第249話 康太の魔神退治:その40「魔神王、現れる!」
「『知』、ようもワシのおる星に来られたものだ!」
女王謁見の間に現れたのは、魔神王だった。
身長5mは超える巨人、捩れるも立派な4本の角を持ち、2対4枚の羽を背中に、そしてドラゴンに見間違うほどの立派な尻尾を持つ。
青黒い肌の各所には隈取、金色の眼は2対4眼、ロバの耳、口元には大きな牙、しかし案外と端正な風貌でどことなくチエちゃんの悪魔形態と似ている気がする。
「あら、貴方ここは次元結界で閉じていましたのに、どうして来たのかしら。まだ次回種付けには早いですわよ」
「そ、それはまた今度だ。『知』、オマエは同族を裏切って何故にのうのうと生きて女王の前に顔を出せる? それに『槍』、何故にワシに『知』の生存を知らせなんだ!」
あら、もしかして怖そうな魔神王って嫁さんの尻に敷かれているのかな。
「今回チエを呼び出したのは、わたくしですが。それに『槍』にチエの生存を隠すように言ったのはわたくしですわ」
「何故、オマエはワシに何でも隠すのじゃ!」
「だって、貴方すぐにお怒りになって全部破壊するんですもの。もったいないですわ」
女王が全部ややこしい事を被ってくれるつもりらしい。
俺達の方へ、ウインクしてくれている。
「そのチエというのはなんじゃ!」
「『知』の名前ですわ。どうも気に入らない事がいっぱいあったらしく、昔の名前がイヤになって自分で同じ意味の言葉で付け直したそうですわ」
チエちゃんがびっくりしているのを見るに、女王の言葉は事実っぽい。
女王の情報収集能力は侮れない。
俺達についても詳しいし、今も俺達の周囲に間者が居るのでは?
「すいません、マスター。私が情報を流していました。その代わり皆様を守りきる力を与えて貰っていました」
ひょいと現れる「朧」さん。
なるほど、俺達全員の情報に詳しいのも、朧サンが上位悪魔でありながら魔神将クラスの力持ちなのも納得。
「オマエ、主を差し置いて何をしておるのじゃ?」
「女王から直接連絡がありまして、皆様の安全と引き換えに情報が欲しいとのことで、申し訳ありませんでしたが、色々としておりました」
朧さんとしては、生みの親の親、お婆ちゃんからの命令、かつ主の安全と引き換えならしょうがないよ。
「チエちゃん、朧さんを攻めちゃダメだよ。おかげで話が早いし、うまくいきそうなんだから」
「そこは理解しておるのじゃ! しかし、悪魔族でワシしか使いこなせぬはずの嘘を朧に使われたのがシャクなのじゃぁ!」
チエちゃん、理性では分かっているけど感情じゃ納得できないだろうね。
「しょうがないから、事件が完全解決したら、銀座一流ホテル出入りのスイーツを全員分買って来るのじゃ。支払いはワシがするから、必ずリタ殿の分もじゃ!」
「御意! マスターの温情に感謝致します」
ポーズで怒ってみせて、スイーツで収める度量。
これがチエちゃんだよね。
「細かい事はどうでも良い! そのチエはどうしてココにおる?」
「それは逆賊『将』討伐の命を与えたからですわ」
「なにぃ! どうして『将』が逆賊なのか? チエこそが逆賊では無いか?」
王は女王に尚も食って掛かる。
「そこがマチガイですわ。チエが反抗したのは『将』配下の侵略軍。わたくし達に対してではないですわ。しかし、『将』が反抗しようとしているのは王を含むわたくし達。それにチエが犯罪者として訴えられたのは『将』配下からの情報でしょ。ならば『将』がチエを陥れようとしたかも知れませんわ」
必殺、悪いのは全部「将」作戦。
この口の回りようが、チエちゃんのお母様というべきか、女王様というべきか。
「そうじゃ、ワシは侵略軍の意味の無い虐殺がイヤじゃっただけで、悪魔全体を敵に回す気は無かったのじゃ。だからこそ、今日まで数百年ひっそりと暮らしてきたのじゃ!」
チエちゃんも嘘は言っていないよね、「将」が陥れようとしたという事実は無いけど。
「うむむ、どちらが本当の事を言っておるかわからぬ。基本的に悪魔族は嘘をつけぬ。その中で虚偽を得意とするチエの言う事を全面的に信用するのも危険だ」
「あら、じゃあわたくしがチエに騙されているとでも? そんなにわたくしはバカなのかしら、なら、「将」に下剋上狙われている貴方はもっとバカよね」
王を煽る女王。
王様、どんどん顔が赤くなるけど言い返せずに、ぐぬぬって感じだ。
「まあ、力を重視する貴方にあった賭けをしない? チエとその仲間と貴方が戦って勝ったほうがその意見を通すでどうかしら?」
えー、女王!
俺達をそんな舞台に持ち上げないで下さい。
魔神王相手なんて死んじゃいますって。
「もちろん、ハンデとして一撃で殺す攻撃は無し。殺した方の負け。意見を聞かせる話しですし、王になにかあったら本末転倒ものですわ」
イタズラっぽい顔で話す女王。
うん、確かにチエちゃんの母親だよ。
その表情といい、悪辣さといい、利用できるものは何でも使う精神。
エゲつなさがそっくり。
「チエちゃん、キミはお母さん似だね」
「うむ、今ワシも実感したのじゃ」
「あらあら、大変」
「お母さん、大変じゃすまないよぉ」
「おう、受けてたとう! ワシが正しいに決まってるぞ!」
ああ、脳筋だよぉ王様。
◆ ◇ ◆ ◇
「さて、マユ姉ぇ、チエちゃん。こうなったらやるしかないよね」
「そうねぇ。ここで王様も味方にしちゃうと、チエちゃんも地球も安泰よね」
「そうじゃな。父上は力至上主義じゃ。ここいらで鼻折っておいて大人しくしてもろた方が今後の為じゃ」
うんうん頷きながら話すチエちゃん。
「しかし、父上と戦える、それも殺し合いじゃねーのは楽しいな」
戦いが嬉しい「槍」さん。
「あれ、『槍』さんって俺達の味方で良いの?」
「ああ、言っただろ。俺はお前達と一緒に戦いたいって」
「ありがとうね。猪鍋の他にもう一品考えなきゃ」
「おー、それは楽しみだぞ」
「槍」さん、すっかり胃袋掴まれているけど、いいのかい?
まあ、気持ちのイイ味方が増えるのは嬉しい事だよ。
「もうお母さんもコウ兄ぃも大丈夫なの? 『将』よりも強いんでしょ、王様」
「そうだよね。まあ前哨戦で殺し合いじゃない分気楽だけど」
「あら、『将』は大分パワーアップしているわよ。貴方達が倒したのは全部分身だし、本体は今頃バケモノ一杯融合しているらしいわ」
俺達の会話に割り込んでくる女王様。
「それはマコトか、母上」
「ええ、内部に仕込ませた『草』からの情報だから間違いないわ。貴方方のお姫様は、一応丁重に扱われているようね。だから安心してね」
この女王様が一番強い、俺はこの時実感した。
このヒト、敵に回したら絶対勝てない。
「あら、大丈夫よ。わたくしは地球は、このままのほうが美味しいから放置する予定よ。だって負の感情も正の感情も強いし、食べものも美味しい星は大事にしなきゃね」
うん、絶対勝てないよ。
俺達が味方になる事まで計算して行動しているんだから。
「そうよ。貴方方って面白いし、そこそこ強いし、役に立つんですもの。わたくしをいつまでも面白く思わせてね」
すまし顔の女王、恐るべし
「チエちゃん、貴方のお母様すごいね」
「うん、怖く無いけどすごいよね。ボク、こういうヒトも好きだよ。リタちゃんの事教えてくれてありがとう! 王様も嫌いじゃないよ。うろたえ方なんてチエ姉ぇそっくりで、なんか面白いもん」
ナナは女王に「ひまわり」の笑顔で笑いかけた。
「すいません、その無条件の好意頂いたらわたくし悶えてしまいますぅ」
「なんじゃ、この感覚は。くすぐったいぞぉ」
あら、女王ってナナに弱いのね。
王様にも効果ありっぽい。
御付の近衛兵の方々は、耐え切れずにピクピクして気絶してるよ。
「どうやら最強はナナ殿の笑顔のようじゃな」
「うん、そうだね」
「そうよね、笑顔は最強よ。ナナ、笑顔を絶やさずにね」
「? ボク、また何かやっちゃったの?」
きょとんとしながらも笑っているナナ。
俺の心にもナナの笑顔は効果絶大だもんね。
女王様、流石はチエちゃんのお母様。
すっかり美味しいところを持っていきます。
そして最強は、ナナちゃんの笑顔。
女の子の無垢なる笑顔は、誰も勝てません。
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