第230話 康太の魔神退治:その23「親と子」
「なんで、ナンデよぉ! アタクシはナニも悪い事はしていないわ。全ては国家の為、アタクシの研究の為よ! それがこんなイエローの小僧にジャマされなきゃいけないのよ」
ヘレナは失った左手を右手で覆い、泣き叫ぶ。
「自分の娘や孫を生贄にして、どこが正しい。オマエは自分の親にどうされた? 同じように実験台にしたのか?」
ススムさんは涙を流しながら吼える。
リーアさんやアリサちゃんの事を考えたら、色々言いたいよな。
「アタクシの両親とも素晴らしい研究者だったわ。そして国家の為に命を捧げたのよ。アタクシを育てる為に」
国粋主義は親譲りかよ。
「そう、育ててもらったんだよな。愛情をかけてもらって。なら、どうしてリーアにも同じようにしなかったんだよ! オマエは親に道具みたいに扱われたのか!?」
「え? アタクシはリーアを大事にしたわよ。だって、最高の製品だもの。アタクシも同じようにしてもらったの」
「そうなのね。貴方、愛されなかったから子供を自分の分身、製品としか見ていないのね。悲しい人」
マユ姉ぇが身体を起こしながら、悲しそうな顔でヘレナに話す。
「子供は親のいう事を聞くのは当たり前じゃない。親が居ないと子供は生まれないんだから」
「そうね、確かにそういう面はあるわ。でもね、子供は親の完全コピーじゃないの。私は私、娘は娘。似ているけど違う人間よ。時には言う事も聴かないけど、それは別の人間だから。そこを分からなかったのね、貴方は」
淡々と話すマユ姉ぇ。
「もしかしたら貴方も親に放置されて、構ってくれたと思ったら言いなりにしろって言われたのかもね。研究が忙しい時は無視されて、良い成績残したら今度は親の言うようになれって」
「そんな、そんな事なんて……」
マユ姉ぇの言葉はヘレナを抉る。
その言葉は俺の魔剣よりも効果があるように見えた。
「そして人の愛情を知らないから、ヒトをモノ扱いしてしまうのね。可哀想に、貴方は愛を知らないままオトナになって、家族の替わりに国を大事にして狂気に走ってしまったの」
「そ、そうだとしたらどうなのよ!」
俺は爺ちゃん婆ちゃん、マユ姉ぇによって愛を知った。
そしてその愛は、おすそ分けするものと思っている。
しかし、ヘレナは愛を知らないから愛を与える事が出来なかったんだ。
「そうね、もっと早くその事に気が付いていたら皆不幸にはならなかったわ。でも、もう手遅れなの。貴方はヒトでは無くなったし、多くの命が失われたわ。だから終わりにしましょ」
「お、お、終わってたまりますか! アタクシは全ての英知を得て神になるのよぉ!」
ああ、哀れなオンナよ。
俺に出来るのは、引導を渡す事だけだ。
「哀れなヘレナ、ここが終焉だ!」
俺は涙を流しながら容赦なく踏み込んで、必殺「ラグナロク」を叩き込んだ。
「ギャぁぁ!」
◆ ◇ ◆ ◇
ヘレナは若者の攻撃を喰らいながら思う。
自分はいつ、どこでなにを間違えたのだろうか。
ヘレナの両親はヘレナと同じく国家に係る財団研究機関に所属し、公に出来ない非人道的研究に手を伸ばしていた。
あの娘を持つ母親が言った事、その通りに幼い頃両親が忙しくてヘレナの事を殆ど相手してくれなかった。
そんな両親に自分の事を見て欲しくて、振り向いて欲しくてヘレナは得意な勉強を一杯した。
そうしたら両親は褒めてくれた。
それが嬉しくて、もっと頑張って両親に言われるまま、ヘレナは財団の研究者になった。
それなのに両親は、その後はヘレナの事を褒めてもくれなかった。
自分達の娘なら当たり前だと。
そして娘の成果すら自らの出世の材料とした。
両親とも国家に役立つ研究が大事で、研究がやりやすいように、また周囲の声がうるさかったので結婚しただけ。
ヘレナが生まれたのも避妊が失敗したので子育ての実験、そして優秀な子供なら自分達の道具に使えると思っていたと後日ある筋から聞いた。
そこには親子の愛情が無かったのかもしれない。
後に研究題材が非人道的だという事で、ヘレナの両親は2人とも弾劾され研究職を失った。
国家に見放され、誰からも相手にされなかった両親はヘレナの目前で自ら命を絶った。
ヘレナを巻き込む無理心中で無かった分だけは良かった。
しかし今思うに、もしかしたらヘレナは両親にとって一緒に天国へ連れて行くべきモノではなかったのかもしれない。
ヘレナは思った、自分は両親の様になりたくない。
ナニをしても自分の価値を国に認めさせたい。
その為ならば自分を実験台にするくらい簡単な事。
そして両親がしたように娘も実験台、道具としたら良い、更に孫が生まれたら同じく道具に。
しかし、娘には反抗され先に死なれ、孫娘も事故で亡くなった。
何も自分には残らなかった、この人外になってしまった醜い身体だけしか。
そしてヘレナは理解した。
結局、自分は両親に褒めてもらいたかった、愛して欲しかっただけなのだと。
その思いがねじくれて周囲の愛を妬み、愛を奪って自分と同じようにしたかったのだと。
目の前の娘達に介抱される母親の姿が眩しい。
自分では成れなかった親子の姿が。
ヘレナは後悔した、……ごめんなさい、リーア、アリサ。
◆ ◇ ◆ ◇
柄突き、右切り上げ、袈裟懸、左薙ぎ、唐竹、平突き2発!
そしてもうワンループ、切り上げ、袈裟、薙ぎ、唐竹、突き!
俺の必殺技を喰らったヘレナは、ぼろ雑巾のようになって吹き飛ぶ。
そして小さく呟いた。
「リーア、ごめんなさい」と。
「ススムさん、介錯を」
「ああ」
俺はススムさんにトドメを任した。
彼には俺以上に因縁があるからね。
「ヘレナ、一言だけ言う事がある」
「なによ、もうアタクシの負け。このまま滅ぶだけなの。このまま静かに娘や孫のいるところに逝かせてよ。でもアタクシが行くところは地獄だから2人には会えないかも知れないわね」
すっかり心身共に打ち砕かれたヘレナ、そこにススムは言う。
「アリサは生きているぞ。だから、安心して逝け」
「え、アリサは生きてたの?」
「ああ、皆のおかげでな」
涙を流すヘレナ。
いかな彼女でも孫には思うところはあったのだろう。
「そうなの。良かったわ。じゃあ、後はススム貴方に任すわ。もうアタクシみたいなお婆ちゃん居ない方がいいものね」
「アンタ、もっと早く気が付いてくれたら、こんな事にならなかったのに」
「そうね、アタクシ、思ってたよりバカだったのかもね」
ヘレナは身体を起こし、ナナ達に介抱されているマユ姉ぇを見る。
「貴方、良いお母さんしているのね。アタクシみたいにならないと思うけど、娘さん達と仲良くね」
「ええ、ヘレナさん」
ヘレナは天を仰ぎ呟く。
「ああ、リーア。ごめんなさい」
そしてヘレナの身体はチリと化した。
親と子は、嫌でも似通ってきます。
一緒に暮らしていれば、例え血のつながりが無くとも。
そしてその絆は強いものです。
しかし、その絆が悲劇を産む事も多々あります。
昨今の親子殺し、実に悲しい事です。
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