第217話 康太の魔神退治:その10「状況説明会その4 涙なんて吹っ飛ばせ」
「そして私と娘は妻の犠牲で財団、そしてアメリカから脱出する事に成功しました」
涙ながらに話すススムさん。
それを不思議そうに見上げるアリサちゃん。
「ぱぱ、だいじょうぶ? いたいの?」
「いや、パパは大丈夫だよ。アリサ、ありがとうね」
その悲劇的な話を聞いた皆、涙を溢さない人は誰も居ない。
「アリサちゃん、怖かったよね。悲しかったよね」
そう言ってアリサちゃんに抱きつく泣き顔のルナちゃん。
「お父さんの事、心配できるんだもの。アリサちゃんはすっごく良い子ね」
泣きながらアリサちゃんの手を取るコトミちゃん。
「うわぁぁぁん、こうにいちゃん。わたし、かなしいよぉ」
「コウ兄ぃ、お母さんって子供の為なら命がけなんだよぉ」
2人の妹達は俺にしがみ付き、泣く。
「そうね、母の愛は偉大だわ。でも、歪んだ愛情は悲劇を生んでしまうの。リーアさんのお母さんの『愛』が姉さん達を巻き込んだのだもの」
マユ姉ぇは2人の娘達に寄り添う。
「ススム君、よく頑張ったわね。でも同じ公安で同郷の私を当てにして欲しかったわ」
そう言って泣いているススムさんの頭を胸に抱えるアヤメさん。
そしてその一言を疑問に思った俺に向かって話す。
「コウタ君、本当はもっと早く言うべきだったのに、今まで言わずにごめんなさい。私、貴方のご両親に救ってもらった子供の1人なの」
アヤメさんの一言にびっくりする俺。
「コウタ君達の個人情報を調査していて、コウタ君のご両親について調べたときに気がついたの。その時点で秋山先生のところに伺って事情を話しただけれど、コウタ君にはまだご両親の死の真相を話していないとの事だったので、今まで言えなかったの。コウタ君のご両親のおかげで私もススム君も助かったの。どうもありがとう、そしてコウタ君を孤独にしてしまってごめんなさい」
アヤメさんは俺に謝る。
けど、それはアヤメさんやススムさんのせいでは決して無い。
悪いのは怪物をけしかけてきた財団だから。
「アヤメさん、それにススムさん。もう気にしなくていいよ。悪いのは財団。俺達は共に財団とやらの犠牲者なんだ。この怒りや思いは財団をぶっ潰して、これ以上犠牲者が出ないようにする事にぶつけようよ」
俺は心に誓う。
もう怒りや恨みに囚われず、人々を救うよ。
そう思いながらも、頬を伝う涙は暫く止まらなかった。
◆ ◇ ◆ ◇
「実に悲しい事じゃが、その時研究所と研究者は皆灰になったんじゃろ? 何故今になってもう一度アリサ殿を襲ってくるのじゃ?」
チエちゃんは涙を拭って話す。
泣き虫チエちゃんがアリサちゃんの事を聞いて泣かないわけはあり得ない。
さっきまでアリサちゃんを抱え込んで号泣していた。
まあ、後半になるとアリサちゃんは強く抱きつかれすぎて怒ってたけど。
「そうですね、私がアメリカから帰ってそろそろ1年です。一応公安や外事部経由で情報収集はしていましたが、つい最近まで何も動きはなかったのです。ホンの一月前くらいからですね」
俺にはピンとした感覚があった。
「チエちゃん、そのタイミングって俺達が狂気山脈で冒険していた時期だよね。何か関係ないかな? アメリカが遺跡を欲しがっていたし、その後ろに人造邪神を作った組織があるんだもの。絶対繋がっているよね」
「そうじゃな。おそらくそのセンは繋がっておるのじゃ! もしかするとワシが『槍』から聞いた話も繋がるやも知れん」
俺の質問にチエちゃんは答える。
「槍」さん、俺が退院後に行われた「四国うどん観光ツアー」に何故か付いて来ていた。
チエちゃんに教えてもらった方法で凄みのあるイケメン男子に変身して、うどんをウマイウマイと堪能していたのを覚えている。
「『槍』はワシらの母上、魔神女王から特命を受けておった。ワシらの兄上、そしてリタ殿の敵『将』が地球を狙っておる、そしてリタ殿の星と地球にあるナニかを使って父上を亡きモノにして、自分が全ての王になる野望をもっておるとな」
あの時、「槍」さんはお気楽に観光を楽しんでいたけど、そういう事があって地球に来ていたんだ。
暴れん坊だったけど、良いヤツだったのね。
「コウタ殿、感動しておるのは良いのじゃが、『槍』のヤツ。ワシへの報告はついで、地球に今後も遊びに来る名目だそうな。まあ、母上にワシの事はバレバレじゃし、当分ワシの事は放置してくれるそうなのじゃから問題ないのじゃ!」
うん、俺の感動を返せ!
「槍」のダンナ、アンタも面白デーモンの一員かよ。
シリアスな敵って「騎」くらいかよ。
もしかして地球、日本とデーモン族って相性良過ぎて「堕天」しちゃうのかもね。
数々の娯楽と愛、そして美食。
恐るべし、日本文化よ。
「じゃあ、最初から最後まで敵は『将』という事?」
リタちゃんから始まる俺の冒険、とうとう親玉が見えてきたよ。
「まあ、そういう事になりそうじゃ。そうそうワシの血縁じゃからといって手加減は必要ないのじゃ! リタ殿にとっては国、民草、ご両親のカタキじゃ。倒してしまうのじゃ!」
チエちゃんの掛声に、さっき涙がようやく止まったリタちゃんが話す。
「おねえちゃん、ほんとうにそれでいいの? わたし、うらんでないとはいわないけど、ちえおねええちゃんが かなしくなることは したくないの。わたし、おねえちゃんのきょうだい、もうひとり ころしちゃったの。でもね、もうころすのじゃなくて、こらしめて もうわるいこと できなくするので わたしはいいよ」
「そうよ、チエ姉ぇ。そのお兄さんとお話できるんでしょ。だったら、いっぱい話してそれでもダメならボク達で虐め倒して、土下座させちゃおうよ。殺しちゃったら損害賠償できないもの。チエ姉ぇが出来る事、そのお兄さん全部出来るんでしょ。なら惑星全部復興させてから、どこかに幽閉でいいんじゃない? チエ姉ぇのお父さんやお母さんにこっぴどく怒ってもらったら良いんだよ」
2人の妹達はチエちゃんが無理して話しているのに気がついている。
俺とてチエちゃんが同族を殺して悲しまないとは決して思わない。
俺達人類に対してさえ慈愛溢れるチエちゃんだもの、同族、それも兄弟を殺したくは無いだろうね。
俺も、さーちゃんや「槍」さんと話さなければ、「将」は倒すのも止むなしと思っていた。
しかし話してみると面白いし楽しい彼ら。
向こうも俺達とは楽しく過ごせるらしい、ならお互い問題が無い程度で共存してしまうに限る。
共存共栄こそ最高、「古のもの」ヒラムさんとも談笑できた俺達だ。
チエちゃんという前例があるんだから、デーモンとなんて今更さ。
話しても敵対するというのならしょうがないが、話さずに殺しあうのはイヤだ。
「おぬし達、そこまでワシの事を心配してくれるのか。オイ、コウタ殿、そんなところで泣くでないわい。分かった、分かったのじゃ。まずは話し合いからじゃ! 悪いヤツらには御仕置きが必要じゃが、殺してしまうのは最終手段じゃ。それで良いのじゃな! ほんと、お主達はお人好しでお節介焼きじゃ」
「それ、今更チエちゃんが言うの?」
涙で沈んでいた報告会は、笑顔に包まれていった。
俺達に涙は似合わない、笑顔でどんな敵にもぶち当たって、御仕置きして最後にトモダチにするんだ!
とことん、お人好しかつお節介焼きで押し通すコウタ達。
甘い事が全てに通じるはずはありませんが、甘い理想無くして平和は訪れないと著者は思います。
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