第234話 康太の魔神退治:その25「マユ姉ぇのおめでたい話」
「じゃ、ワシから詳しい説明をするのじゃ!」
財団研究所強襲から2日後、関係者を集めたマユ姉ぇ宅にて説明会が行われた。
「まずは、無事財団の野望を打ち砕き、アリサ殿がこれ以上襲われなくなったのはめでたいのじゃ。ついでに裏ボスの『将」兄上にも一撃与えられたのが僥倖じゃ」
とりあえず財団でアリサちゃんを狙っていたヘレナさんを倒し、政府側から操っていた次席補佐官を捕まえられたのは大きかったね。
チエちゃんから研究所襲撃について詳細説明があり、ヘレナさんを倒した話の際には、ルナちゃんは涙ぐんでいた。
「財団に関しても次席補佐官殿にたっぷりと説教しておいたので、もう狂気の実験に手を出す事はあるまいて。一応、ワシの持つ技術のうち医療に使えそうなのをいくつか渡しておいたし、ついでに対抗馬の弱みも渡しておいたから大丈夫じゃろう。しばらくは政府内部でドタバタするであろうな」
つまりアメリカ政府内で政治闘争を起こさせて共倒れまでいかなくても、こちらにちょっかいを出す暇を与えさせない訳だね。
飴と鞭で責めるのが、実にエゲつない。
「ん? コウタ殿、何か文句でもあるのか?」
「いや、いつもながらチエちゃんの策はエゲつないなとね。で、俺とナナに対する謝罪はどうなっているのかな?」
「う、それはまた後でじゃ。もちろん逃げはせぬぞ」
チエちゃん、少々うろたえて見せるけどポーズだよね。
もちろん、俺はチエちゃんを虐める気は無いから、遊んでいるだけだけど。
「うん、期待しているよ。ナナもそれで良いよね」
「うん、ボクも待ってるよ」
さりげなく俺の腕に自分の腕を巻きつけて「ふくらみ」押し付け、正妻アピールをするナナ。
それに気がつき、反対側から自分も同じ事をするリタちゃん。
毎度の「両手に花」だけど、しょうこりもなくハイビジョン撮影するチエちゃん。
もー知らん(笑)。
「うぉほん、続きを話すのじゃ!」
何事もなくカメラを下に置くチエちゃん。
もう全員見慣れて呆れているので、ため息以外何も聞こえない。
ススムさんにすら呆れられているのは、どーなんだろう。
「さて、湿っぽい話はここまでじゃ。次は母様、どうぞなのじゃ!」
「改まって皆さんに話すのは恥かしいわ。だって、もう私アラフォーなのに」
へー、珍しいな。
マユ姉ぇが自分の年齢を正直に言うなんて。
確か今年……、うんアラフォーだよね。
「もうお察しの方が多いと思うんだけど、私ね赤ちゃんが出来たの!」
えー!
……、そうか!
皆が話していた事を総合すれば、確かに分かる事だよ。
「新しい命」がどーとか、「おめでた」いとか、正明さんに知らせるとか。
うん、俺察し悪すぎ。
「おめでとう、マユ姉ぇ!」
「マユ姉ちゃん、おめでとうございます!」
「お母さん、おめでとー!」
「おかあさん、すっごい!」
「マユ母さん、おめでとー!」
「お母様、おめでとうございます!」
マユ姉ぇの表情が今まで以上に柔らかい。
「ヒマワリ」の笑顔が更に美しい。
そして、それを眺める正明さんの視線がとても優しい。
「皆、ありがとうね。ホントはどうしようかと思ったのよ。だって2人目と言っても超高齢出産になるでしょ。ナナやリタちゃんが難しい年頃なのもあるし」
ルナちゃんが帰宅してから、今まで以上にマユ姉ぇと正明さんが仲良くしていたのを良く見ていたし、爺ちゃん婆ちゃんにカツ兄ぃから「もう1人どう?」って言われていたよね。
確かに思春期の娘からしたら親が「そういう事」をしているってのは汚らわしく見える事もある。
俺自身はマユ姉ぇが母親的立場で初恋の相手だけど、ナナが生まれてからは「そういうモノ」だと思っていたし、仲良いマユ姉ぇの家族を見るのが好きだった。
「ボク、そんなの気にしていないよ。お父さんとお母さんが仲良くした結果だもん。それどころか妹か弟が増えるの、とーっても嬉しいもん」
「わたし、おねえちゃんになれるんだ。うれしー!」
ナナは全て理解して、母親の妊娠を祝福している。
リタちゃんはあんまり分かっていないようだけど、自分がずっと妹的立場でお姉ちゃんとして頼られたのは最近アリサちゃんに会ってから。
2人ともアリサちゃんに出会えた事で、マユ姉ぇの妊娠をより祝福できた様な気もする。
「まゆおねえちゃんになにかあったの?」
そのアリサちゃんが父親に聞く。
「マユ姉ちゃんのお腹の中にに赤ちゃんがいるんだって」
「えー、そうなの! おねえちゃん、おなかさわってもいい?」
アリサちゃんは、トテトテと歩いてマユ姉ぇのところまで行く。
「ええ、いいわよ。でもね、まだ小さくて動いていないから分からないよ」
「そーなの? あ、おかあさんと おなじにおいだぁ」
アリサちゃんがマユ姉ぇに抱きついてお腹をさする。
その様子に俺を含めて何人かが涙ぐんでしまった。
「アリサちゃん、よかったらもっと抱っこする?」
「うん!」
こういうのに俺弱いんだよ。
俺の両側に居る妹達も、そしてルナちゃん、コトミちゃんも泣いている。
いうまでもなくチエちゃんは号泣寸前。
「あ、このこなんだ、おんなのこだね! わたしのなかのおねえちゃん、そういっているよ」
え?
俺はアリサちゃんの言葉に驚く。
ナナやコトミちゃん、チエちゃんも、そしてマユ姉ぇも驚愕する。
「アリサ殿、今中のヒトって言うたのじゃな? それはどういう事じゃ?」
「うーん、よくわかんない。わたしのなかのおねえちゃん、むずかしいこというから」
どうやらアリサちゃんの中の「女性」、少しだけどアリサちゃんと意思疎通が出来るらしい。
「まあ、それなら良いのじゃ。母様、一応確認するのじゃが今妊娠2ヶ月くらいじゃろ?」
「そうね、病院でもそう言われたし、心当たりがある日から考えたらそうね」
生々しい話だけど、人類の妊娠期間は平均280日。
妊娠期間計算は、排卵日から計算され40週で出産予定日となる。
排卵後、卵子が生きているのは24時間程度、精子は排出後72時間程度。
なので、「心当たりがある日」は当事者同士なら分かってしまう。
クリスマスイブに「当った子」は9月後半から10月初旬が出産予定日らしい。
「なら、誰にも男女は分からぬよな。それに脳が殆ど生成されておらぬから霊的受胎もまだじゃ」
チエちゃんが言うように、妊娠2ヶ月いいとこ6週間では脳はまだ神経節の一部に過ぎない。
そこに意識と霊が宿るのは、もう少し先だ。
「ならば、どうして分かるのじゃ? ワシですら胎芽の存在がやっと分かる程度じゃ。コトミ殿でもそうじゃろ?」
「アタシでは霊的に受胎しないとムリです。生物学的に透視する訳でもないですから」
チエちゃんは医学的透視ができるけど、コトミちゃんの「眼」は霊視。
霊的では無いものは見えない。
「うーん、まあ良いんじゃない? とにかくめでたい事なんだもの」
「そうね、今は気にしないでいいわ。ね、アリサちゃん」
「うん!」
アリサちゃんを抱くマユ姉ぇ。
その神々しい姿は、実に美しく見えた。
正月2日目にめでたいお話をお送りしました。
伏線分かりやすかったので、皆さんもう既にお察しですよね。
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