第215話 康太の魔神退治:その8「状況説明会その2 ススムさんとリーアさん」
ススムさんは、続けて話す。
「まず私の自己紹介を致します。私は、北条 進と申します。今年27歳になりまして、現在厚生労働省に勤務しております。こちらの方々、特に秋山先生には計り知れない恩義があります。私が幼少期、住んでいた郷が子供をさらう魔獣に襲われました。私の郷は、古来より公儀の役人として特殊なお役目に就く者が多く輩出されています。おそらくですが、その魔獣は私達のような豊富な魔力を持つ子供を食するのが目的だったのでしょう」
へー、昔でいう処の公儀隠密を輩出する郷。
忍者の隠れ里やタクト君のところみたいな術者の郷なんだね。
「その時、秋山先生ご夫婦とご息女ご夫婦、つまりそこのコウタ君のご両親が訪れて、コウタ君のご両親の犠牲で私達は救われたのです」
父さん、母さん。
貴方達が救った命は、ここまで大きくなり、次の世代へ命を繋げました。
俺もこの命を守りつつ、次の世代へとバトンを繋ぎます。
だから、遠くからで良いので、俺達を見守っていてください。
「その後、魔獣により両親を失っていた私は秋山先生や他の方々のお世話になり、無事社会人となる事が出来ました」
そうか、彼も俺と同じ、もしかしたらもっと大変な境遇だったのかもね。
俺には爺ちゃん婆ちゃんにマユ姉ぇが居たもの。
「私は厚生労働省に勤務する事になり、麻薬取締官になりました」
麻薬取締官、通称麻薬Gメン、マトリ。
厚生労働省にいながら警察と同じ特別司法警察職員として拳銃の装備、捜査が出来る人達。
薬学の知識に警察と同じ公安職員としての知識、警備能力を有し、日本の司法機関で唯一「おとり捜査」が認められている。
大卒でいきなりマトリになれるとは、ススムさんはものすごく優秀に違いない。
「マトリの訓練、学習の一環で私はアメリカへ半年程出向になりました。そこで私はアリサの母親、リーアと出合ったのです」
そう言いながらアリサちゃんの頭を撫でるススムさん。
「しかし、それはリーアの母、ヘレナの罠だったのです」
それは一体どういう事なのか?
◆ ◇ ◆ ◇
「ヘレナ、ゴメン。もうすぐオレは日本に帰らなきゃいけないんだ。だからキミに言うよ、オレと一緒に日本へ来ないか?」
米国、とあるモーテルの一室。
2人だけの睦ましい時間が終わった後、けだるいが愛おしい雰囲気の中、ススムは横に横たわるリーアに話す。
「ごめんなさい。わたし、本当は貴方について行きたいの。でもわたしにはそんな事母さんが怖くて出来ないの。それにわたしには、そんな資格ないのよ」
少し体を起こし、裸の胸を隠すようにシーツを上に上げる悲しげな表情のリーア。
「どうしてなんだい? リーア、もうキミは20歳越えているんだ。自分で自分のことは決められるだろう?」
ススムは、母親を怖がるリーアを信じられない。
「わたし、今までも母さんの言う通りにしてきたの。こんな事今まで言えなかったけど、ススムさんと付き合うのも母さんの命令だったの」
「なんだって!」
ススムは、涙を流すリーアを凝視する。
「ススムさん、貴方はものすごい『力』持ちよね。わたしも少し力があるから分かるの。母さんは、ある財団の研究所長で霊的兵器の開発主任でもあるの」
リーアは、スレンダーでつつましやかながら綺麗な裸体をシーツで隠しながら、ベットに座る。
「わたしには霊媒と次世代に英雄を生み出す「大神殺し」の才能がある、いやそういう風に造られたんです」
ギリシア神話等に出てくる神をも殺す英雄達、それは一代でとてつもない進化をした人類の頂点。
そしてそれは神の血を次ぐ子として生まれる場合が多いが、その血を受ける母体も通常の女性では力に負けてしまう。
神の力にも負けずに次世代へその能力を進化させて生み出す女性、それが「大神殺し」。
「造られたってどういう事なんだい!? まさかキミの母親が!?」
「はい、母さんは自らも実験台としてわたしを生み出したんです。もう核兵器の時代は終わる。次に世界を統べる兵器は霊的兵器だというのが、財団そして国の考えなんです」
リーアは赤みを帯びた金髪を弄りながら衝撃の事実を話す。
「そして母さんは次世代の『種』としてススムさんを狙ったのです。昔、ススムさんが子供の頃、怪物に教われたでしょ。アレは財団が優秀な魔力や才能を持つ子供の遺伝子を魔獣ジャバウォックに取り込むために行われた実験だったの」
魔獣ジャバウォック、「鏡の国のアリス」作中に出てくる魔物。
財団ではその魔物の名前をコードネームとした魔力収集用の怪物を飼育していた。
「アレは、オマエらの仕業だったのか! オレはアレで両親や大事な人達、そして助けに来てくれた人達を失ったんだ! それもこれもオマエらが!!」
ススムは激怒する。
リーアが直接関与していなくても、自分を今も狙う財団に彼女が組するのだから。
「そう。だからわたしを恨んでくれていいの、ススムさん。それだけの事をしたし、今まで騙していたんだから」
そう泣きながら話すリーアを見て、はっとするススム。
「違う! リーアは何も悪くない。悪いのはリーアやオレを苦しめる財団だ!」
リーアを強く胸に抱き、同じく泣くススム。
「でも、わたしは日本へは行けないの。だって、国や財団がわたしを外に出してはくれないわ。もう既にわたしのお腹にはススムさんの子がいるの。それにわたしに何かあったら国はススムさんを殺すわ。そんなのイヤなの!」
「オ、オレの子供が……」
ススムは悲しみと嬉しさが混ざった複雑な表情でリーアの顔を見る。
「わたし、最初はススムさんとは義務や仕事と割り切って付き合っていたの。でもね、途中からススムさんの事本当に好きになってしまったの。仕事抜きでススムさんの子供を生みたいと思ったの!」
リーアは涙で塗れた顔でススムの顔を見る。
彼女の琥珀色な瞳にはススムしか映っていない。
「だからね、ススムさんは何も知らない顔をして日本へ帰るの。そうすれば、もうススムさんが危ない目に合う事は無いわ。日本へ帰ってわたしなんかよりも可愛いコをお嫁さんにして」
「そんな、キミを放り出して帰国なんて出来ない! それにオレの子ならオレが守るのが当たり前だ。財団なんだかアメリカなんだか、そんなの関係ない! オレが守ってやるから一緒に日本へ行こう!」
ススムはリーアの髪をかき上げて、その涙に塗れた美しい顔を見た。
「ススムさん……」
「リーア」
見詰め合う2人はキスを切っ掛けにして、再び2人の距離は0となり、水音がしていく。
◆ ◇ ◆ ◇
「翌朝、起きるとリーアは既に居らず、書置きがありました。『わたしを忘れて幸せになって』と」
そう話すススムさんは悲しげな表情でアリサちゃんの頭を撫でていた。
驚愕の事実、アリサちゃんとその母親リーアさん生誕には秘密があった。
それを聞いて怒りがこみ上げていくコウタ達。
物語はどんどん大きくなっていく今作!
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