第25話 康太の家庭教師:13日目「後始末」
デーモン達を片付けた俺達だったが、困った問題が発生していた。
もう敵の気配も無く、おそらくこれ以上の追撃は無いだろう。
なので、俺達だけなら森林公園から何もなかったように逃げることが出来るのだろうけど、デーモンの憑依になっていた被害者が3人とも昏倒したまま残っている。
マユ姉ぇの診断だと全員とも呼吸脈拍とも問題なさそうなので、すぐ命の危険がある訳ではないけれど夜の公園に放置というのも人道上宜しくない。
なので、マユ姉ぇ知り合いの警察関係者経由で警察と救急の方々に動いてもらう事になった。
「コウちゃんは武器を私に渡して、一旦バイクで公園駐車場まで行って。そこから警察や救急の人をここまで案内してね」
「独鈷だけで良い? 三鈷杵は銀だから大丈夫でしょ」
「独鈷を持ち込む理由に使うから一緒に頂戴ね。ナナも小柄さんは私にちょうだい」
「しょうがないなぁ。小柄さん、お母さんのところへ行って」
分身を消した小柄は、ゆっくりとナナ姉ぇの手元へ移動していった。
「他の子達も警察の人がびっくりしたらダメだから袋に入ってね」
ぐっちゃんサンや狛犬達もそれぞれの所有者の袋へ入っていった。
「恵子さん、ここまで話が大きくなるとナイショで貴方の治療は難しくなったので、すいませんが一旦救急の方の指示に従って下さい。決して悪いようにはしませんので、お父様もご安心下さい」
「はい、分かりました」
「あと、リタちゃん。耳隠してね」
「うん、おかあさん」
ナナやマユ姉ぇには色々聞きたいけれど、時間が無いので急いで移動しましょ。
「それじゃ、行ってくるね」
俺が駐車場に到着してから10分もしないうちにパトカーと救急車が数台ずつ現れた。
俺は手を振って警官や救急の方々に知らせた。
「どこに倒れている人が何人いますか?」
救急の人は状況を聞いてくる。
「この森の奥に意識の無い人が3名倒れています。また意識はありますが、怪我をしている人も1人います。俺が案内しますので、付いてきて下さい」
「貴方には後でお話を聞く事になりますが、宜しいですよね」
さすが警察官、簡単には逃がしてはくれない。
「はい、向こうにも説明してくれる人がいまして、その人元看護士なんですが、その人が倒れた人を見ています」
「では、急ぎましょう。案内宜しくお願い致します」
俺が救急や警察の方々を案内して現場に到着した頃には戦闘の後は全く感じられず、マユ姉ぇ達は森に遊びに来た家族が負傷者を発見した風を装っていた。
「救命救急ありがとうございます。後は我々で引き継ぎます」
「いえ、これも市民の義務ですから。それと彼女が顔を怪我していますので、診て上げて頂けませんか?」
「はい、お嬢さん痛みはありますか?」
「いえ、今はありません」
「では、お嬢さんも一旦我々と一緒に病院へ行きましょう。この子の保護者はどなたですか?」
「はい、私が父です」
「では、ご一緒に来てください」
手際の良い救急の方々によって意識不明の3人と恵子さん、付き添いのお父様は数台の救急車によって病院へと向かった。
残る我々には、警察の取調べが待っていたはずだったが……。
「すいません、到着が遅くなりまして」
妙に軽い口調で現れた人物、ラフな着こなしの背広の長身優男。
周囲の制服警官が敬礼を返しているところ、私服警官、それもそこそこ偉い人らしい。
「中村君、遅いわよ。もっと早く来ないと」
「ごめんね、真由子さん。警視ともなると忙しいから昔みたいに軽快には動けないよ」
30代後半くらいに見える優男だけど、警視となると確か地方警察署長クラス。
なら俗に言うキャリア組のエリートじゃないか。
何故にそんな優秀な警察官がマユ姉ぇの知り合いなんだ?
「そうだ、皆に紹介するわね。この人は中村守一君、私の同級生で警視庁採用の警視さん。今は隣の市の警察署の署長代理さんなの」
エリートさんが経験を積む為に地方行脚ということだね。
マユ姉ぇの同級生なら「色々」知っている事であろう。
「で、この子達が私の娘、ナナにリタちゃん。リタちゃんは事情があって預かっているの。そして甥のコウちゃんにその家庭教師の教え子のカオリちゃんね」
「リタちゃんの事なら正明さんから直接聞いています。また無理難題やったんですね。それと今回も色々やった訳ですか?」
「えー、どうして私が何かやった事になっちゃうのよ。今回の私は、コウちゃんのお仕事の後片付けしただけなのにぃ」
どうやらマユ姉ぇが「色々」やらかす度に中村さんがもみ消しているらしい。
「いい加減、僕の仕事を増やすのをやめていただけませんか? 昔からどれだけ貴方には困らせられたとお思いですか?」
「そうなのかなぁ? だっていつも私がやっているのは人助けなのに。今度も5人も助けたけど」
「ええ、だから余計に困るんです。悪意があれば逮捕も出来ますが、人助けしているんだから、お小言以上言えなくて困っているんです。第一、呪いとか魔法で人を攻撃しても警察では捕まえられないんですよ!」
あー、こりゃ大分マユ姉ぇに困らせられているよ。
表ざたに出来ないからこそ逮捕も出来ず、いいとこ「お小言」しか言えないんじゃねぇ。
「で、今回はどういう事態なのか、一旦署に来ていただいて説明していただけませんか? ウチの署は管轄外なので、こちらの署をお借りしますが」
「今からですか? もう夜遅いから子供たちは家に帰したいのですけれど」
「はいはい、分かりました。明日、そのコウちゃんと一緒に二人で署に来て下さい。来られる前に電話は下さいね」
「はい、では朝9時過ぎにはお伺いしますから宜しくね、中村君」
「これ以上、昔惚れた弱みに付け込まないで下さいね」
「はいはい、その代わりまた何かあったらお手伝いしますから」
あら、中村さんマユ姉ぇにプロポーズして振られた口なのね。
そりゃ今でも超美人のマユ姉ぇ、高校生くらいなら凄かったんだろうなぁ。
「じゃ、皆帰るわよ」
俺達は中村さんが制服警官達に詰め寄られているのを見ながら公園を後にした。
もちろん、わんこも忘れずに保護してお母様の待つ恵子さんのお家に送った。
しかし中村さん、どうやって制服警官の人達に説明するんだろうね?
マユ姉ぇが関与した以上の事は何も聞き出せていないのに。
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