第227話 康太の魔神退治:その20「マユ姉ぇの怒り」
「チエちゃん、もういくら話してもムダだよ。ヘレナは倒すべき相手、ヒトじゃない。もう生かしておく理由は無いよ」
俺は、チエちゃんに戦闘宣言をする。
ヒトにあってヒトでない虚無相手に話すだけムダだよ。
それこそ、「古のもの」のヒラムさんの方が「人間」だよ。
「ええ、この世に居たら世界を巻き込んで破滅するヒトね。悲しいけど、もう手遅れなの」
マユ姉ぇも、俺の意見に同意してくれた。
妹達やタクト君、そして今回助っ人に呼んだカレンさん、シンミョウさんも怒りを隠せない。
「そうじゃな、悪魔なワシが言うにもなんじゃが、ヘレナよ。オヌシは最低最悪の悪魔じゃ。ワシらが滅ぼしてやるのじゃ!」
チエちゃんが宣戦布告する。
「あら、お嬢ちゃん達でアタクシを倒せるとでもお思いなの? 兵士なんて要らないわ。貴方たち2人ずつで制御室の奪還と秘匿ブロックN5を開放してきなさい。残った人はアタクシの指示でこやつらを捕まえましょう。誰も彼も大量の魔力持ち、実験台に最適ね」
ヘレナは目の色を血の色へと変化させて、俺たちを睨みつけた。
こりゃ、本気でかかるべし。
先に研究員を倒さなきゃ、コトミちゃん達が危ない。
「コトミ殿、聞こえた通りじゃ。全隔壁閉鎖!」
「りょーかい!」
近くでドーンと隔壁が閉まる音がする。
バイオハザードレベルP4クラスの研究施設もある建物だ。
強固で密閉度が高い隔壁だろうて。
どこぞのベークライトで埋めたりする機関程ではないだろうけど。
「マユ姉ぇ、カレンさん、雷撃いきます! ノウマク サマンダ ボタナン! オン インドラヤ ソワカ! 帝釈天雷撃波!」
俺はインドラ神の印を結び、ヘレナと研究員めがけて手加減無しの雷撃を放った。
「ひぃぃ!」
雷撃の明かりに驚き、逃げ惑う次席補佐官。
「次席補佐官と御付きの方々。ワシらの戦いに巻き込まれとう無かったら、ココに入るのじゃ」
チエちゃんは、補佐官達の前に自分で作った異空間への入り口を示す。
「大丈夫じゃ。ワシらが死なぬ限り必ず出してやるのじゃ。このままだとオヌシら死ぬのじゃ!」
幼女のドヤ顔に、御付きの方々と顔を見合わせた次席補佐官は穴に飛び込んだ。
「あまり入り口から離れるでないぞ」
そう次席補佐官へ声をかけて「穴」を閉じたチエちゃん、研究員を見て、
「効いておらぬか? コウタ殿、今のは一切手加減無しじゃろ? こりゃ手ごわそうじゃな」
研究員は身体中から煙を出しているものの、何もなかったように動く。
数人が会議室から出ようと、閉鎖されたドアを叩いている。
「あら、その程度の電撃でアタクシ達に効くとでも?」
頭髪からも煙を出しているのに平気な顔のヘレナ。
「ならば、私がホンキで行くわ。シンミョウちゃん、全体防御お願いね。チエちゃん、この部屋結界に落とし込んでね」
ニッコリ笑いながらのマユ姉ぇ。
でも俺は知っている、その笑顔はいつもの「ヒマワリ」の笑みでは無くて、張り付いた能面の笑顔。
俺も周囲の仲間も震え上がる笑顔だ。
「ヘレナさんと言ったわよね。私、母親として貴方の所業許せないの。このまま世界からいなくなってくれないかしら?」
淡々と笑顔で話すマユ姉ぇ。
その裏にはすさまじい殺気が見える。
今まで、どんな相手に対しても「騎」相手の時ですら、笑顔の裏では悲しみながら戦っていたマユ姉ぇ。
しかし、今回に限っては、殺気を消そうともしない。
俺だけで無く、3人の娘達も、その殺気に息を呑んだ。
「そんなの嫌に決まってますわ。貴方、若いからってアタクシの実力に嫉妬しているのかしら。それとも更年期障害が早めに来ちゃったのかしら?」
はい、ヘレナ。
自分の死亡届に実印押したよ。
「そうなの、じゃあ消えなさい! 光兼よ、我に従い、目前の敵を屠るべし!」
「御意!」
そしてマユ姉ぇは笑顔を消し、薙刀モードの光兼さんを右手に持ち、左手を前、姿勢を低くして、引き絞った弓矢のようにエネルギーを貯める。
「皆、全力防御して! 対爆・対閃光防御を! チエちゃんは結界強化、この部屋から外側に出来るだけ被害を出さないようにして!」
「うむ!」
「はい!」
俺は、マユ姉ぇの後ろ、シンミョウさんの前に立ち、魔剣に願う。
「シャドウ・スマッシュ! 俺の前面に多重次元障壁を!」
「おうよ!」
「オン マカキャラヤ ソワカ! 大黒天 三又槍!」
俺は、幾枚も展開した次元障壁越しにマユ姉ぇの呪文に恐怖した。
アレは大黒天、インド神話での破壊神シヴァの使う究極破壊兵器を一部召喚する術、いわば宝具の真名開放だ。
破壊と再生を掌るシヴァ神が破壊時に使用する3つに先が分かれた槍。
同類の槍は、ギリシャ神話の海神ポセイドンが使うトライデントがある。
キィーン!
高周波と共に大量の魔力が光兼さんの刃先に集中し、先端部が薙刀ではなく三又槍に変化してゆく。
「これは、ワシの結界持たぬかもしれん」
マユ姉ぇの技を見たチエちゃん、ぼそっと呟く。
うん、俺もそう思うよ。
後方にいる俺たちですら危ないんじゃねぇ?
「これ危ないよ、タイル九十九神さん、全力展開!」
ナナも俺たちの周囲に防御盾を全力展開した。
しかし、なおも強気を崩さないヘレナ。
「あら、そんなチンケな槍でどうしようというのかしら」
「それが、辞世の言葉ね。 消えよ、悪鬼羅刹よ! オン!」
そしてマユ姉ぇの攻撃が放たれた。
同じ母としてヘレナの所業が許せないマユ姉ぇ。
いつもよりもお怒りで、普段封印している究極破壊呪文を引っ張り出してきました。
最近、怒りっぽいマユ姉ぇ、何かあったのかな?
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