第241話 康太の魔神退治:その32「バトル開始!」
「そういえば勢いで言っちゃったけど、『槍』さん、こっちの味方してくれて良いの? お兄さんと戦うんだけど」
俺は気になった事を「槍」さんに聞いた。
さーちゃんが俺達の味方をしてくれるのは、まだ分かる。
一心同体のクロエさんを守る為には戦うしかないからね。
けど、「槍」さんには明確に俺達の味方をしてくれる理由が俺には判らない。
「俺がやりたいからで良いじゃねーか。悪魔族内での内輪もめなんて毎度の事。今回は、母上からの命という大義名分があるんだ。その上、お前らと一緒にいると楽しいからな」
そう言って「槍」さんは照れくさそうな顔をした。
「今まで俺は色んな星で戦ってきた。俺は、戦いは好きさ。でもな、お前らと一緒に戦ったときに気が付いたんだ。いつもと違って胸の中が熱かったんだよ。で、考えたんだ、どうしてかって」
「槍」さんはチエちゃんの頭をぐしゃぐしゃにする勢いで撫でる。
「チエが泣きながら頼むんだぞ。それに小さな女の子もいっしょになって頼むんだ。俺はびっくりしたぞ、泣きながら親の敵の同族に頼み込むんだ」
「『槍』や、ワシを子ども扱いするのじゃないのじゃ。ワシの方が年上、姉じゃぞ!!」
チエちゃん、迷惑そうにしているけど表情は明るいね。
「あの時の感情、『愛』ってやつだっけ? あれ知ったら、憎しみや怒りは美味しくなくなったんだ。そして今までの戦いの時の事を考えたら分かったんだ。俺は戦いたいだけで、殺したいんじゃないってさ。競い合うのが好きなんだって」
感情を喰らう生き物である悪魔。
負の感情を好む個体が多いとチエちゃんは言っていたけど、ここにも正の感情を知ってしまったデーモンが居たんだね。
「そんな訳だから、俺は色んな事を教えてくれたお前らの味方をする事にしたんだ。それに美味しい食い物が多い地球を台無しにされたら面白くねーじゃん!」
「ありがとうね、『槍』さん、じゃあ宜しくね」
「おう!」
それを聞いて、うふって笑うマユ姉ぇ。
「じゃあ、今度ウチでご馳走するわね。楽しみにしていてね」
「母様の料理は絶品じゃから、期待しておるのじゃ!」
「それじゃ、絶対負けられねーな」
さて、勝負だ、魔神将「将」!
◆ ◇ ◆ ◇
「じゃあ、朧さん。非戦闘員の守り宜しく」
「御意! では、皆様、御武運をお祈り致します」
俺達は、朧さんに後方を任して、戦闘場となる温泉保養施設の庭に出た。
すいません、黒田さん。
後から損失補填しますから、庭を破壊するのを許してね。
「やっと来たか。では始めようか、諸君!」
「おう、今度こそオマエラをバラバラにしてやる!」
「それはそっちの方よ。オバカさん!」
マユ姉ぇの挑発で戦端は開かれた!
ずどーん!
マユ姉ぇが、魔獣の中心にいきなり移動してそこで姿がぶれる。
そして同心円状に衝撃波が発生して魔獣が宙に舞う。
魔獣の内、数体は肉片となって四散している。
「なに?」
「なんだ!」
驚愕している魔神将2柱に俺達は肉薄した。
「お父さん、お母さんの敵だ!」
「『騎』、なんでオマエは地球にいて愛を分からねーんだ!」
「騎」に対してカズヤ君と「槍」さんが挑む。
「お前ら、同族、兄弟に歯向かうのかよ!」
「あれ、僕は人間だよ」
「悪魔間で兄弟喧嘩なんてしょっちゅうだろ? 安心しろや、殺しはしねー。少々痛い目は見てもらうがな」
高速移動を基本とする「騎」に対して同じ速度を持つカズヤ君が張り付いて、虚無爪を見舞う。
更に「槍」さんが虚無槍で仕掛ければ、バカで単純な「騎」では防戦一方だ。
超音速からなる突撃を封じれば、「騎」は怖くは無い。
「うむぅ」
「おらぁ!」
俺は「将」に魔剣すーさんで切りつける。
それを「将」は虚無で作った剣で受け止めるが2合もせぬうちに剣は砕ける。
「兄上のバカぁなのじゃぁ!」
チエちゃん、悪魔形態になって手に持つ虚無剣で鋭い突きをする。
「お兄ちゃん、イイ加減にしてよぉ!」
さーちゃんは俺の後ろから虚無球を杖から連打して、「将」の動きを制していた。
「魔獣よ! ナニをしておる?」
「アレ? アイツらはもうすぐ壊滅するよ?」
俺は躊躇無く「将」の右手に魔剣を叩き込んだ。
「なにぃ!」
「将」は金属製の義手で魔剣を一瞬受け止めたが、義手はいとも簡単に両断された。
◆ ◇ ◆ ◇
「このコ達、張り合いが無いわね。私、向こうの相手したかったわ」
マユコは、何気なく薙刀を振るう。
その度に魔獣はバラバラになる。
「乱戦になっちゃったから、突撃系の大技使えないからチマチマしましょうか。じゃあ光兼さん、お願いね」
「御意!」
ビシュ!
「ウタさん、今日も綺麗で強いぞ!」
「あら、ショウゾウさんもやるわね。蔵から魔剣出してきて良かったわ」
秋山老夫婦は、2人背中を合わせて戦う。
その周囲には、5cm各に切断された肉片と真っ二つになっている魔獣が転がる。
長年連れ添ったコンビネーションに隙は無い。
「ウタさん、大好きじゃぁ!」
ショウゾウは、愛の告白をしながら妖気を放つ太刀を振るった。
「あら、はずかしいわ!」
ずどーん!
「どうだ、姉ちゃん! 俺やるだろ?」
「まだまだ熱量の絞りがあめーぞ。ウチのを見ろや!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん! 突っ込みすぎだよぉ」
「タクト君、無茶しないの!」
遠藤姉兄妹の周りには炭と化した魔獣が転がる。
そして彼らに近づこうとする魔獣はアヤメの刀で切り伏せられていく。
「さて、今宵の虎徹は泣いておる。……なんてな」
「教授、遊ばないでくださいよぉ」
「教授、流石です。さあ、シンミョウのところへは一匹も通さないですわ! コトミさんも頑張って!」
後衛組、シンミョウが貼る防御結界前に吉井教授、カレン尼が陣取り、接近する魔獣を排除する。
そして抜けてくる攻撃をコトミがタイル九十九神で捌く。
「ナナちゃん、リタちゃん。私が絶対守るりますから、思いっきり撃っちゃえぇ!」
「うん、シンミョウお姉さん。ボク頑張るの!」
「わたしも、いっぱいどっかーんするの!」
シンミョウが貼る結界内からナナとリタは遠距離攻撃を仕掛ける。
ナナの九十九神が舞えば、魔獣はバラバラになり、リタから放たれる光弾は確実に一撃で魔獣を倒す。
◆ ◇ ◆ ◇
「ふぅぅ」
俺は魔剣すーさんの異空間で精神を休める。
「今のところ、戦況は良い状態だな」
「そうだね。このまま押し切れたら良いけど、そううまくはいかないよね」
この時、俺の中に何かチリチリとした感じがしていた。
それは後に愛する者達への危険への予知だと気が付いた。
一見順調に行っている時が一番危険です。
油断大敵なのです。
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