第24話 康太の家庭教師:12日目「ナナ無双」
うつろな目をした悪魔の憑代達。
痩せ細った老人男性、ハゲ頭の太った中年男性、長い髪を垂らした「貞子」風の若い女性。
彼らはゆっくりと俺達の前に立ちはだかる。
「マユ姉ぇ、彼らは……」
「ええ、デーモンに完全寄生された傀儡ね」
「ひ! もしかしてあの時私がカイトを殺していたら……」
「ええ、心が完全に腐ってデーモンの憑代になり、ああなっていたでしょうね」
それを聞いて怯える恵子さん。
良かったね、ああなったら御終いだよ。
「ここから逃がさぬ」
悪魔の傀儡が放つ抑揚が無い声が、より恐怖をあおっている気がする。
「マユ姉ぇ、どうする? さすがに俺も人間は切れないよ」
「そうね、じゃあ憑代から悪魔を引きはがしましょうか」
マユ姉ぇは皆に指示を出す。
「私が破邪結界を準備するから、その間コウちゃんは突っ込んで攪乱をお願い。ナナは九十九神さん達で攪乱とコウちゃんの背後の援護を、リタちゃんは後ろで皆を守りつつ支援砲撃を。ぐっちゃんサンや狛犬サン達はリタちゃんやナナの周りで皆を守ってあげてね。後、お父様達、私達から離れないでくださいね」
「りょーかい!」「うん」〝おー〟
「じゃあ、行きましょうか!」
マユ姉ぇの掛け声で俺は「被甲護身」を行いつつ突っ込む。
「オン バザラ ギニハラ チハタヤ ソワカ!」
この呪は防御力・回避力を上げる事が出来る。
うかつに攻撃できない以上、防御強化をするのが一番。
それともう一個追加。
「ノウマクサマンダ ボダナン インドラヤ ソワカ!」
天帝帝釈天のお力は雷撃。
三鈷杵を簡易スタンガンにする様に電圧高め、電流低め加減をした呪にしておく。
足止めのつもりで心臓まで止めちゃうと元も子もないからね。
俺は、右手の三鈷杵から「楯」を生成して一番殴りやすい中年ハゲに雷撃付楯殴りをする。
だって痩せ細った老人や女性は殴りにくいもの。
中年男性は俺の突撃&電撃ショックで1m程吹っ飛ばされる。
その際、男性の手から大型のナイフがこぼれる。
危ないなぁ、あんなので刺されたら痛いじゃすまないよ。
次に掴み掛ってくる女性をひょいとかわしつつ足払いして転がしといてスタン楯を押し付けて無力化。
いくら悪魔憑きで筋力が高くなっていても所詮は人間なので、足を払えば簡単に転ぶ。
二足歩行の弱点からは逃れられない。
最後に杖を振り上げて襲い掛かってくる老人は、杖を楯で受け止め痺れさせたところで後ろに回り込んで足払いしつつ頭を打たないように後頭部をキャッチしがら転がして、足にダメ押しのスタン楯押し付け。
骨が脆い老人を骨折させたら寝たきり一直線、悪意がある相手を無傷で無力化って難しいよ。
ふー、「後ろにみかん」は実に効果的だね。
それとマユ姉ぇとの訓練が実に役に立っていると思う。
じゃないと普通3人を相手にして無力化なんてできないよ。
今回はナナの使う九十九神達が彼らの動きを制限させていたのも勝因だね。
目の前で飛行物体が迫ってきたら誰でも困惑する。
複数人を相手する場合、斜め後ろからの攻撃が一番怖い。
横からだと見えるし、真後ろは意外と対応しやすいけど、斜め後ろが見えない上に避けづらい。
チャンバラでも囲み込んだ状態で切り込めないのは、一気に攻め込むと相打ちになるのと、その弱点方向に入られないように動くのが多人数戦闘での極意なんだとか。
今回は後ろ全体をナナの九十九神達がカバーしてくれて助かったよ。
俺が3人を無力化した頃、マユ姉ぇも破邪結界の準備が出来たらしい。
俺の戦闘中、3人を牽制しつつも各所に呪の起動点を打ち込んで結界の準備をしてくれたマユ姉ぇは流石である。
俺が結界予定地から出た後、マユ姉ぇは結界を起動した。
「じゃあ、悪魔を引っぺがすわよ」
「ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタ タラタ センダマカロシャダ ケン ギャキギャキ サラバビキンナン ウン タラタ カンマン!」
マユ姉ぇが呪を設置した箇所を基点として不動明王による浄化炎の円が形成される。
これが「不動結界法」、火界呪による結界内は悪鬼悪魔の類は近づく事は出来ない。
その結界内に悪魔を閉じ込めたら、そりゃ暴れて逃げようとするわな。
結界の効果は抜群で、3人はもがいて暴れた後、その身体からレッサーデーモンが現れた。
デーモン達は結界内で暴れるも出られないので、声なき声で何か呪文を唱えたらしく、軋むような音と共に結界が砕けてしまった。
デーモンは再び憑依するよりも俺達を始末する方を優先したらしく、3体ともこちらに向かってくる。
しかし単純に戦闘するならこっちが優位なのを気が付いたのか、デーモン達はやっかいな手を打ってきた。
〝インプ、いでよ!〟
デーモン達の呼び声で空間に穴が開き、そこから数十匹のインプの群れが押し寄せてきた。
数の暴力でこちらを押しつぶすつもりらしい。
インプは身長70cmくらいでコウモリの羽を持つ低級悪魔。
一匹は大したことが無くても、あれだけ沢山の飛行する魔物に襲われると守る人がいるこっちは不利だ。
まずいと思った瞬間、マユ姉ぇの指令で状況はひっくり返った。
「ナナ、今度こそ出番よ。貴方の力を見せてみなさい!」
「うん、お母さんボクやるよ! ボクの小物達、いけー!」
それからがナナの無双ゲーであった。
漏斗、小柄、和バサミがそれぞれいくつにも分身をし、それらは魔力光の尾を引きながらインプの群れに突っ込んでいく。
「行けよ、漏斗!」
ナナの掛け声で漏斗は複雑な軌道を描きながらインプに近づき、四方から魔力光線を浴びせる。
「貫け、小柄!」
小柄は高速移動でインプを容赦なく貫いていく。
「切り裂け、ハサミ!」
和バサミは小柄以上の目にも留まらぬ高速でインプ達をバラバラに切り裂いていく。
エ――、っと、これは何?
Gダムですか? それとも大地母神ですか?
堕天使かな? または万物の根源?
ナナの攻撃によりどんどんインプ達は撃墜されていく。
これを打破しようとインプ達はナナに近づこうとするも、狛犬1号・2号からの火炎ブレス、ぐっちゃんからの怪力光線でとても近づけない。
ぐっちゃんサン、あれ原典どおり3つの首から別の光線吐いているよ。
あまりの光景に俺はつい目を奪われてしまったのだが、もっとショックだったのはデーモン達だろう。
口をポカンとあけて唖然とした表情をうかべたまま固まっている。
「うりゃ!」
俺は硬直していたデーモンの一匹を左切り上げ、喉下への突き、突いた状態からの捻り込んで切り下げの3連撃で倒した。
「えい!」
同じく隙を逃さないマユ姉ぇもデーモンを一刀の下に切り捨てた。
ありゃ、「光兼」サン薙刀モードだよ。
後からマユ姉ぇに聞いたところ、みっちゃんの薙刀モードとか漏斗達が分身したのは九十九神の分け身という能力を用いたもので霊力を消費して形を変えたり分身を作ったりしているんだそうな。
「あたれー!」
最後の一匹のデーモンもリタちゃんの収束魔砲、いや魔法によって焼き払われ、デーモン達はあっというまに壊滅した。
召還主を失ったインプ達もナナ無双の前ではどうにもならない。
かくしてデーモンとの第二ラウンドも俺達の完全勝利で終わった。
しかし、俺せっかく強くなったと思ったんだけど、ナナの圧倒的なパワーアップの前にはとても適わない。
身内でのランキング、俺が最下位だぞ、たぶん。
もっと修行しよーっと。
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