第235話 康太の魔神退治:その26「カズヤ君の復活」
「さて、チエちゃん。マユ姉ぇの件はめでたいで良いけど、カズヤ君の件はどういう事かな? マユ姉ぇと一緒になってずっと隠していた様に聞こえていたけど」
「うむ、それは今から答えるのじゃ! まずは、カズヤ殿本人からじゃ」
チエちゃんは悪びれもせずに話して、カズヤ君を促した。
「はい、皆様改めましてご挨拶します。初めての方も多いと思いますが、僕は内藤和也と申します。普通に生きていたら、今は中学3年生だったはずです」
カズヤ君、幼少期に魔神将「騎」に憑依されて交通事故を切っ掛けに完全に乗っ取られていた。
その後、両親の事故を装った殺害、下位悪魔を使った贄の育成、ケイコちゃんをそそのかしてカオリちゃんを襲わせた。
最終的にナナへの直接攻撃をした後、俺達によって退治された「はず」だった。
「皆さんお聞きしているかと思いますが、僕は悪魔に乗っ取られて沢山の悪事をしました。乗っ取られている間の記憶は殆どありませんが、自分で両親を殺してしまったんです」
これはキツイ現実だよね。
いくら記憶が無く自分でやっていないとはいえ、自分の身体が両親を殺したんだから。
「ここから先はワシが答えるのじゃ! カズヤ殿を乗っ取っておった『騎』はワシを脅迫して悪事の手伝いをさせておった。その時、ワシはカズヤ殿の魂が完全に失われていない事に気がついたのじゃ。そして母様達の動きを察知したのじゃ!」
チエちゃんは「騎」に自分の生存を両親である魔神王や魔神女王を知らせたくなかった。
せっかく死亡を偽って逃げているのだから。
だから「騎」の脅迫を仕方なく受け入れた。
まあ、女王はどうもチエちゃんの生存を知っていたらしいけど。
「そこでワシは『騎』の行動を逆コントロールして、母様達を勝利に導いたのじゃ!」
チエちゃんが人質の使うタイミングをこちらの都合に合わせてくれたおかげで、全部一網打尽にして勝てた。
「ただ、ワシとて兄弟、弟の命を奪うのは抵抗があったのじゃ! そこでカズヤ殿含めてサルベージする事にしたのじゃ」
ちょっと悲しげな表情のチエちゃん。
気にするなと言いながらも、俺達人類に対しても慈愛溢れるチエちゃんだ。
いかな悪人であろうとも肉親を殺すのは随分抵抗があったのだろう。
多分、死亡を偽る戦いでも娘を守る為に同族や兄弟を手に掛けたのも苦しかったよね。
「しかし何故か『騎』の魂は何処にもおらず、カズヤ殿のものだけが回収できたのじゃ。ワシは義体製作のノウハウを使ってカズヤ殿の再生に着手したのじゃ!」
チエちゃんの今の姿は、過去に地球の東欧で出会った思い入れのある少女の姿を借りていると聞く。
この辺りの話は、恥かしがってチエちゃんは詳しく答えてくれない。
またいつか聞きたいものだ。
多分泣いちゃうような話だろうね。
「カズヤ殿の遺体からDNAは採取出来ておったが、ヒト1人を再生するのじゃ!簡単にはいくまい。まずは魂の修復を最優先にしたのじゃ」
そういえば、「調」の再生に義体製造用のマテリアルを使ったと言っていたよね。
「かなりの時間を要したのじゃが、今年の夏過ぎに魂から自我と記憶の再生に成功したのじゃ。本来記憶は脳細胞に依存するのじゃが、ワシらデーモンは半分精神生命体じゃ。その記憶のバックアップは個別の異空間においてある。『騎』の使用バックアップ空間を確認したところ、そこにカズヤ殿の記憶もあったのじゃ。おそらくカズヤ殿に成りすます為に使う為じゃった。これは不幸中の幸いじゃ。普通、ヒトの記憶にバックアップなぞ無いのじゃ!」
ほー、どうやって記憶を取り戻したのか不思議だったけど、そういう事だったのね。
異世界転生ものだと、ある程度成長した時点で記憶が戻るけど、あれも何処かにあるバックアップ拾うのかな?
それとも転生直後の脳内にすでにダウンロードされていて、成長して自我が出来た後にその記憶領域にアクセスできるようになるんだろうか?
実際、ヒトは自我が出来るには記憶が必要だ。
その辺りは今だ現代科学でも把握出来ていない。
是非ともチエちゃんの技術が今後の社会の役になってほしいな。
「そういう訳で、後は自我を強化すべくワシに付随して行動してもらっていたのじゃ!」
「で、ボク達への覗きの手伝いさせていたんだね、チエ姉ぇ」
「う! そ、そうじゃ! 悪いのかじゃ!」
ナナに突っ込まれて苦しげに答えるチエちゃん。
「俺は良いけど、ナナが可哀想だよね」
「そうよねぇ、確かに結婚式用には欲しかったけど、毎回盗み撮りはどうなのかしら。母親としてはイヤだわ」
「さ、最近は隠し撮りせずに堂々と撮影しておるのじゃ! いいじゃないかのじゃ! ワシは今まで遊んでもらえる仲間が、家族がおらなんだのじゃ! ずっと、ずーっと一緒におれる家族で遊んで何処が悪いのじゃぁ!! あーん!」
泣き出してしまうチエちゃん。
孤独に苦しんでいたチエちゃんがやっと手に入れた「家族」。
その意味は俺達は、よく分かっている。
チエちゃん、本音を恥かしがって中々言わないけど、とっても寂しがりやだもの。
「泣かなくて良いよ、チエちゃん。チエちゃんの気持ちは分かったから、今度からはちゃんと許可を得てから撮影してね。ナナ、マユ姉ぇ、それで良いよね?」
「コウ兄ぃがそう言うなら良いよ。ボクもチエ姉ぇは大事なお姉ちゃんだもの」
「年上の娘に泣かれちゃ、しょうがないわよね」
「おねえちゃん、なきむし!」
「ありがとう、ありがとうなのじゃぁ!」
まー、許可くらいは出したら良いかな。
「という事で、いつ次のキスするのじゃ? 撮影のタイミング教えて欲しいのじゃ!」
「ボク、しばらくしません! もーお姉ちゃんのばかぁ!」
さっきまで泣いていたチエちゃん、いきなり素に戻って次のキスのタイミングを聞く。
うん、悪魔による悪魔の所業はどーにもならんらしい。
チエちゃん、ナナにポコポコ叩かれながらも喜んでいた。
こういうのが実に俺達らしいね。
「あのー、すいません。僕の話はどうなったのでしょうか?」
ありゃ、すっかり話の腰を複雑骨折させちゃったよ!
ごめんね、カズヤ君。
途中からチエちゃんの話になっちゃってますね。
家族を初めて得て、すっかり安心してイタズラに励むチエちゃん。
筆者から見ても、プロットを超えて動いちゃう可愛い娘です。
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