第210話 康太の魔神退治:その3「次なる戦いへ!」
「コウ兄ぃ、もう大丈夫?」
ナナは俺を心配して顔を覗き込んでくる。
「大丈夫な訳無いでしょ。もう俺ナナ相手に油断出来ないよ」
涙や思い悩んでいた事はキスの衝撃ですっかり吹っ飛んだので、そういう意味では良かったけど2人だけで無いところでの奇襲キスは恥かしすぎる。
多分PTSDになった両親の死を上書きしてしまった様に思える。
俺は多分耳まで真っ赤にしているだろう顔をナナに向けられない。
「ナニそれ? コウ兄ぃ、ちゃんと相手の目を見て話さなきゃダメでしょ」
そう言ってナナは俺の顔を両手で握ってグイっと自分の方へ向けた。
「あ、ごめんなさい」
そう言いつつ、俺は思わず唇を両手でカバーした。
「え、もしかしてコウ兄ぃ。ボクがもう一回キスすると思うの? とーぶんはしないよ。だって今回はコウ兄ぃを励ます意味もあったんだもの。それにこれ以上やっちゃうとお母さんも怒るし、コウ兄ぃがオオカミになっても困るしね」
そう言ったナナはマユ姉ぇの方へ向く。
「そうよ、ナナ。そのくらいにしてあげなさいね。競走馬の前にニンジンぶら下げると走るの早くなるけど、いつまでもそうするのは可哀想だし」
俺は、マユ姉ぇの答えにウンウンと頷く。
だって、これ以上は後4年は待たなくちゃダメだもの。
いくら俺SAN値鍛えていてもナナからお誘いうけたら、いつまでも辛抱する自信ないもん。
「はい、そーします。じゃあ、コウ兄ぃ、もう大丈夫だよね」
「うん、もー大丈夫。皆、どうも心配かけてゴメンね」
そう言って皆の方を見ると、温かい目で見てくれている人達と、カメラ越しにニヒヒと笑う悪魔幼女、パニックしている娘親がいた。
まあ、チエちゃんは今更なので放置しておく。
多分、今回とかの映像は俺達の結婚式や子供が生まれた時のネタとして一生言われることであろう。
ん、あれ俺すっかりナナと結婚するつもりになっているぞ。
うーん、不満は全く無いし、ナナの事は大好きだけど、将来設計をしっかり考えないと後が大変だ。
なにせ、マユ姉ぇが完全に俺の義母になるのだから、修行もナナの扱いも手抜きは出来ないからね。
その前にパニックしている正明さんに正式に話さないと。
「正明さん、すいません。突然、こんな形で2人の関係をお知らせする事になりまして。本来ならナナが18歳になるまでは保留のつもりだったのですが、こう皆様に知られた以上はっきりとした形にしなくてはなりません。娘さんを、ナナを一生大事にしますので、お付き合いを許してもらえないでしょうか?」
俺はちゃんと正座をし直し、正明さんに向けて頭を下げた。
「コウタ君、もうキミはずいぶんとナナを助けてくれています。この間は文字通り命の恩人だったそうだね。僕もキミとは長く、それこそナナがマユさんのお腹の中に居るときから一緒にいるから、キミが素晴らしい人だというのは良く知っているよ。こちらこそ、不束者の娘ですが、宜しくお願い致します」
正明さんも座りなおして、俺に向いて頭を下げてナナと付き合う事を許してくれた。
そしてナナに向きなおして話す。
「後、ナナ。これ以上コウタ君を困らせたりしないでね。さっき、チエちゃんに聞いたけど、毎回ナナが奇襲キスしているそうだね。奇襲キスは今回が最後にしなさい。オトコが欲望を我慢するのは大変なんだぞ。タダでさえ待たせるんだから、これ以上ムダに刺激しないように」
「はーい。コウ兄ぃ、良かったね」
「うん」
正明さんがナナに歯止めを言ってくれたのは助かった。
だって、ナナの事だ。
どんどんエスカレートするに違いないから。
「さて、チエちゃん。毎回という事は、屋上とか病室の時も撮影していたんだよね」
俺はジト眼でチエちゃんを見る。
「そうじゃ、せっかくのシャッターチャンス。コウタ殿を一生からかえるネタじゃから、逃す事はありえないのじゃ!」
俺の視線を無視するように、いつもの「無い胸」張りの全力ドヤ顔。
こりゃダメだ、悪魔を改心させる事は人類には難しい。
一生、弄ばれるのを観念しようか。
まー、楽しい一生送れそうだけどね。
それから少々話をして、俺達は魔剣を爺さんに預けて帰宅した。
◆ ◇ ◆ ◇
「さて、真面目な話をしようか、シャドウ・スマッシュさん。コウタは大丈夫なのか? ありゃ完全にPTSDだぞ。これからを考えたら危険と思うが」
コウタ達が帰宅した後、好々爺の仮面を外して、真面目な顔になった正蔵は魔剣に話す。
「ええ、かなり無理しているんですもの。あの様子はお母さんそっくり。あの子も優しすぎて、退魔師なんて向かなかったのに、無理して人助けしていたからあんな最後だったのに。マーちゃんは何処か吹っ切った処があるから大丈夫みたいだけど」
歌子も心配そうな顔で魔剣に話しかける。
「確かにしばらくぶりに見る俺から見ても、コウタは随分と危なっかしいぞ」
いつもは能天気な顔の勝也も渋い顔をして話す。
「確かに今朝までの状況なら危なかっただろうな。幼い頃の自分を救う代行作業として人助けをしていたのだから。しかし、ナナ殿の衝撃的キスが効果抜群だったようだ。先程主の心を覗いてみたが、純粋にナナ殿や他の大事な人々を守るという心に変わっておったから大丈夫じゃな。いわばショック療法だな。大きなより強い思いを連想する行為で上書きしたのだから」
「なら安心じゃな。さて孫同士の結婚とは嬉しい事じゃ!」
「ええ、すーちゃんさん。これからもあの子達を宜しくお願い致します」
「俺達じゃ冒険についていけないから、頼んだぞ」
祖父母や伯父の思いを聞いた魔剣は自慢げに答える。
「グランドマスター、グランドミストレス、そしてグランドアンクル。我はこの存在をかけて貴方方のご子息達を守り申す。出来ますれば、貴方方の持つ力を我に伝授してもらえないだろうか? 特にグランドマスターの剣術は今後、マスターの役に立つと思われる。先日のトドメを刺した業もグランドマスターの業と聞く。宜しく頼み申す」
「ああ、お安い御用だ。さあ、今晩はゆっくり話そうや。俺も聞きたいからな、すーさんの冒険談」
「え、父さん! それは俺も聞きたいぞ!」
「はいはい、じゃあ今晩は熱燗でも飲みながらゆっくりお話しましょ」
秋山家の明かりは深夜になっても煌々と着いていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「コウタ、いつになったら魔剣殿は帰ってこられるのか?」
「光兼さん、俺にもそこは判らないよ。どうも爺さんと意気投合しちゃって技を教えたり教えてもらったりしているそうだから」
あれから数日、まだ魔剣シャドウ・スマッシュさんは爺さん家から帰らない。
俺は定期的に念話会話しているし、魔剣を使う用事も無いので問題ない。
しかし、同じ知性剣の光兼さんは気になって仕方が無い。
今までは自分が一番の古株だったのだけど、圧倒的に高齢かつ圧倒的な力を持つ魔剣シャドウ・スマッシュさんの登場で立場が大きく変わった。
なにせ戦闘以外でも念話だけでなく音声会話を魔剣が出来るのにショックを受けたらしい。
あれから苦労しつつスマッシュさんに刀身の振動方法を教えてもらい、数日前に音声会話能力を得ていた。
「もうじき帰ってくると思うから待っててね。光兼さん、ずいぶんとスマッシュさんと仲良くなったんだね。音声会話も出来るようになったし、流石ですね」
「そうだろう。某も遊んでばかりではないのだ!」
味方が強くなるに全く問題が無いので良し!
まあ、少々マユ姉ぇ宅がうるさくなるのはしょうがないかな。
そうこうして数日後、深夜にスマッシュさんから連絡があった。
〝コウタ、かなり不味い事態だ。マユコ殿達とグランドマスター宅に急いできて欲しい。すでに戦闘状態だ。我が時間を稼ぐ!〟
俺は布団から飛び起きて、携帯電話アプリから緊急コールをマユ姉ぇに送った。
一体、ナニが起こっているんだ!
いよいよコウタ達の最後の戦いが始まる
一体、ナニが待ち受けているのか、乞うご期待。
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