第242話 康太の魔神退治:その33「一瞬の油断」
「それ!」
俺は「将」の右手義手を切り落とした返しで、魔神将の左手に向けて魔剣を切りあげた。
「ぐわぁぁ!」
魔剣は防御結界を紙のように切り裂き、「将」の左手もヒジから先が切断された。
「これで勝負ありじゃ! 兄上、観念せい!」
「将」は両腕を無くし、膝まづく。
そこにチエちゃんは剣を突きつける。
「ぐぅぅ、何故俺達が負けるんだぁ!」
「そんなの決まっておろう。策の練り方が足らんのじゃ! そして兄上には『愛』が無いのじゃ! 愛ある戦士に負けは決して無いのじゃ!」
チエちゃん、それどっかのアニメから台詞とってきていないかい?
俺は、周囲の戦況を確認する。
「コウタ兄ちゃん、僕勝ったよぉ!」
「『騎』、オマエ馬鹿すぎるだろ? 普通にやっていて1対2の段階で勝てる訳ないだろ。少しは頭を使えよぉ」
「くそぉぉ!」
「騎」は手足をもがれて、羂索でグルグル巻きにされている。
カレンさんがやってくれたらしい。
「コウちゃん、終わったかしら? こちらは全員無事に敵を殲滅したわよ」
マユ姉ぇが、にこやかな顔でこちらに近づく。
魔獣、おそらく30頭ですまない量を投入していたのだろうけど、マユ姉ぇの初撃で攻撃のタイミングをずらされた上にバラバラに分散され、そこを各個撃破された形だ。
「おのれ、おのれぇ!」
「『将』兄上、観念するのじゃ! オヌシの企みは全て母上はご存知じゃ。まもなく母上の近衛兵が捕縛にくるのじゃ」
あら、チエちゃん、お母さんに連絡をつけていたのね。
お母さんと話せて良かったね。
「何故、俺が罰せられなければならんのだ。悪魔同士の闘争は日常。父親殺しも普通だろ?」
「まあ、それはワシも否定はせぬ。しかし、兄上はやり過ぎたのじゃ。兄上は一体どれだけの惑星を滅ぼしたのじゃ! ワシらは知的生命体がおらねば生きていく事かなわぬのじゃ。なのに、全て攻め滅ぼしては無意味じゃ! 普通は君臨するなり共存して、星から恵みを分けてもらうのじゃ! 奪うばかりでは何も得られんのじゃ。その上、父上を無きモノにして頂点に立てば、後は破滅しかないのじゃ!」
何かを捕食をせねば生きられないのは、生命の原罪。
攻め滅ぼして何も無い無人の野を得ても意味は無い。
自由に使える領土、物的・人的資源を求める為に戦争をするのは、過去地球でも幾度もあった。
そういう経済的理由での侵略行為は、納得は出来ないけど理解の範疇。
しかし、無人の野に立つ王になりたい欲望での戦争は理解したくもない。
「チエ、ナニを負抜けた事を言う。闘争こそデーモンの本質。奪って滅ぼす事が、俺のなすべき使命。それをジャマする父上、母上も敵だ!」
ああ、すっかり破壊衝動に取り付かれているよ。
「チエちゃん、コイツには説得はムリだね。早く捕まえてもらおう。こんな悪口雑言聞いているほうがイヤになるよ」
「そうじゃな。母様、リタ殿。これで良いな」
「ええ、そうね。チエちゃんに兄弟殺しはさせたくないわ」
「うん! いいよ、おねえちゃん」
さて、これで一見落着だと思ったとき、悲鳴が聞こえた。
「アリサちゃん、そっち行っちゃだめぇ!」
避難していたはずのアリサちゃんが、何故かそこに居た。
◆ ◇ ◆ ◇
「おねえちゃんたち、だいじょうぶかなぁ」
「アリサちゃん、皆すっごく強いから大丈夫だよ」
結界内での待機場所、上位悪魔「朧」によって作られたサロン内。
そこには多くの避難民がごった返していた。
そんな中、アリサは、ルナの膝の上でルナの顔を見上げていた。
「まゆおねえちゃん、おなかにあかちゃんいるんだよね」
「そうね」
「あかちゃん、こわくないかなぁ」
「大丈夫、マユ母さん強いからね」
アリサは不安そうな表情を崩さない。
「わたし、みてくる!」
そう言ってアリサは駆け出した。
「ちょっと待ってアリサちゃん!」
トテトテと走る勢いは、早くは無い。
3歳児のスピードだ、すぐに追いつくとルナは思った。
しかし、アリサの前に急に穴が開いて、結界の外へ飛び出してしまった。
◆ ◇ ◆ ◇
「アリサちゃん、そっち行っちゃだめぇ!」
それはルナちゃんの悲鳴。
そしてその方向を見ると空間に穴が開いていて、そこからアリサちゃんが飛び出していた。
「どうして結界に穴が!?」
「ありさちゃん、あぶない!」
アリサちゃんに一番近い位置に居たリタちゃんが防御結界内から飛び出して、アリサちゃんを捕まえようとした。
「今だ、『影』、そのエルフ娘を捕まえろ!」
突然、「将」が叫ぶと同時に、アリサちゃんを抱こうとしていたリタちゃんが、黒い布状のモノに捕まった。
「きゃぁあ!」
「リタちゃん!」
アリサちゃんを助けようと動き出していたナナは、和バサミ九十九神を展開して、リタちゃんを縛る布を切ろうとした。
キン!
しかし、黒い布状のものは切断されない。
そして布状のものは変化して薄っぺらい真っ黒な紙人形みたいな形になった。
「『将』様、小娘捕まえました」
「よし、よくやった。これで形勢逆転だな!」
しまった、一瞬の隙を突かれてしまった。
まさか伏兵がまだ居たなんて。
リタちゃんが危ない!
「おねえちゃん!」
〝|Edelfräulen Rita! 〟
その時、アリサちゃんの全身から光が飛び出し、女性の形になってリタちゃんに向かっていった。
油断禁物、伏兵の存在でコウタ達、大ピンチ。
リタちゃんはどうなる!
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