第203話 康太は冒険者になる:その52「神器争奪戦16:邪神退治3」
俺は意識を通常空間へ戻し、邪神へ追撃をしながら後ろから聞こえてくるマユ姉ぇとナナの呪に感動した。
「ノウモボタヤ ノウモタラマヤ ノウモソウキャ タニヤタ……」
それは孔雀明王の大呪(陀羅尼)、いわば呪文のフル詠唱。
普段の短縮真言バージョンでは無く、明王に願いを強く伝える言葉。
真なる言葉。
宇宙の真理を紐解き、我らにその力の一端を与えてくれる言葉。
ナナとマユ姉ぇの詠唱は、美しいハーモニーとなって遺跡内に響いて行く。
「ああ、美しい! まるで女神の降臨か!」
フランツ君が2人に見惚れたように呟く。
あー、羨ましいな、俺後ろ見る余裕無いのに。
「コウタ殿、ココが仕掛け時、キメ時じゃ!」
チエちゃんが、俺に一瞬触って接触念話でマユ姉ぇの策を教えてくれる。
よし、それで行くぞ!
「おう、一気に行くよ!」
俺の一撃は、邪神の防御結界を粉々に砕いた。
「続いて足止めじゃ!」
チエちゃんの合図で、デーモン4人は多重重力結界を邪神に放つ。
「ここで性懲りも無く重力結界とは、陳腐な!」
邪神は、たかが重力結界と舐める。
そう、確かに邪神相手では多重結界とはいえ数秒の足止めにしか使えない。
しかし、この数秒が大事なのだ。
「今じゃ! 母様、ナナ殿!」
チエちゃんの掛け声で2人の詠唱は止み、目を見開きそして最後の呪を放つ。
「オン マユラキランテイ ソワカ! 仏母孔雀明王光翼呪!」
2人の背に生える天使の翼から、圧倒的な光量の「力」が放たれる!
「ぐわぁぁぁ!」
その光の束は、邪神を完全に飲み込んだ。
練りこむだけ練りこんだ魔力を使ってのフル詠唱+親子共鳴。
これ以上ない破邪攻撃呪文だ。
「おー、くわばらくわばら。こんなの喰ろうたらワシ一発で成仏するのじゃ!」
チエちゃん達デーモンは、さっさと光の束から逃れる。
半分精神生命体であるデーモンにとっては、この光は害でしかない。
後ろから浴びている俺には、とても暖かく力を与えてくれる光だけれども。
「コウタ殿、一気に仕上げじゃ! その光の中で戦えるのはコウタ殿だけじゃ。やってしまうのじゃぁ!」
「おう!」
俺は残る魔力を魔剣と身体に注ぎ込み、光に溶けそうになっている邪神へ踏み込んだ。
「爺ちゃん、技借りるよ!」
爺ちゃんの技、それは対人を越え魔を滅ぼす技。
それを俺は、神殺しの技として振るう。
最初に、全力の瞬動法による突撃からの、魔剣の柄による突き!
「ぐ!」
左手と逆手に握った右手を添えた状態からの右下から左上への切り上げ斬撃!
「ぎゃ!」
右手を順手に持ち替えて、右上から左下への袈裟がけ切り!
「お!」
そのまま剣先を翻して左から右への水平薙ぎ!
「わ!」
剣を大上段に構えての垂直唐竹割り!
「ひ!」
剣を手元に引き込んでからの2連撃平突き!
「うぉ!」
まだ仕留めきれていない。
邪神の目に、まだ力が見える。
もう1ループだ!
左上切り上げ!
袈裟懸け!
薙ぎ!
唐竹!
漆黒の刃から放たれる斬撃が、金色の軌跡を描く。
一撃ごとに邪神の身体は大きく抉れ、タール状の体液と共に肉が光となり消える。
そして最後に全魔力を剣先につぎ込んでからの、剣ごと体当たりする勢いで踏み込みつつ放つ全力の突き!!
合計12連撃、必殺の神殺しの剣技。
名づけるなら「ラグナロク」とでも言おうか?
片手剣での11連撃とか片手剣二刀流16連撃とか聞いた事があったけど、まさか自分がやるなんてね。
最後の突きは、邪神の胴体に大きな穴を開けて、邪神を上下に分断した。
突きの威力で吹き飛ばされた邪神の上半身は、そのまま部屋の壁にぶち当たり、残る下半身も剣先から放たれた金色の魔力衝撃波でバラバラになった。
ど――ん!
最後に全力で打ち込んだ最速の突きは音速を超えたのか、邪神が吹き飛ばされた後に衝撃波と共に大音響が遺跡内に響いた。
「はぁはぁはぁ……」
俺は体力も魔力も使いつくし、その場にうずくまった。
「ワ、ワタシ、ハ、カミ、ダ!」
邪神は、片言で呟く。
まだ、仕留めきれなかったのか?
荒い息の中、俺は邪神を見ると、その姿は想像を絶する物であった。
そこには全身の肉が剥げ、下半身を失った骨格人形のような金属体があったからだ。
それは、まるでシュワちゃんの出世作映画のアンドロイド兵器に似ている。
そして邪神の切断された下半身へと繋がる背骨や千切れた腕からは、パチパチと火花が出ていた。
「コイツ、まさか人工的に作られた邪神だったのか?」
「ワ、ワ、ワタ……ワ!」
壊れたオルゴールにようにしゃべる機械人形、それが邪神の正体だったとは。
「リタ殿、止めじゃ!」
「うん、いっくよー! ばけもの! ひかりに なれー!!!」
チエちゃんの掛け声で、最大級まで魔力を溜めこんでいたリタちゃんから光の弾が放たれる。
そしてその光に包まれた邪神は、無音のまま完全に光子へと変換され、この世界に塵一つ残さずに消滅した。
「ふぅぅぅ」
俺は大きなため息を着き、後ろにいる皆を見た。
そこには、倒された人喰い鬼ガグの上によじ登りガッツポーズをしているタクト君、それをハラハラして見ているアヤメさん、遠藤姉妹。
そしてうわーって感じで呆れているコトミちゃん、うむうむという感じの教授、シンミョウさんとハイタッチしているカレンさん、マユ姉ぇをうっとり見ているフランツ君がいる。
そしてマユ姉ぇの方を見ると、ナナと揃って「ヒマワリ」の笑顔で俺を見てくれている。
そしてリタちゃんは「おにーちゃん、やったよー!」と大きく手を振ってくれる。
〝オマエ、やるじゃねーか〟
嬉しそうに俺の肩を後ろからバンバンする「槍」さん、にこやかに暖かい笑顔をしてくれるサーちゃん。
「流石はコウタ殿! 見惚れたのじゃ!」
悪魔形態でいつもの「胸張り」ポーズをするチエちゃん。
「お見事でございます」
俺に華麗な挨拶を返してくれる朧サン。
俺は、こんなに素晴らしい仲間と一緒に戦えたんだ。
そう思い、もう一度ナナの顔を見ようとしたとき、プチっという感覚と共に俺の視野は暗転した。
「コウタ、ご苦労だった。しばらく休むが良い。後の事は任せておけ!」
魔剣の声が聞こえた後、俺の意識もどこかへと消えた。
うん、無理しすぎたものね、しょうがないや。
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