第205話 康太は冒険者になる:その54「えぴろーぐ:2」
いよいよ第4部最終回です!
俺の意識はどんどん覚醒していく。
しかし、何か変な感じがするぞ、この感覚って?
以前、こんな事があったような??
「う、ん? なんかおなかの上が重くない?」
「あ、コウ兄ぃ、やっと起きたよ! おはよう、じゃないか、こんにちは?」
「疑問形であいさつするんじゃない、こういう場合でも『おはよう』で良いんだよ」
あれ?
このやりとり、大分前にやったぞ。
なお、時計を確認したら、確かに午後2時くらいでした。
「うん、おはよー! コウ兄ぃ、中々起きないから心配していたんだよ。だって、ボクを助けて、そのまま倒れるんだもん。だから、だから……、ボク心配で心配で」
そう言うナナの眼には、いっぱいの涙が貯められている。
「ごめんね、随分心配させちゃったよ。でも良かったよ、ナナ無事だったんだもの」
俺は上半身を起こして、お腹の上に座るナナを軽く抱いた。
「それはボクの台詞だよ! いくらボクが無事でもコウ兄ぃに何かあったら意味無いもん。だから、だからね、ボク、ボク……、うわーん!」
ナナは、俺にしがみ付いて泣き出した。
俺が家族を失うのが怖いのと同じく、生まれた時から一緒に居る俺が目の前からいなくなるのが怖かったのだろう。
ピクニックの時も俺は居なくなると怖がったナナだから。
「よしよし、俺は絶対ナナの前から勝手に居なくならないよ。俺にとってナナは必ず帰る場所だもの。だから大丈夫だよ」
俺は、ナナの背に手をまわし、ヨシヨシとナナを慰めた。
「うん、ボクもコウ兄ぃとずっと一緒に居るんだ! だから、約束して。もう無茶しないって」
ナナは涙目で俺の顔を見上げる。
その顔は随分と綺麗かつ色気を感じるものになっていて、ナナはすっかり恋するオンナのコに見えた。
「うーん、ナナを守る為には無茶しちゃうかもだけど、絶対何があってもナナのところに帰るから、それで良い?」
「うん、良いよ! だーい好き、コウ兄ぃ!」
ナナは眼を瞑り、顔を上に向けて唇を俺に向ける。
え、「そういう事」なの!
据え膳喰わぬは恥というけど、コレ喰っちゃうのは不味くないかい?
マユ姉ぇとは、ナナが18歳になるまで手を出さない約束しているし、キスも手を出す事にならないか?
それに、今の俺の口は絶対臭い。
3日も寝ていたら口内状態は良くないぞ。
こんな状態でファーストキスをしちゃうのは、絶対不味い。
後に良い思い出にならなくなるよ。
俺は、ナナに悪いと思い、妥協案としてナナの額に軽くキスをした。
「え?」
ナナは額に手を当てて、不思議そうな、少し不満そうな顔をする。
「ナナ、俺の口多分臭いし、勢いでしちゃうのも違うと思うから、今は額で勘弁ね」
「もう、デリカシーも乙女心も判らないんだもん、コウ兄ぃ。でも、まー良いか。これは手付けにしておくね」
そう言って、機嫌を治したナナは俺の腹の上からぴょんと飛び出した。
「あらあら、せっかくチャンスだったのに。コウちゃんやっぱり度胸無いわね」
「うん、せっかくおねえちゃんにゆずったのに、これだもん。また わたし おにいちゃん とっちゃおうかな?」
「ええ、先輩はこういう所がダメダメですから」
病室の影から出てくる、マユ姉ぇ、リタちゃん、コトミちゃん。
「え、まさかずっと見てたの?」
俺は、ギギギと音が立ちそうに首をマユ姉ぇ達に向けた。
「ええ、最初からね。だって、こんな名場面逃せないもの。将来、孫達に話さなきゃならないでしょ。お母さんとお父さんは、こうやって結ばれたんだって」
「わたし、もういちど おにいちゃんのおよめさんに りっこうほ するの!」
「実に良い場面だったのに、根性ナシですよ、先輩」
なんだ、コレは。
普通、意識不明から復活したら涙ながらに喜んでもらえるんじゃないのか?
「そういうのをワシらに要求するのはマチガイじゃぞ。まあ、今更じゃ!」
ふと下の方を見たら、チエちゃんがハイビジョンカメラ構えていた。
あのままキスしていたら、超絶高画像映像証拠付きで一生言われちゃうところだったのかよぉ!
「あー、俺って皆のオモチャなのぉ!」
「そんなの今更じゃぞ!」
とまあ、俺は怒られる前に遊ばれましたとさ。
もちろん、その後はいろんな人々からたっぷりとお小言頂きました。
◆ ◇ ◆ ◇
「うーん、身体が随分となまっちゃったなぁ。これ、修行復帰が怖いや」
俺が意識不明から復帰して3日目、もう起きても問題ないのでリハビリとして院内を散歩中。
秋も終わりに近づいて朝晩が寒くなった今、天気がよければ日中は日向ぼっこに最適。
屋上のベンチでゆっくりと空を見上げながら、俺は色々と考える。
「カオリちゃんやケイコちゃんの受験もそろそろ大詰めだよね。AO入試なら今月後半だし、入試共通テストは後2ヶ月弱。なんとかして2人とも合格させないと」
2人には昨日お見舞いに来てもらい、もっと自分を大事にしろとお小言頂きました。
「後は、俺の修士論文か。こっちはもう微調整だからコトミちゃんと教授に確認してもらえば良いか」
一昨日見舞いに来た教授によると、修士論文さえ通れば大学に研究員として雇ってもらえるらしい。
これで、俺も晴れて学術研究員の仲間入りだ。
「さあ、色々頑張ってみますかね」
俺は、うーんと背伸びをしながら思う。
どうやら俺はナナの事を妹以上に思っているらしい。
ナナも俺の事を愛してくれている。
しかし年齢は10歳も違うし、法律上問題無いとはいえ従兄妹同士だ。
幸い、マユ姉ぇは俺とナナの関係は認めてくれているし、年齢差に関しては俺が辛抱すれば良いだけのこと。
この先、何かと事件が起きそうな気がするけど、俺ナナが居れば頑張れそう。
そう俺が天を見上げながら思っていたとき、急に目の前が暗くなり、唇に柔らかなものが触れた。
「コウ兄ぃ、油断しすぎだよ! ボク、コウ兄ぃのファースト、貰っちゃったよ!」
いくら油断しているとはいえ、人間の接近が分からなかったのは不甲斐ない。
それも、言わん事か、ナナに唇を奪われるとは。
「ナナ、ちょ、ちょ、ちょっと何しているのぉ!」
「え、コウ兄ぃ、イヤだったの?」
「そんな事無いよ! イヤな訳無い! だってナナは俺の……」
俺、耳まで赤くなっている気がしないでも無い。
「まさかファーストじゃなかった? もしやコウ兄ぃ、『オトナの階段』上ったの!?」
「すいませんねぇ、俺そういうには縁が無いの」
悪かったね、俺この歳で童貞なんだから。
「そうかなぁ、最近コウ兄ぃの周りに綺麗なお姉さんいっぱい集まってくるのに」
「それもこれも『次元石』が妙なフラグ立ててるからだよ! それに俺はナナ以外にはそういう事する気は無いから」
あ、俺何か言っちゃったよ。
そうか、俺本気でナナが好きなんだ。
「あー、もうコウ兄ぃのエッチぃ! これ以上はボク、いや、わたしが18歳になってからね」
後4年程お預けらしいけど、ナナの「ヒマワリ」な笑顔見ていられるのなら、それは問題ないよね。
「うん、それまでにもっと立派なオトナになってみるよ」
「コウ兄ぃは、今でもスゴイよ。でも、わたし待っているからね!」
俺達は、いつも通り笑いあった。
それは、天高い秋晴れの空に広がっていった。
◆ ◇ ◆ ◇
「よし、ベストショット撮影成功じゃ! これで一生コウタ殿達をからかえるのじゃ!」
チエは、屋上にある空調室外機の陰からコウタ達のイチャイチャシーンを撮影していた。
〝チエお姉ちゃん、お行儀悪いと僕思うよ〟
それは、チエの周囲に踊る小さな光からの声なき声だ。
「だって、これ逃すのはもったいないのじゃ! 別に家族以外には見せぬのじゃ! 問題ないのじゃ!」
〝はー、僕いつになったらお姉ちゃんから離れられるの? お姉ちゃんのイタズラに協力するのはもうコリゴリだよぉ〟
「それはしょうがないのじゃ、カズ殿。お主のサルベージは完全では無かったのじゃ。自我と記憶が戻っただけでも、スゴイ奇跡なのじゃ。もう少ししたら肉体も準備するのじゃ。もう少しの辛抱じゃ。母様からOKが出たら、皆に紹介するし祖父殿とも一緒に暮らせるようになるのじゃ!」
〝それならいいや、僕頑張る!〟
「そうじゃ! 賢くしておればイイ事もあるのじゃ!」
チエは、小さな光にニッコリと笑いかけて、次なるシャッターチャンスを逃さないよう、コウタ達を見る。
「さあ、コウタ殿! これから大変じゃが、ナナ殿達と共に励むのじゃ!」
そして、チエは何処か視線を感じた方向を向き話す。
「もう少しコウタ殿達の物語は続くのじゃ! 今後も乞うご期待じゃ!!」
(おしまい または つづく)
これにて全54話、第4部終了です。
皆様、如何だったでしょうか?
とうとうお互いの気持ちに気がついたコウタとナナ
これからの2人はどういう運命を迎えるのか、そして次なる敵は何か?
次は最終章となる予定の第5部、ここまで広げた風呂敷を綺麗に畳む時間です。
なお、掲載はしばらくお時間を頂きまして12月以降を予定しています。
第5部で終わらなかったらごめんなさいね。(笑)
では、次回更新は少しお休みして11/30をお楽しみに
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