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功刀 康太の遺跡探訪、時々お祓い ~女難あふれる退魔伝~  作者: GOM
第一部 第三章 功刀康太は家庭教師をする
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第22話 康太の家庭教師:10日目「許し」

 恵子さんの顔を両手で押さえているお父様は恵子さんの目を見て話す。


「恵子、お前は何をやっているんだ! 呪いなんて恐ろしい事をするなんて! もう少しで取り返しが付かなくなっていたんだぞ!」


「だって誰もワタシの事見てくれなかったんじゃない! お父さんは仕事、仕事って。お母さんだって忙しそうにしてワタシに構ってくれなかった! ワタシ寂しかったの!」


 恵子さんは、見える左目に涙を溢れさせながら大きく見開き、お父様に話していた。


「だから皆がチヤホヤしてくれる学校が良かった。なのに後から学校に入ってきたカオリが皆をワタシから取り上げたの。だからカオリが憎かった。カオリが居なくなれば、また皆ワタシの元に返ってきてくれるから!」


 寂しさから凶行へ走ろうとしていたんだ。

 高校生といってもまだまだ子供、ご両親が身近にいない寂しさと学校で友人を盗られたと思い込んだ事が、恵子さんを呪いに駆り立てていたとは。


「なんで早くその事をお父さんやお母さんに言ってくれなかったんだ。言ってくれれば……」


「だって二人ともワタシの前に居ないんだもの。言えるはずないでしょ!」


「すまなかった、恵子。お前をここまで追い込んでしまったのはお父さんのせいだ。遅すぎるかもしれないが、許して欲しい」


 そういってお父様は恵子さんを抱きしめた。


「もう遅すぎるよ。だってワタシ呪われてこんな姿だよ。それにカオリに許してなんて言えないよ」


「まだ遅くなんてないよ、ケイコちゃん」


 カオリちゃんのその一言で、恵子さんはビクっとしてカオリちゃんの方を見た。


「ごめんね、ケイコちゃんが寂しがっていたのを私が早く気が付けば良かったよね。それとね、前にも言ったでしょ。ケイコちゃんの事怒っているけど許しているって。怒っているのは、私にちゃんと話してくれなかった事。ねえ、ちゃんと話せるじゃないの。今度からは話してくれれば良いのよ」


「カオリちゃん、本当に許してくれるの?」


「もう何回言わせるのよ、ケイコちゃん。最初から私貴方の事は許しているのよ」


 苦笑いしながらそう言ってカオリちゃんは胸元からラピスラズリのペンダントを出して恵子さんに見せた。


「それは!」


「そうよ、ケイコちゃんが私にくれたペンダントよ。あれからもずっと身に着けているわ」


「呪いのアイテムだったのに?」


「ええ、だってケイコちゃんからの初めてのプレゼントだったし、ラピスラズリは魔除けの石でしょ」


「え、魔除けの石で呪いのアイテム作ったのワタシ?」


「そうよ、ケイコちゃん。そそっかしいんだから」


 泣き笑いの表情を浮かべてカオリちゃんは恵子さんに話した。


「ははは、ワタシってバカだね。友達としても中途半端、呪いも中途半端」


 同じく泣き笑う恵子さん。


「いいじゃないの、呪った相手を許す私もバカなんでしょ」


 そう言ったカオリちゃんは恵子さんの元に歩み寄って彼女をお父様と一緒になって抱きしめた。


「バカ同士、ゆっくり一緒にオトナになろうよ」


 カオリちゃんのその一言がトドメになったのか、恵子さんは大泣きをし始めた。


「ごめんなさい、カオリちゃん。ごめんなさい、お父さん。ごめんなさい、お母さん。ごめんなさい、カイト。ごめんなさい、(みんな)


 まるで憑き物が取れたように素直になった恵子さんは皆に謝りながら泣いた。

 彼女を抱きしめていたお父様もカオリちゃんも一緒に泣いた。

 俺やマユ姉ぇ、ナナ、リタちゃんも貰い泣きしたのは言うまでもない。



 5分程泣いていた恵子さんは泣き止んだ後、俺達の方を見て話した。


「皆さん、ごめんなさい。ワタシが犯してしまった罪はワタシが償わなければいけません。このままワタシを警察に突き出してください」


「えー、どうしましょう。警察にはまだ連絡していないし、警察は呪詛では捕まえてくれないんだけど」


 マユ姉ぇ、それ今言う事なの?

 感動の場面台無しな気がするんですけど。


「だから、恵子さん。貴方の罪は自分で償うしかないの。もう(みんな)の愛を知った貴方だから呪いなんて使う事は無いわよね」


「はい、もちろんです。絶対呪いになんて一生手を出しません」


「その言葉ホント?」


「はい、必ず」


「じゃあ、そんな恵子さんに私からのバツね」


 そう言ってマユ姉ぇは恵子さんの腫れ上がった右目辺りをデコピンで叩いた。


「痛!」


「マユ姉ぇ、一体何するんだよ!」


 つい、俺は声を荒らげてマユ姉ぇに言ってしまった。


「コウちゃんの早とちり、恵子さんの顔を見てみなさい」


 俺が恵子さんの顔を見ると腫れ上がったところから血膿(ちうみ)があふれ出し、しばらくすると腫れが落ち着き右目が外から見えるようになった。


「マユ姉ぇ、治療なら最初から言ってよ。びっくりするんじゃないか」


「だって、少しくらい痛い目見たほうが反省するでしょ。それにアレ治すのはどうやっても痛いからしょうがないじゃないの」


 看護士兼霊能力者のマユ姉ぇのやる事だから正しいのは分かるけど、びっくりするから話してから動いてよ。


「後は、私が霊的事象にも詳しい皮膚科のお医者様を紹介するからそちらで治療を受けなさい」


 マユ姉ぇは恵子さんの顔をしっかり見ながら言う。


「今回はコウちゃんに免じて貴方を助けました。『人を呪わば穴二つ』、呪いは呪った人も一緒に墓穴へ入る事なの。だから貴方を助ける必要は本当なら無いの」


 マユ姉ぇは真剣な表情を崩し、俺の方をみて苦笑いしがら続けて言う。


「でもお人好しのコウちゃんがお父様に助けてあげるって言っちゃったし、貴方が呪いの張本人でも無いから助けたの。貴方を(そそのか)した人は誰?」


「愚かなワタシを治して頂いてどうもありがとうございます。ワタシに呪いを教えたのは、ナイトと名乗る人です」


 その時、恵子さんの後ろから異様な気配が発生した。


〝それ以上語ってもらっては困ります。ナイト様のため、ここで貴方方全員口封じさせていただきます〟


 その声無き声と共に、長いねじくれた角を左右に生やしたヤギ顔の魔物が実体化した。


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