第236話 康太の魔神退治:その27「対面」
チエちゃんの暴走話で本題のカズヤ君の事が忘れ去られていたけど、あの後落ち着いて話してもらった事として、
「つまり復活は出来たけど、まだ不安定だったから内藤翁への対面どころか俺達の前に出すのもマダだと判断してマユ姉ぇがナイショにしていたんだね」
「そうなのよ。ヒト1人生き返りましたは、お役所的にも大変でしょ。幸い、カズヤ君は行方不明扱いで、まだ失踪宣告をしていなかったのよ」
内藤のお爺ちゃん、娘夫婦だけでなく孫まで失ってしまい、一時期酷く落ち込んでいた。
それを見かねたナナやリタちゃん、最近ではチエちゃんが遊びに行ってお爺ちゃんを慰めている。
その為か、このところは精神も安定していて笑顔を見せる事も多くなった。
俺達も色々と助けてもらっているところだ。
なお、失踪宣言だけど後日俺が調べたところ、船舶や航空機、震災、戦争等が原因の特別失踪とそれ以外の普通失踪があるそうだ。
特別失踪だと1年、普通失踪だと7年後家庭裁判所に失踪宣告を行えば、先刻を受けた者は死亡したとみなすと民法にある。
カズヤ君の場合は、特別失踪とも言えなくもない状況だったけど、事件を表ざたに出来なかったから、普通失踪扱い。
ならば、帰って来ました、でなんとかなりそうだ。
警察には公安さんや中村警視経由でなんとかなると思うけど、学校関係はやっかいだ。
このままでは高校浪人になりかねない。
「カズヤ殿の学校については問題ないのじゃ! ワシがみっちり教育しておるのじゃ!」
教育関係は、チエちゃんにまかせておけば問題ないか。
そういえば、第二次世界大戦で戦時死亡宣告を受けたけど生きて帰ってきて自分の墓標を抜いた、リアル異能生存体、リアル絢爛舞踏「舩坂 弘」さんがいらっしゃったね。
◆ ◇ ◆ ◇
「なんじゃ、チエちゃん。ワシに急に会わせたい人がいるとは?」
チエはナナ、リタと一緒に内藤翁の家を訪問していた。
「実は、長い事お爺様にはナイショにしていた事があったのじゃ!」
「もしかしてカズヤの事か。もう過ぎた事じゃよ。チエちゃんが悪い訳じゃないさ」
チエは最初に内藤と会った時に、自分が裏に居てカズヤを殺す切っ掛けになった事を話していた。
「その事なのじゃが、実はカズヤ殿は一度は死んだのじゃが、ワシの手で生き返らせる事に成功したのじゃ」
「なに! それはどういう事なのじゃ!」
内藤翁は驚愕し、座っていた応接間のソファーから勢い良く立ち上がった。
「それはこういう事じゃ!」
「お爺ちゃん!」
カズヤが虚空からいきなり現れて、内藤翁に飛びかかり抱きついた。
「カズヤ、本当にカズヤなのかい?」
「うん、そうだよ。正真正銘、僕カズヤだよ!」
驚愕した内藤翁とカズヤは涙を流しながら強く抱き合った。
「お爺ちゃん、ずっと、ずっと会いたかったよぉ」
「それはワシの方こそじゃ。カズヤ、カズヤぁ!」
2人が抱き合う姿に3人娘は涙を溢した。
「チエちゃん、これは一体どういう事なんだ? カズヤは死んだはずじゃろ?」
少し落ち着いた内藤翁はカズヤを強く抱きしめながら、チエに聞く。
「それは色々あるのじゃが、簡単に言えばワシが一生懸命に頑張ってカズヤ殿を拾い集めて復活させたのじゃ!」
チエは器用にも泣きながら、平らな胸を張るお得意のドヤ顔をした。
「カズヤ、そうなのか?」
「うん、チエお姉ちゃんに一杯助けてもらったんだ」
カズヤは泣き笑いの表情で祖父に話す。
「そうか、そうか。チエちゃん、ありがとう。ありがとぉぉ!」
内藤翁はそのまま号泣をしながら孫を大事に抱きしめた。
「うん、うん、良かった、良かったのじゃぁ!」
一緒になって内藤翁に抱きつき、号泣するチエ。
その様子を見てほろっとするナナとリタ。
「おねちゃん、おじいちゃん、かずやにいちゃん と あえてよかったね」
「うん、リタちゃんほんとーに良かったね」
泣き笑いで抱き合ったナナ達だった。
◆ ◇ ◆ ◇
「内藤の爺さん、喜んでいたかい?」
「うん! すっごく喜んで、チエ姉ぇに何回も土下座して拝んでいたよ」
「ちえおねえちゃん、またおいのりされてたよ!」
「もう拝まれるのも土下座も勘弁じゃ! ワシは悪事の尻拭いをしただけなのじゃ。それ以外のナニモノでもないのじゃ!」
チエちゃんは照れ隠しに怒って見せているけど、その泣き腫れた眼を見たら、一番感動していたのが分かる。
良かったね、チエちゃん。
「そういえば、カズヤ君は『騎』の高速移動能力とか使っていたけど、普通の人類じゃムリだよね。もしかしてカズヤ君の肉体って悪魔ベースなの?」
俺は疑問に思っている事を聞いた。
悪魔ベースなら子孫も作れず、自分だけ生き残って寂しい事になりかねない。
「そこはテロメアや遺伝子を微調整して普通に歳を取って、子供を残して、普通に老衰で死ねるようにプログラミングしたのじゃ! どうしても肉体ベースは『騎』になってしもうたが、そこはそれ! 元のカズヤ殿のDNAを基準に調整したのじゃ。じゃから、魔神将としてはいまひとつじゃが、ヒトとしてはかなり強い上に、普通に子もなせるのじゃ!」
流石はチエちゃん、完全なお仕事です。
「それなら安心だね」
「そうじゃ、誰も彼も見送って悲しい思いをするのは、もうワシだけで十分なのじゃ!」
そう言って、チエちゃんは後ろを向いた。
どうやら泣き顔を俺達に見せたくないらしい。
多分多くの人々を、そして異星で出来た「娘」を見送った時の事を思い出したに違いない。
「はいはい、チエちゃんはスゴイですからね」
俺はそう言って、チエちゃんの頭をナデナデした。
「うみゅぅ、ナデナデしても何も出ぬぞ。まあ、今日は一杯ナデナデするのじゃ!」
いつもなら子供扱いされるのを嫌がるチエちゃんが、涙声で頭を撫でて欲しがっている。
どうやら内藤翁とカズヤ君の再会で、大分里心がついちゃったらしい。
「はいはい、では仰せのままに」
俺は、結局10分以上チエちゃんをナデナデした。
横で見ていたナナとリタちゃんも途中でウズウズしていたから、交代してもらってナデナデした。
だって俺の手は二本しかないもん。(笑)
またチエちゃんの独壇場。
どうもこの悪魔っ子が動くと、話が大きくなるか感動モノになるっぽい。
筆者が思うに、この娘思惑を越えて動きすぎだよ。
まあ、筆者はこういうの大好物ですけど
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