第226話 康太の魔神退治:その19「研究所長の正体」
「なんでアンタが生きているんだ!? リーアと一緒に死んだはずだろ、ヘレナ!?」
ススムさんが、白衣を着た50くらいの白髪の皴っぽい女性を見て驚いた。
確かヘレナって研究所長でリーアさんの母親にして諸悪の根源だったよね。
聞いた話だと、リーアさんと一緒に灰になったはずだ。
なお、今回の会話は基本的に英語、チエちゃん謹製の小型翻訳機による同時翻訳でお送り致します。
「あら、そこのイエロー。まだ生きていたのね。アリサが死んで敵討ちにでも来たのかしら?」
「そうだな、2人の仇は討たせてもらうぞ!」
ふむ、どうやらヘレナは灰になるまで焼かれたのに、何らかの方法で生き延びていた様だ。
また、チエちゃんの策に嵌っていてアリサちゃんが死んだと思い込んでいる。
じゃあ、ここでコイツらを倒せば、もうアリサちゃんは安心だね。
「こちら、コトミ。現在、アヤメお姉様、クロエさんと『さーちゃん』、日本のマサト先輩のおかげで情報センター落としました。館内警報・防犯カメラ・外部への通報全部抑えています」
コトミちゃんから研究所の防犯システムを抑えたとの通信が入る。
所内に詳しいクロエさん、潜入捜査がお得意のアヤメさん、情報関連に強くて生体レーダーのコトミちゃん、手乗りデーモンのさーちゃんが別行動チームになっていて、所内の情報センターを落としてもらっていた。
日本のCPとして待機中のマサトも情報支援として活躍中だ。
なお、日本にはマサトの他に朧サンが待機してくれていて、爺ちゃん婆ちゃんが居る家ごと結界内で守ってくれている。
アリサちゃんの遊び相手にルナちゃんも活躍中だとか。
後、うかつにアメリカにいけないフランツ君もお留守番中。
そして、各個人間の通信はゲート経由の個人ポータルを使っている。
これがチエちゃんが配ってくれた「お守り」、通信機能に限定されているけど、いかなる防壁越しでも通信できる上にGPS機能もあるのは強みだね。
「一体、警備部はナニをやっておる! 兵士達はどうした?」
次席補佐官は幼女を睨んで吠える。
「そんなの一番最初に押さえるに決まっておろう、やはりオヌシはバカか。兵士達・警備システムは、既に全部お寝んねじゃ!」
チエちゃんはあきれ顔で補佐官を見た後、ヘレナを凝視する。
「ほう、オヌシ上位悪魔やら精霊等を喰ろうたのか。それで灰からでも復活したのじゃな」
「あら、そこのお嬢ちゃんはよく『視える』目を持っているのね。ご名答よ」
ヘレナは、チエちゃんを少しバカにしたように見下げて言う。
確かに俺の眼からでも、ヘレナのオーラは人類のモノでは無い。
身体から見えるアストラル体が、いびつな獣とも鬼とも見えるのだ。
「アタクシ、自分の霊的『位』を上げるために様々な霊を召喚しては『喰べた』わ。そして遺伝子操作も自分に行って、弱いながらも『大神殺し』の能力を得たのよ」
狂気を張り付けた皴っぽい顔の中、ヘレナの青い眼だけが爛々と輝く。
「そして遺伝子バンクから霊能力の高い人の精子を使ってリーアを造ったわ!」
彼女にとっては自分すらも実験動物、モルモットなんだ。
そして、娘や孫娘も同じく何をやってもかまわない実験動物としてしか見ていない。
家族愛・隣人愛というものを一切知らないのか信じていないのか、家族や友人を深く求める俺から見たらヒトの形をした虚無な「穴」にしか思えない。
「なのに、リーアは勝手にそこのイエローとの子供をアタクシの手の届かないところへ送るし、アタクシを自分ごと焼いてしまうのですもの。熱いし、痛いし、たまりませんでしたわ」
娘や孫を、自分の道具としてしか見ていない。
どうやったら、こんなヒトが生まれるのだろうか。
その狂気に溢れる演説を聞いて、さしもの次席補佐官もうろたえる。
「所長、お前は自分の娘や孫を実験台にしたのか?」
「ええ、お国とアタクシの為ですもの。当たり前でしょ」
ヘレナの異常さに、補佐官は怯えた。
どうやら研究内容は知っていても、どういった人物を使ったまでは情報が国へは送られていないらしい。
「いくらワシでも自分の妻子、孫を生贄になどせぬぞ! お前は、いやお前たちは狂っているのか?」
「あら、お国を動かす次席補佐官様ともあろうヒトが、今更自分の身内可愛さですか? 家族でなければ誰でも使っていいとでも言うのですか? 不法移民とかなら、使い放題とでも? それこそ差別ですわ。全ての国民・住民は国家の資産、どう使おうと国家の為なら全て許されるのです!」
ナニがヘレナをここまで国粋主義、非人道主義へと突き動かすのだろうか?
俺には、一切判らないよ。
過去のマンハッタン計画(第二次大戦中の核兵器開発計画)もこのような経緯でやってしまったのだろうか?
次席補佐官と彼の御付きは動揺を隠せないが、研究員は誰も彼も平然と所長の言動を聞いている。
「そうか、オヌシ研究員も実験台にしたのじゃな」
「ええ、そうよ。当たり前でしょ。ただでさえ結果が満足に出ないんですもの。責任をとって自分を差し出すのは当たり前でしょ」
チエちゃんの問いに平然と悪魔の答えを言うヘレナ。
ああ、彼女はヒトの形はしているけど、とっくの昔にヒトをやめていたんだ。
「チエちゃん、もういくら話してもムダだよ。ヘレナは倒すべき相手、ヒトじゃない。もう生かしておく理由は無いよ」
戦争はヒトの狂気を拡大させてしまうと言います。
より効率的な殺傷方法を求める。
確かに宇宙開発、医療技術は戦争で進歩しました。
しかし、その進歩した兵器は全人類を簡単に滅ぼせるまでに来てしまいました。
是非とも、理性ある行動を政治家の方々には行って欲しいです。
いかな、戦争は政治の一面であろうとしても。
著者自身、守る為の「牙」は否定しませんけど。
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