第201話 康太は冒険者になる:その50「神器争奪戦14:邪神退治1」
俺は瞬間移動を駆使して、邪神の懐に踏み込んだ。
魔剣は、その能力で空間を切り裂き何処にでも渡る。
俺はその能力を行使して、ナナ達の避難や攻撃に使っている。
「はっ!」
俺は、無造作に魔剣を左下から右上に切り上げをした。
魔剣は金色の軌跡を描いて邪神に食い込む。
その一撃は、邪神の周囲を守っていた防御結界を一撃で破壊する。
「ぐわぁ、何故私の守りが壊れるのだぁ!」
邪神が何かホザいているけど、そんなの無視。
「えい!」
俺の一撃で防御結界が無くなった邪神に、マユ姉ぇは可愛い掛け声で攻撃を打ち込む。
本気モード「光兼」サンの薙刀モードの斬撃は、その可愛い掛け声とは違い重く邪神に食い込む。
「追加じゃ!」
更に悪魔モードのチエちゃんが漆黒の剣で突きをする。
「うぉぉ! 己ら、私は神だぞぉ!」
そう吠えて再び防御結界を形成する邪神。
「ふっ!」
そんなの関係ないやと、結界越しに邪神に目がけて平突きを見舞う俺。
もちろん、その一撃で再び邪神の身を守る防御結界が破壊される。
〝オラぁ!〟
そこに追撃とばかりに「槍」さんが槍による3連突きを見舞う。
「はい!」
ダメ押しとばかりに手に持つ黒い杖から虚無球を連打するサーちゃん。
「くそぉぉ! 何故私がヒトや妖魔如きに押されなきゃならんのだぁぁぁぁ!」
どんどん削られていく邪神、すっかり余裕もなく俺達の攻撃をさばいたり防御結界を貼るのが精いっぱい。
こちらへ攻撃をする余裕すら殆どない。
このまま一方的に追い込むべし
◆ ◇ ◆ ◇
「ふぅぅ、結構苦しいんだけど」
俺は、魔剣が作った異空間で愚痴る。
「しょうがあるまい、一手間違えたら死ぬのだからな。ここで確実に次の手を考えて攻撃をせねばな」
魔剣シャドウ・スマッシュさんに窘められる俺。
さっきから気持ちよく戦っているように見えているけど、実は一手毎に異空間に精神を移して、そこで策を検討してから行動に移している。
要は思考加速しているのと同じだ。
「そりゃそうですけど、この空間と実空間の切り替え時は本当に大変なんですよ。文字通り切り替えですから」
意識的にはワンアクション毎にポーズして行う格闘ゲームと同じだ。
「まだしばらくは魔力的にも問題あるまい。もう少しこのままでいくのだ。しかし、コウタ。お前の『トリガー』とやら、かなり危険だぞ。自分の中のトラウマを利用したブーストであろうが、使用し続ければいずれは精神がすり減って死ぬぞ」
魔剣は、俺の「トリガー」に対して心配をしてくれる。
彼の言うとおり、「トリガー」は両親の死に対する俺の「トラウマ」をきっかけにしてる。
もう誰も失いたくない、悲しませたくないという思いを魔力に無理やり変換しているようなものだ。
以前はそこまで強敵と対峙しなかったので使った事は殆ど無かったけど、去年のリタちゃんとの出会い辺りから強い敵が多くて、俺は「トリガー」を多用してる。
使えば圧倒的な魔力を得るが、大きく精神は高ぶり猪突猛進しやすくなる。
また反動も大きく、使用後に寝込んだりする場合もある。
その上、最近頻繁にキレやすくなって「トリガー」起動をすぐにしている気もする。
実際、家族ネタとかは、俺には苦悩であり渇望するものでもある。
だから、ルナちゃんやリブラの話は俺にとっては心に刺さる。
この間も、アニメ化されて面白いという小説が投稿サイトで無料公開されているからってナナから紹介されて読み出したら、俗に言う転生系なのに家族愛に溢れる素晴らしい作品だったので、だくだく泣きながら何日も徹夜して全部読んでしまった。
家族を守る為に幼いながら家族と引き離されても、家族との細い縁という糸をなんとかして繋ぎ、家族そして仲間を救うべく、そして自分が好きな本を求めて暴走する女の子。
まさか、ネット小説、それも女の子主人公の話で号泣するとは思わなかったよ。
さすが書籍版もバカ売れする訳だね。
「うん、終わったら少し考えてみるよ。いずれトラウマとも向き合わなければいけないだろうしね」
マユ姉ぇや爺ちゃん、婆ちゃんと両親の死因についてちゃんと話さないといけないな。
けど、今はそれよりもナナやリタちゃん、マユ姉ぇ等皆の命が大事。
この愚かな神を倒すべし!
「うむ、分かっておれば良い。我もマユコ殿達と相談に付き合おうぞ。これも主従関係だ! それとな、コウタの自身の命も大事なのを決して忘れるでないぞ。コウタは自分の命を軽視して無茶しすぎるのだ。コウタが死ねば多くの人が泣き悲しむのだからな。より多くの人を助けたいのなら、決して死ぬでないぞ」
「色々とありがとうね。じゃあ、とっとと片付けますか!」
魔剣さん、実にありがたいよ。
この出会いは、皆に感謝だね。
◆ ◇ ◆ ◇
〝実に気持ちいーなぁ! このまま畳み込むぞぉ!〟
「槍」さんは、自分が出来るであろう最高の攻撃を邪神の身に打ち込む。
俺から見ても、その一撃一撃は大量の魔力を帯びていて、少々の防御を無視して邪神を貫く。
「のじゃ!」
チエちゃんも兄弟と協力して戦えるのが嬉しそうだ。
理由があったにせよ、同族を裏切る形で別れたチエちゃん。
できたら、サーちゃん以外にも同族内で味方が出来てほしいよ。
「お兄様、お姉様、大技行きますよ!」
サーちゃんも嬉しそうに戦う。
デーモンにとっては戦いは娯楽であり、食事。
そこで生まれる感情を糧とする生き物だから。
しかし、悲しみや憎しみで戦うよりは、愛する者や守る者の為に一致団結協力して強敵と戦うというのは感情的に好ましい気はする。
ぜひともデーモン族にもこの感覚を覚えて頂き、無益な侵略とか辞めてほしいものだ。
「サーチ様、防御は私めにお任せください」
「朧」サンは、黒執事モードで邪神の攻撃を華麗にいなしていく。
流石チエちゃんの「子」というべきか、華麗さとか優雅さに拘って、朧サンは上位悪魔形態をまず見せない。
それでいて弱いかというと、通常の上位悪魔なんかよりも圧倒的に上、ほぼ魔神将級の力を持っているように俺には見える。
だって、「槍」さん配下の上位悪魔サン達、邪神の攻撃をいなすどころか神気で圧倒されて満足に動けないまま攻撃を受けていたし。
「コウちゃん、少し考えがあるの。一旦後ろに下がっていい?」
マユ姉ぇは何か策があるらしい。
前衛は十分足りているから大丈夫だろう。
「うん、では宜しく! グレイさん、もうこっちは大丈夫なので部下の方たちのフォローに行ってくださいな」
「了解だ! 坊主、死ぬなよ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「なんとか、もう少しで削り勝てそう」
俺は魔剣が作った空間で一息を入れる。
だってずっと緊張して精神集中しているのはきっついもの。
「おい、そう魔力に余裕は無いんだぞ。大きく休むのなら今回が最後だ。マユコ殿の策を利用して一気に決めるぞ!」
魔剣さんは、俺の魔力管理もしてくれている。
実にありがたいです。
「はい、了解です。さて、タクト君達の方はどうなっているのかな?」
俺は視界の端に移るもう一方の戦闘を確認する。
「ありゃ、タコ殴り状態で、もう時間の問題だね」
神話生物人喰い鬼ガグ、その巨体と2つに分裂した膂力溢れる腕を振り回す攻撃はとても強力だ。
しかし、遠距離攻撃が多いタクト君チーム相手では相性が最悪のようだ。
教授、アヤメさん、カレンさんによる鉄壁の防御で後衛は安心して呪文攻撃を叩き込んでいる。
「うむ、あちらはもう終わりだな。しかし、邪神クラスではないとはいえ、神話生物を一方的に虐殺か。コウタ殿の仲間は優秀だな」
「うん、そう思うよ。実際、これだけの仲間に助けてもらっているから俺は戦えるんだ。さあ、だからここいらで決着つけよう!」
邪神「這い寄る混沌」よ、このまま滅びよ!
作中のネット小説って何かすぐに分かりますよね。
私、実際泣きながら読みふけりました。
マインちゃん、頑張って下剋上するんだぁ!