第200話 康太は冒険者になる:その49「神器争奪戦13:魔剣影砕き」
「うむぅ、神をどこまで愚弄するのか! 私自ら滅ぼしてくれよう!」
邪神は吼える。
けど、俺は何も怖くは無い。
俺には、大事なナナ達を守るという役目がある。
そして俺の手には、その役目を助けてくれる魔剣がある。
「いくよ、影砕き!」
「おうよ、我が主よ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「さて、契約は交わせたのだが、このままいきなり実戦ではコウタも我を使いこなせまい。なので、しばらく我について講義するのだ!」
「おい、そんな暇ある訳ないぞ。すぐにナナを助けないと殺される。早く、元に戻せよ!」
俺は魔剣が作った暗闇の中、吼える。
今にもナナの細い首が邪神によって折られようとしているのに、悠長にしている時間なんかない。
「安心せい、コウタ。主観時間ではまだ1ナノ秒も経過しておらぬ。この中におる間では、物理学でいうところの最小時間プランク時間も立たぬ」
「それなら良いですけど、何で古代からここに引きこもる魔剣が現代物理学を知っているんですか?」
一応、俺は安心して疑問を聞いてみる。
魔剣の言葉には温かみがあって、悪意は感じないし嘘を言っている事も感じない。
精神が繋がっているから余計そう感じるのだろう。
「それは、コウタや周囲の人間の知識を覗かせてもらったのだ。今はそこまで科学技術が進歩したのだな。ならば、いずれ魔法も科学と統一されて我が作られた『古のもの』殿達の科学技術に追いつくやもな」
因みに、いつも通り後から調べたけど、プランク時間ってプランク長さという物理学で重力が量子力学に影響を与えるとかいうよー分からん距離で1.6×10のマイナス35条mを光子が通過する時間という、これまたものすごく短い時間(5.4×10のマイナス44条秒)だそうな。
俺、いつも分からない事があれば後から調べて勉強するクセ付けているけど、最近はゲートとかの関係で量子論まで勉強するハメになっていて困惑中。
俺って文系だから数式だされると困るよ。
概念は、なんとなく理解しているけどね。
だって魔術も結局量子的に世界に干渉している訳で、基本同じだもの。
「では、講義お願いします。アロン先生」
俺はフザケけ気味に魔剣に問う。
「うむ、では早速始めるぞ。我が生まれたのは、ハイパーボリアの首都コモリオムの王立工房だ……」
長い自分語り始めちゃう魔剣、こいつもしかして今まで話す相手がいなかったから話したいのか?
「ん? 何か疑問でもあるのか? まあ、久方ぶりのシャバだ。話すくらい良いではないか」
うん、この魔剣サンおしゃべりしたいんだ。
「光兼」サンといい、この魔剣サンといい、意思ある剣というものは口が軽いものなのかも知れない。
魔剣サンの話を要約すると、工房で作られた後、バビロニアに貢物として贈られ、貰ったキンピカ王は「気に入らん」の一言で、無限宝物庫送りになったそうな。
「あれは、我も苦痛であった。偉大なる王ではあったが、ワガママ極まりない。生まれていきなり無人の宝物庫送りだぞ! コウタの記憶におるキンピカ、そう大きく本人と違っておらぬ。しかし、面白いな。我の生まれた時代の人々が今ではエロゲに登場とは」
魔剣サン、エロゲの概念まで理解するのはどーだろう。
しかし、偉大なる王も魔剣にまでキンピカ扱いされるとは時の流れは非情だね。
「その後、我はキンピカから、名も無き勇者への授けモノとして送られたのだ。真っ暗な宝物庫から出されて我は嬉しかったのだ」
その後、魔剣サンは勇者と共に数多くの冒険を行ったそうで、その逸話の一部が各所の伝説・神話に残っているらしい。
「そこで呼ばれた名が、魔剣影砕きだ。見ての通り、漆黒の刀身で影のように見えた我は、いかなる魔や神、妖物を切り裂いたのだ」
今の剣の姿は剣とも杖とも言えない複雑な形状。
漆黒の黒曜石っぽい素材でところどころに次元石が埋め込まれている。
ねじくれて沢山枝分かれをしている蛇という印象、どっちかというと奈良県天理市石上神社に奉納されている国宝「七枝刀」に近い。
この刀は百済から西暦370年頃に伝来した鉄剣、日本書記にも記載がある。
「うむ、その刀は我の姿をコピーしたものだな。我の偉業は極東までひろがっておったのだな」
世界って案外広いようで狭いよね。
古代であっても情報・文化は伝播していく。
「その後、マスターを失った我はいく数千年眠りについたのだ。神代であれ人間であればいつかは死ぬからな」
魔剣の声は少し寂しそうだ。
「そして次に訪れたマスターが、お主も良く知る古代イスラエルのモーセだ。彼は神に仕えるものだから剣ではなくて杖が欲しいと申して、我は杖となった。それがアロンの杖だ」
そこからの話は、俺も良く知る。
「エジプトにとっては、えらくご迷惑をしたんですね」
「うむ、モーセはエジプトにえらく恨みがあったのであろう。神の怒りだと言って無茶させられたよ」
少しうんざりな感じの魔剣サン。
紅海を割るとか、炎の渦巻きによる塔をつくるとかは分からないでもない。
しかし、疫病を流行させるとか、イナゴを呼ぶとかはエグい。
「我は基本相互作用への干渉、つまり空間・重力制御が使えるのだが、その余力で気候にも干渉できる。雨が多かったりして不作になれば、病気もイナゴも呼ぶわけだ」
基本相互作用って、確か4つの力だよね。
俺もマサトに聞いだけど、ちんぷんかんぷん。
重力、電磁力は肉眼で効果が見えるから分かる。
けど、量子的なサイズでしか分からない、強い力・弱い力なんて理解の範疇超えているって。
「様は、空間を切れるから何でも切れるという事ですね」
「うむ、そうじゃ。それを応用して防御や空間跳躍も可能だ。重力も遮断できるから飛行も可能だぞ」
ほほう、これはすごいや。
「で、何で魔剣サンは俺をマスターにしたの? 俺は一神教徒でも無いし、魔力もそこまで高くないよ」
「魔力に関しては、正直ギリギリだな。後は、過去に我と同じ工房製の神剣の分け身を使った経験がある事、そしてその『思い』だな」
対リブラ戦の草薙剣の事だね。
あの時は大分後遺症に悩まされたよ。
で、「思い」って?
「コウタの過去を見せてもらったが、色々と悲劇や苦悩もあったのに係らず、悪意に呑まれずに健やかに成長しておる。それには両親や祖父母、親戚、特に姉とも母とも言える存在と彼らの愛情が良かったのであろう」
マユ姉ぇの事を褒めてもらえるのは、自分の事を褒めてもらえる以上に嬉しいよ。
「そしてその愛された女性から託された娘ナナ、彼女は聖女とも言える清やかな少女だ。いかなる存在とも壁を作らず、心を繋いで来た。幽霊、妖怪、デーモン、異星人の妹、そして神話生物とも。その少女を絶対守ろうとするコウタ、お主の心意気に我は久方ぶりに感動した。よって助力したいと思ったのだ。まあ、実力は今後に期待だがな」
最後に笑いを込めて話す魔剣サン。
ああ、それで俺は走馬灯のようにマユ姉ぇやナナの姿を見たんだ。
「ありがとう。そこまで言ってくれて。ならば俺はその期待に答えるよ。さて、ならいつまでも魔剣サンというのも他所他所しいね。どう呼べばいい? アロンさん? それとも?」
「ならば、魔剣影砕きと呼ぶがいい。コウタ、お主はかつての主、名も無き勇者にドコか似ておる。我の姿もコウタが使いやすい様に変えるがよい」
「ならば、シャドー・スマッシュ行くよ!」
「おう、マスター!」
◆ ◇ ◆ ◇
〝コウタ、お主が杖の新たなる主になったのだな。さあ、あの邪な神を倒して、ナナを守るのだ!〟
邪神に吹き飛ばされていた「古のもの」ヒラムさんは無事そうに起き出して、俺の手にある魔剣を眩しそうな目で見ている。
「はい、必ず!」
俺は手の中のある魔剣に力を込める。
魔剣は、その姿を俺の想像により変化させた。
刀身は漆黒の黒曜石のような質感、刀身に樋が掘られ、そこに片側7個づつの「次元石」が埋め込まれている。
日本刀太刀と西洋両手剣の中間な感じの片刃やや湾曲した刀身、鍔は十字で一般的な西洋剣よりはやや小型。
刀身は長さ20cmくらいのリカッソ(根元で切る刃がついていない部分)込で大体1m、幅3.5cm程、中反りで先端1/3には裏刃がある。
そして柄が40cm、柄頭に蛇の文様が彫られている。
うーん、すこしカッコつけたかなぁ。
爺さんの太刀を前に見たのと、RPGとかの西洋の魔剣のイメージが混ざっちゃったよ。
「我は、この姿は気に入っておるぞ。マスター、さっそく切れ味を愚かな神に見せるのだ!」
「ああ!」
俺は魔剣を両手で握り、仲間たちと共に邪神に飛び掛った。
ブックマーク、感想、評価・レビュー等を頂けますと、とても嬉しいです。
皆様、宜しくお願い致します。