第248話 康太の魔神退治:その39「魔神女王との会談!」
「よくいらしてくれました。マユコ様。そしておかえりなさい、チエ」
ここは魔神女王の謁見の間。
女王、全長5mを越えようとする巨体で、下半身は下腹部が膨れた大蛇様の形状をしている。
角は小さいのを含めると左右5本ずつ、背中に大きな1対の羽を持つ。
異形ではあるが、表情は柔らかく「たおやか」。
どことなく「調」に似ている気がする。
そして部屋全体に甘い匂い、そう母親っぽい匂いがする。
「ただいまなのじゃ! 母上」
「始めまして、私が岡本 真由子です。娘さんをお預かりしていますのに、今までお知らせせずに申し訳ありません」
普通の親同士の会話っぽいのをしているけど、絵面はスゴイよね。
かたや年齢不詳チート若妻、かたやデーモン族の女王。
「いえいえ、チエは思い込みで暴走するし、泣き虫だし、ワガママだしご迷惑をおかけしていませんか?」
「いえ、とってもいい子ですよ。ホント悪魔とは思えないくらい」
「あら、そうなの? 良かったわね、チエ。イイ人がお母さんになってくれて」
「そうじゃ、母上も母様も、どっちも自慢のママじゃ!」
すっかり和やかなんだけど、これでいいのかと不安になるのは考えすぎかな?
よくこんな穏やかなヒトが女王なんてしてるよね。
「そちらの坊やとお嬢さんはどちらかしら。ご紹介願えないかしら」
「はい、俺は功刀 康太と申します。真由子さんの甥になります」
「ボ、えっとわたしは岡本 奈々。真由子の娘です」
俺達は女王に挨拶をした。
「なるほどね。マユコさん含めて魔力の質が似ているから血族とは思っていましたが、皆さんなかなか御強いのね。特にコウタ君は見事な魔剣を持っているわ」
魔剣は今回持ってきていないけど、霊的ラインを見抜いたらしい。
流石は女王。
「さて、本題に入りたいけど、宜しいかしら」
女王は本題を切り出した。
「今回、マユコ様とお話したいのは、我が愚息『将』の事です。彼は魔神将の中でも王の気質、残虐性を強く引き継いだの。その上に中途半端にわたくしの知性を引き継ぎ、そして考え無しの野望を抱いたの」
ふむ、チエちゃんが知性派なのは母親似なんだ。
「王はまだ分別がありますから、無意味な虐殺はしませんが、『将』の血筋に連なるもの達は以前より「やりすぎ」の傾向があります。今までは我らの生存範囲拡大の為に少々の荒事は放置してしておりましたが、今回の反逆は見逃せません」
王は、まだ議論の余地があるんだ。
それは良かった。
「すいません、質問がありますが宜しいですか?」
俺は女王が話し終わったタイミングを待って話した。
「ええ、いいですわ」
「チエちゃんが反逆したのは宜しいのですか? もちろん今許されていらっしゃるようですが、気になりまして」
「そうね、家族の事だから気になるわよね」
女王は、俺達がチエちゃんを家族としてみている事をご存じの様だ。
「確かにチエの罪は敵前逃亡、離反行為、同族殺戮。不名誉除隊で済む内容ではありませんわね」
「そうじゃな。ワシも罰を受ける覚悟はあるのじゃ。ただ、リタ殿を救うまでは待って欲しいのじゃ」
チエちゃんはお母様に謝罪をする。
ただ、罰は待って欲しいと。
「でも、それはチエが自己報告して初めて明らかになった事。そしてもう数百年前の事ですし、『将』直属上位悪魔の暴走もあった。十分時効よ」
「え! 母上、それでイイのじゃ?」
「だって、今まであの星で負けた理由が分からなかったのですもの。もう今更だわ。それに随分苦しんだんでしょ。なら良いわ」
この懐の太さ、これが女王の器か。
「これからチエには『将』討伐に励んでもらわないといけないし、マユコ様怒らせたら、わたくし無事じゃすまないものね。コウタ君も怖いし」
笑いながら俺達を見る女王。
俺達の戦力を見抜いているのも、やりおる。
「つまり、ここで俺達を敵に回すよりは味方に引き込んでおけば、自分達は何も被害なしに『将』を討てる、というお考えなのですね」
「あら、御明察。確かにチエは可愛い娘ですが、女王である以上利用価値を考慮いたしますもの」
急に冷たい表情を一瞬だけした女王。
その殺気というか冷気にぞっとする俺達。
こりゃ、さっきの発言は嘘だぞ。
自分は絶対勝てると信じているモノの言葉だ。
「まあ、大儀名分はそんなところね。本音を言えば、チエ、『槍』、『調』を仲間に引き入れてしまう貴方達に興味があったの。どんなヒト達かって。だって『槍』なんて、この前まで暴れん坊だったのに、貴方達と一緒に戦って以降、楽しい楽しいって話ばかりするんですもの」
「母上、恥かしいです!」
表情を元の柔らかなものに戻した女王。
この2面性が女王として君臨する強さなのだろう。
「では、リタ姫奪還計画にご協力願えるのですか?」
「ええ、良いわよ。こちらからの条件は、『将』の野望を砕く事。出来れば、昨日の『騎』みたいに生け捕りしてくれたら嬉しいわ。もちろんムリにとは言いません。殺してもしょうがないですわ」
「騎」は昨日迎えに来た女王直属近衛隊上位悪魔に渡した。
しかし、上位悪魔でも女性だと「おどろおどろしい」感じでは無く、キツメの美人さんが殆どなのは少しびっくり。
今も女王の周囲の警備をしてくれている。
「こちらはリタちゃんを奪還できれば良いですし、おそらくですがリタちゃんが野望のキーカードみたいですから、そちらの目標にも合致しますわ。生け捕りに出来るかどうかについては努力してみますとだけ申します」
「ええ、それで良いわ」
マユ姉ぇの確認で女王から作戦への協力を取り付けることが出来た。
「ありがとうございます、お母様。ボク、チエ姉ぇのお母さんって怖いヒトかもって思っていたのだけど、優しいヒトで良かったです」
「あら、わたくしが怖く無いのですか?」
「うん、だってチエ姉ぇや『調』『槍』お兄さんのお母さんだもん」
ナナの「ひまわり」の笑顔からの必殺「怖くないよ」、四度目の炸裂!
「なるほどね。チエ、これはわたくしも勝てませんわ」
「そうじゃろ。ワシも一撃でやられたのじゃ!」
「だよな。俺もイチコロだったよ」
どうやら半分精神生命体の悪魔族にとってナナの好意は強烈らしい。
母親の怒りが悪魔にとって致命的なのと反比例しているのかもね。
周囲の上位悪魔達もイイ意味で悶えている。
「あら、すいません。ウチの娘がご迷惑をおかけしたみたいで」
「いえ、普段貰わない好意というか『愛』という感情が凄かっただけですわ。確かにチエや『槍』が骨抜きになる訳ですわね」
「そうじゃろ、そうじゃろ。ナナ殿の天然聖母っぷりはすごいのじゃ!」
きょとんとして自分が行った結果を理解していないナナ。
でもいいんだよ、ナナ。
意識した感謝よりも無条件の感謝や好意はステキだもの。
そうしたふんわかとしていた処に急に大きな力が現れた。
「『|知《ノリッジ』、ようもワシのおる星に来られたものだ!」
それが魔神王だ。
意外な事に優しげな雰囲気の女王。
拍子抜けしたコウタですが、その裏にある冷徹な一面を見て女王の格を納得です。
しかし、ナナちゃんの笑顔は威力抜群ですね。
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