。
存在のあり方すらも切るからというのは本人から聞いたけど。
「他の細かい傷もコレを使うのじゃ! 父上が怪我しているのを放置はイヤなのじゃ!」
チエちゃんは、にっこりと王に笑いかける。
「おぉ! チエや、オマエの『愛』も随分と効くぞ!」
「そうなのじゃ! 母様直伝なのじゃ!!」
マユ姉ぇは、年上の娘の様子を微笑ましく見ている。
「では、作戦会議じゃ! あまり時間は無いのじゃ。出来れば後48時間以内に奇襲をしたいのじゃ! ならば、兄上は碌に準備も出来まい」
まだリタちゃんが連れさらわれて20時間も経っていない。
このスピード勝負、時間感覚が長めの悪魔にはついてこれまい。
「ほう、えらく急ぐのじゃな。ワシらの計画は大抵惑星公転周期単位じゃから、まさか自転周期単位で攻められるとは思うまいて」
「兄上は後9日までは待つと言っておった。なら、その半分以下で攻めたら、うろたえる事請け合いじゃ!」
「あら、すごいわ。流石は悪魔族有数の悪知恵のチエだこと」
「褒めていただき、ありがとうなのじゃ! 母上」
うーん、褒め言葉なのかなぁ。
これもデーモンジョークなの?
とりあえず、今のところはチエちゃんに相談はお任せ。
久しぶりの親子会話楽しんでも欲しいしね。
「という事なので、母上には兄上の居城や軍勢の情報を教えて欲しいのじゃ。見取り図、人員配置などなど。潜入部隊の進入・撤退ルート確保もお願いするのじゃ!」
「ええ、分かったわ。向こうの『草』に色々頼んでおくわ。リタ姫の事も守ってもらうようにもね」
「ありがとうなのじゃ! これでリタ殿の安全も確保なのじゃ!」
情報戦に長けた女王とチエちゃんが組めば負けは無いぞ。
「ところで、ワシはどうしたらいいのか?」
「父上は、兄上のターゲットじゃろ。うかつに行くと鴨ネギじゃ」
「なんじゃそりゃ?」
「様は、マンマと罠に嵌りに行くという事じゃ。じゃが、そこを逆手に取ってワシラの撤退時に……」
ごにょごにょと王の耳元まで浮遊して耳打ちするチエちゃん。
それを楽しそうに聞く王。
良かったね、チエちゃん。
お父さんとも仲直りできて。
「ほう、それは面白い。大暴れしてもいいんだよな?」
「兄上を殺さぬ程度なら後はどーでもいいのじゃ。父上に対して攻撃してきた段階で大義名分はたつのじゃ!」
実にエゲつない。
俺だけでなく父親すら囮として使うチエちゃん。
しかし、その実力を信じつつかつ、騙さずにちゃんと説明して使ってくれるから、気持ちよく戦える。
チエちゃんって直接戦闘よりも武将として差配するのが上手いんだろうね。
どーもチエちゃんがしゃべると台詞がどんどん増えます。
また、何故か王様と女王様がラブラブモードへ。
子供が夫婦の鎹というのも、案外本当なのかもね。
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