第223話 康太の魔神退治:その16「見知らぬ天井って使い古されちゃったね」
「う、うぅぅ」
グレイは、全身を襲う痛みで眼が覚めた。
「見知らぬ天井かよ。体中痛いし、じゃあ俺は死んでいない訳か」
グレイは頭を起こし、身体の状態を見る。
「ありゃ、手足が無いや。しょうがねぇなぁ。死ななかったから良しとするか。あのお嬢さんというかお母さん、あそこまで強いのかよ。俺達全員一撃とはねぇ」
グレイの装着されていた義手義足は全て外されている。
完全にダルマな状況だ。
全身を襲う痛みで苦笑いになりながら愚痴るグレイ。
「ほう、お目覚めの様だな。グレイ殿」
その声に顔を横に向けると、そこにはドヤ顔の幼女が居た。
◆ ◇ ◆ ◇
「ほう、お目覚めの様だな。グレイ殿」
俺はマユ姉ぇ、チエちゃんと一緒に大学病院に担ぎ込まれているグレイさんの見舞いに来ている。
本当なら全員警察病院送りなんだけど、このところ怪我人を沢山俺達が量産しすぎたので警察病院はパンク状態。
しょうがないので、マユ姉ぇのコネが使える豊原医師の勤務する大学病院にグレイさんを担ぎ込んでいる。
グレイさんの場合、義手義足の事もあるから中途半端な医療行為じゃ困るしね。
「おう、チエちゃん。あれからどのくらい時間が経ったんだ?」
「そうさのぉ、40時間弱といったところじゃ」
「そうか」
グレイさんは少し起こしていた身体をベットに深く沈めた。
「で、アリサお嬢ちゃんはどうなった?」
「どうもしておらんよ。元々捕まった訳でもないしのぉ」
「やっぱりかよ。コウタ坊が全然慌てていなかったから、そうだと思っていたよ」
ありゃ、俺が落ち着きすぎたからバレていたのかよ。
「コウタ殿に顔芸や隠し事は無理なのじゃ! ワシと最初の対戦の時は見事じゃったけど、アレでも何か策があるまではバレバレじゃった。まあ、策をして倒してみろって言ったのはワシじゃが」
そうか、あの時はチエちゃん策をしてくるのを楽しみにしていたから、引っかかってくれたのね。
「そうだな。コウタ坊、もう少し隠せるようにするんだぞ。お前、誰が大事だとか、どこが弱点だとか見せすぎだぞ。俺が敵だったら、ナナちゃん誘拐して終わってたぞ」
「あれ? グレイさん、俺達の敵だったのじゃないの? それにナナは俺よりも強いからムダですよ」
「あ、そうか。そうだよな。ははは!」
グレイさんは以前と同じように俺と話してくれる。
俺もグレイさんとは嫌な関係にはなりたくないもの。
「マーティン大尉、ごめんなさいね。私、少しやりすぎちゃったの」
しおらしくグレイさんに謝るマユ姉ぇ。
「俺は真由子さんとは敵対していたんだ。別に謝る事じゃねーって」
「でも、ちょっとやり過ぎて、もう少しで貴方を殺していたのよ。」
「そうじゃ、母様。母様の手加減は即死しないというだけじゃ! もう少し手当て遅れておったら、脳組織、肝臓・腎臓挫滅で死んでおったのじゃ!」
「だから謝っているのよ、チエちゃん」
ペコペコと誤るマユ姉ぇ。
最初は敵だったからしょうがないと話していたグレイさんも自分の被害状況を聞いて青い顔をする。
「さて、バカ話はこのくらいじゃ! ここからは真面目な話じゃ。グレイ殿、ワシらに話してはくれぬか。お主らを差し向けた雇い主の事を」
チエちゃんはふざけていた表情を改め、真剣な顔でグレイさんに聞く。
「それは教えられない。捕虜になっても情報をペラペラ話すのは下策さ。それに俺が話したところで、それが事実とは限らんだろ?」
「それはその通りじゃ! しかし、既にワシらが正解を得ているとしたらどうかのぉ?」
「ん!」
チエちゃんもグレイさんが素直に話すとは思っていない。
俺ですら捕虜が素直に情報を吐くとは思っていないし、欺瞞情報を流す事も分かっているのだから。
「前回、お主達をけしかけたのは人工邪神だった大統領補佐官。ならばそれを操るは大統領周辺の官僚。おそらく軍の元上層部じゃ。そして財団への出資をも決定できる人物じゃな。軍から天下って軍需産業に手を出してロビー活動で政治活動をして、今は次席補佐官とにでもなっているヤツか」
えらく具体的に敵の親玉の事を話すチエちゃん。
アメリカ政府内部の事だからコトミちゃんでは調べられない筈なんだけど、何処情報なんだろうか?
グレイさんが青くなっている事から正解っぽいけど。
「そ、ソイツが首謀者としてどうするんだ? いくらチエちゃんがスゴイって行ってもアメリカ全部敵には回せないだろう?」
「ソヤツ1人殺せば済むのなら、とっくの昔に暗殺しておるのじゃ。そう簡単じゃないから困っておるのじゃよ」
そうだよね、チエちゃんがソイツの目前にテレポートして一刺しなりすれば、シークレットガード関係無しに暗殺は簡単だ。
「じゃから、ワシも策を考えておるのじゃ」
「そうか、じゃあ俺は何も言わないさ。ただ、アメリカは何回もアリサお嬢ちゃんを襲うぞ。次は俺達みたいに甘くは無いぞ」
「そこは問題ないのじゃ! アリサ殿はそろそろ太平洋上で行方不明になるシナリオじゃ!」
「え!?」
俺は、くすっと笑う。
実にエゲツないし、効果ある方法だよ。
◆ ◇ ◆ ◇
「なんで、こんな小娘1人の輸送で、要人輸送機なんて使うんだよ!」
太平洋上を飛行中のアメリカ空軍要人輸送機C-32。
ボーイング757の軍用仕様で大統領輸送機エアーフォースとしても使われる機体である。
「なんでも次席補佐官直々の命令なんだと。どうも秘密軍事開発計画がらみらしいがな。まあ、いいじゃねぇか。俺達みたいな軍の三下がエアーフォースシリーズに乗れる事なんて、そうそう無いんだ。楽しもうや」
「まあ、そうか。小娘っていうか幼児相手に警戒する事なんて無いし、見た目可愛いお嬢ちゃんだ。将来、えらいべっぴんさんなりそうだし、目の保養でもしながら楽しもうか」
アリサの周囲を警備する兵士達、実にゲスな会話をしている。
「おい、オマエ! ペド疑惑掛けられるぞ!」
「だって、日本じゃ女の子全員見た目少女だぜ。この間びっくりしたぞ。声掛けたら人妻、それも30越えで子供が中学生ってんだ。ありゃ恐ろしいぞ、まるで魔女さ」
「そうじゃな。母様は、アル意味魔女じゃな」
男達は、薬物で深く眠っている筈のアリサから声が聞こえた事に驚く。
「オマエ、寝ていたはずじゃ?」
「寝ているふりに決まっておろう。バカかお主達は」
アリサは寝かされていた座席から起き出し、バカな兵士達をジト目で見る。
「まさか、最初から寝ていなかったのかよ!」
「当たり前じゃ! どこの世界に深夜2時に親から離れて歩き回る幼女がおるのじゃ」
兵士達は急いで短機関銃を構える。
「ふむ、機壁を貫かぬように9mmのホローポイント使用か。軍用では本来使用できぬのに困ったヤツラじゃ!」
「こ、コイツ一体何者だ? 幼女のはずじゃないのか?」
アリサはニッコリと笑う。
「そうじゃ、ワシは幼女じゃ。ただ、この姿が本来の姿では無いがのぉ」
そして金髪3歳児のアリサは、黒髪の8歳くらいの東欧系幼女へと変身成長する。
「さて、このあたりで十分かのぉ。お主ら安心せい、命は奪わぬ。その代わり随分と怖い思いはしてもらうのじゃ!」
そしてチエは、悪魔らしい凶悪な笑みを浮かべた。
「ぎゃぁぁ」
機内に男達の悲鳴が響き渡る。
◆ ◇ ◆ ◇
「え!?」
グレイさんがびっくりした次の瞬間、アリサちゃんが病室にテレポートしてきた。
「おかえりなのじゃ!」
「ただいまなのじゃ!」
グレイさんは眼を白黒してハイタッチで挨拶をしている2人の幼女を眺める。
「グレイ殿、こういう事なのじゃ!」
そう言ってアリサちゃんは、チエちゃんへと変身する。
「これぞワシの絶技、次元反転分身! 別名影分身じゃ!」
チエちゃんは空間制御をする事で、自分を2人以上この空間に存在させる事が出来る。
某忍者漫画の多重影分身っぽい事が出来る訳だ。
そしてチエちゃんは1人に戻る。
「アリサ殿を輸送中の要人輸送機は、太平洋上でエンジントラブルによって墜落したのじゃ。これにてアリサ殿含めて乗員乗客は生死不明となったのじゃ!」
「そういう事かよ。もう俺じゃチエちゃんには敵わないよ」
完全に敗北宣言したグレイさん。
「まあ、そういう事じゃ。グレイ殿、良かったら義手義足見繕うか? 今までよりも軽量で強く出来るのじゃ!」
「また、今度な。とりあえず、俺にしばらく考える時間くれや。あんまり沢山の事がありすぎて混乱しているんだ」
まー、しょうがないよ。
俺もチエちゃんの策知って、しばらくは驚愕したものね。
チエちゃん暗躍回ですね。
後、マユ姉ぇさんやり過ぎでした。
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