第229話 康太の魔神退治:その22「悪魔とヒト」
俺は、右腕を失って驚いている魔神将「将」を睨みつける。
「お前は、どれだけの命を弄んだと思っている? いつまでも自分が強者と思っていたのか? そのツケを纏めて支払う時が来たんだよ。観念しろ」
俺は魔剣シャドウ・スマッシュを正眼に構えて力を込めた。
「将」の目が俺の魔剣に向く。
「その剣、オレの防御結界を易々と貫く上に、オレの腕を飛ばすとは。まさか、それはアロンの杖と同等のものか?」
あれ、「将」この剣の素性知っているよ。
そうか、人工邪神は魔剣と聖櫃を求めていたよね。
それは邪神や財団では無く、「将」が求めていたのか。
「だとしたらどうする? で、アロンの杖ってなんだい? こいつは剣だぞ」
「ならば、オマエを殺してその剣を奪うだけだ。アルフの秘宝、そしてその剣が揃えばオレの望み、この世界を統べる事は適うのだ!」
バっカじゃないの、コイツ。
自分で答え言っちゃったよ。
チエちゃん、それを聞いてため息ついている。
絶対、「バカじゃのぉ」と思っているに違いない。
「さて、そう簡単に俺を、いや俺達を倒せるのかな? お前も俺に注目しすぎだね」
俺は、ひょいと横に避ける。
その後ろからフルチャージされたリタちゃんの魔力砲が炸裂した。
「おとうさまの かたき! たおれちゃえー!!」
「ナニ?」
「あら、また?」
全力全開なバスター砲、射線は既にマユ姉ぇの攻撃で開いている。
手加減の必要も無い一撃だ。
なお、コトミちゃん達が居る情報センターは俺達の後方。
一応、呪文の破壊範囲とかは考えているんだよ。
ぶわぁぁぁぁ!
すさまじい閃光に「将」とヘレナが飲み込まれた。
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オゾン臭が薄らぎ、閃光でくらんだ眼が慣れてくる頃、床が全て緑色のガラスのように溶解した元会議室には全身ボロボロになった「将」と、再び煙から復活したらしい無傷のヘレナが立っていた。
「騎」戦で使った俺を囮にしたタンク作戦、また決まった。
こいつら、学習能力無いんじゃないか。
今まで強敵と戦って苦戦したことがないのか、からめ手に弱すぎるよ。
「トドメだ!」
俺は必殺「ラグナロク」を「将」に叩き込もうとした。
しかし、「将」の身体は俺が叩き切る前に砂の城のように崩れていった。
「あら? こんなに弱いの?」
〝まさか、分身体がやられるとはな。今回は様子見とさせてもらうぞ。その剣必ずオレのモノにしてやる。ヘレナ、後は任せたぞ〟
はい、逃げましたよ、逃げ台詞付きで。
コイツってチエちゃんと同じ次元鏡影分身なのね。
まあ、引き際としては間違ってないか。
「あらあら、アタクシ切り捨てられましたわ。でもね、アタクシは貴方達ではどうやっても倒せないでしょ。さて、こちらから攻撃ね」
そうヘレナは言って、両手に虚無球を生成した。
その様子にカレンさんやナナに緊張が走る。
マユ姉ぇやリタちゃんの最大火力でも倒せない上に、そのマユ姉ぇが現在戦闘不能。
ここは、俺が踏ん張りどころだ。
「チエちゃん、アイツはバックアップを異次元においているって言ってたよね」
「おそらくは。あくまでワシの想像じゃ」
緊張状態なのか、「あくまで」ギャグになっているけど、いつもの様に笑わないチエちゃん。
「なら、その異次元の身体ごと倒しちゃったら良いんだよね」
「そうか、魔剣殿なら!」
魔剣シャドウ・スマッシュは空間ごとなんでも切る。
その能力は平行に存在する異次元にすら及ぶ。
「そういう事! 皆、チエちゃん中心になって。俺が踏み込むからサポートお願いね」
「おー!」
「コウ兄ぃ! いっけー!」
俺は魔剣を左上段に構え、ナナの声援をバックに魔神と化したヘレナに踏み込んだ。
「おばかさんね、イエローの坊や。死になさい」
ヘレナは無造作に両手の虚無球を放つが、狙いが甘い。
時間差も無く同時に同じ場所を狙うだけ。
こりゃ実戦経験無いな。
「え?」
俺は、ステップを多用した瞬動法で簡単にヘレナの攻撃を避けた。
「ふっ!」
そしてヘレナの懐に踏み込んだ俺は、魔剣を振り下ろす。
魔剣による金色の軌跡はヘレナの向かって右側肩口に振り下ろされる。
「ぎゃ!」
身体を捻って少し避けたヘレナだが、彼女の左手を俺は切り飛ばした。
「痛いじゃないの、もう」
そう言って右手の爪で俺を抉ろうとするヘレナ。
俺は、ヘレナの攻撃に対して、魔剣を中段に構えて払い飛ばし、後方へステップバックする。
「貴方やるわねぇ。その剣ゴト研究材料に……? なんで、ナンデ腕が戻らないの!?」
よし、魔剣で切れば復活はしないぞ。
「そりゃ種もシカケもあるからさ。ヘレナ、お前の狂気で俺の両親、その他多くの人々が命を落し苦しんだ。その罰を受ける時が来たんだよ!」
俺の中で「トリガー」からくる魔力が暴れる。
しかし、ここで暴走してはダメだ。
復讐では無く、哀れみで敵を倒すんだ。
「なんで、ナンデよぉ! アタクシはナニも悪い事はしていないわ。全ては国家の為、アタクシの研究の為よ! それがこんなイエローの小僧にジャマされなきゃいけないのよ」
何事も引き際は大事、これを間違えると大きな被害になります。
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