第23話 康太の家庭教師:11日目「レッサーデーモン」
〝それ以上語ってもらっては困ります。ナイト様のため、ここで貴方方全員口封じさせて頂きます〟
そう語るヤギ頭の魔物が実体化した時、まだ韋駄天加速状態だった俺は躊躇する事なくこの魔物に数歩踏み込んで右手の「楯」をアッパー気味に叩き込んだ。
〝ぐぅえ!?〟
アッパー攻撃で魔物は仰け反り、恵子さんから距離が離れる。
いきなりの攻撃に困惑する魔物に俺は容赦なく追撃を加える。
「光の楯」を「光の剣」に変えて向かって右上からの袈裟切り、左薙ぎ、逆袈裟切り、引き込んで「剣」を伸ばしつつの腹部への突きの四連撃を、俺は一息で叩き込んだ。
「あら、コウちゃん過激ね。悪者に決め台詞言わせる前に倒しちゃうなんて」
俺はマユ姉ぇの一言で正気に戻り、自分がやった結果を見て驚いた。
どうやら無意識のうちに「トリガー」が引かれていたようだ。
ナナやマユ姉ぇも殺すというんだから、しょうがないか。
その上、恵子さんを唆し、カオリちゃんを苦しめた黒幕は許せなかった。
しかしちょっとやり過ぎたかも。
魔物は俺の足元に倒れ伏しており、完全に虫の息で実体が崩れようとしていた。
〝おのれ、卑怯な。我が話している途中で……〟
「悪党の都合なんて知ったことじゃないよ。どうせ碌な事を言わないんだから、ナイト様とかの事早く吐いて消滅しろや」
そりゃ変身中とか合体中や悪者が話している時に襲うのはアニメや特撮では禁じ手だろうけど、現実には隙を見せるのが悪い。
獲物を前にして舌なめずりは三流のする事って誰かも言っていたし。
〝ぐぅぅ、我はナイト様の僕、何も言わぬわ〟
ふむ、ナイト様とやらは、そこそこの大物って事か。
じゃあ、コイツは生かしておく意味無いね。
「マユ姉ぇ、こういう事だからやっちゃっていいよね」
「ええ、こういう奴は長く生かしておいた方が害だからどうぞ」
「じゃあ」
俺は「剣」を魔物の頭部に突き刺し不動明王火炎呪を直接叩き込んだ。
〝ぎゃぁぁ! 我は滅びるが、これで終わりではないぞ〟
魔物は浄化の炎で燃え上がって、きれいさっぱり滅んだ。
しかしお約束の捨て台詞言わなくてもねぇ。
「お見事、コウちゃん。よく躊躇なく相手を滅ぼせたのね」
「だって、どう見ても悪魔の類だし、このまま恵子さんを人質にされても嫌だったから先手必勝と思ったんだ」
まだ四肢を拘束されている恵子さんを悪魔が人質にして動かれると最悪負けていたしね。
「コウちゃん、甘すぎると思っていたけどこれなら安心ね」
「いくら甘い俺でも悪魔や悪霊に手加減する事はしないよ」
「こうにいちゃん、すごい。あれ、Kleiner Dämon。かんたん、たおしちゃう」
へー、あれがレッサーデーモンなんだ。
どうりで気配が前のデモンと同じだった訳だ。
それで気配に覚えがあったのね。
後でリタちゃんから聞いた話では、リタちゃんと遺跡で会った時に俺が倒したのがグレーターデーモン。
その王がアークデーモンだそうな。
ちなみにレッサークラスだと憑代になる存在が無いと、完全実体化とかできないんだとか。
だから今回のヤツは下半身が半透明だったのね。
まあデモン自体半分精神生命体みたいだから物理攻撃だけで倒すのは難しいけど。
「リタちゃん、あのデモンはリタちゃんの世界を襲った奴と同種なの?」
「うん、そうだよ」
これは油断ならないぞ、こっちの世界へもデモン達は手を伸ばしている事になるんだから。
「あの、今のはいったい何があったのですか?」
恵子さんのお父様とかカオリちゃんは、いきなりの悪魔降臨からの悪魔退治に頭が付いて行っていない。
それは仕方がないよね。
「今のは恵子さんを唆していた黒幕の使い魔、文字通りの悪魔です。アレが恵子さんに憑いていたから恵子さんが危険な方へ誘導されていたのだと思います。コウちゃん、何か嫌な感じがするから早く恵子さんの拘束を解いて逃げる算段しましょ。ナナ、和バサミ貸してね」
「うん、いいよ」
ナナは俺に大型の和バサミを渡してくれた。
俺の気配レーダーも数人(?)先ほどの悪魔と同じモノが近づいているのを感知していた。
しかしマユ姉ぇ、段取り良すぎ。拘束後の開放まで準備済みとは。
けど、なんで和バサミ? あれこいつ、もしかして……
俺は恵子さんの手足を拘束していた結束バンドを和バサミで切って彼女を開放した。
「さっきの悪魔と同じ奴が近づいています。ここから逃げますのでついて来てください」
真っ青な顔の恵子さん、自分にあんなバケモノが憑いていたのだから、それもしょうがない。
「大丈夫よ、ケイコちゃん。さっき見た通り、先生強いし。私にだって、この子がいるし」
〝オレ出番! カオリ守る〟
「ぐっちゃん」サんは勢い良くカオリちゃんの背負ったバックパックから飛び出して周囲を警戒しだす。
「え、なにそれ?」
そりゃ恵子さんはびっくりだよね。
まさかカオリちゃんを守るモノがぬいぐるみだなんて思わないし。
「この子、私の守り神なの、ぐっちゃん、皆の事宜しくね」
〝オレみな守る! うぉ――!!〟
ぐっちゃん、張り切りすぎ。
しかしいつのまにカオリちゃん、ぐっちゃんサンと意志疎通できるようになったんだろう。
俺はナナに和バサミを返して、ナナに聞く。
「これってあの時仕分けしていた九十九神の卵なの?」
「うん、でももう卵じゃないよ。立派な九十九神さん達だよ」
達? って事は。
「ミンナ出番だよ。出ておいで、ボクの小物達!」
ナナの呼び声で、ナナのバックパックから多数の小物達が飛び出す。
狛犬1号・2号は当然として、小柄、漏斗、先ほどの和バサミ等。
それらはナナの周囲を飛び回り、一人百鬼夜行状態だ。
俺はびっくりして声も出ない。
「えっへん。コウ兄ぃ、びっくりしたでしょ」
「ああ、降参だよ」
俺はあまりに見事に九十九神達をコントロールしているナナに感動した。
「ナナは独学で念話を覚えたように念によるコミュニケーション能力に才能があったの。それが九十九神さん達と相性が良くて、九十九神使いになれたのよ」
マユ姉ぇの説明で納得はしたけど、いつのまに修行したんろう。
「ナナ、いつのまにここまで出来るように修行したんだい?」
「ボク、リタちゃんと一緒に内緒の特訓したんだ。ね!」
「うん、おねえちゃん、すごい」
俺の知らぬところで従妹達は成長しているんだね。
「さあ、無駄話している前に逃げるわよ、皆」
マユ姉ぇの号令で逃げ始めた俺達だったが、すぐに悪魔達に追いつかれた。
しかし、それらは悪魔の姿をしていなかった。
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