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功刀 康太の遺跡探訪、時々お祓い ~女難あふれる退魔伝~  作者: GOM
第一部 第一章 功刀康太はエルフの姫様と出会う
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第2話 康太の大変な一日:昼その1「九十九神との団欒」

 アパート二階の自室から出た俺は、階段を下りて母屋のほうへ行く。

 最近、このアパートも満室じゃない時が多くなってきた。


「かといって、誰も彼にも貸せるわけじゃないし、賃貸業も大変だね」


 俺はマユ姉ぇの大変さを考えつつ、母屋の玄関を開いた。


「こんにちは、康太です」


「コウちゃん、今お昼ご飯の準備中なの。勝手に居間に入ってね」


 マユ姉ぇの声がする。


「ちょっと無用心だよ、マユ姉ぇ。玄関にカギかかっていないし」


「大丈夫、そこに門番いるから」


 うん、確かにいるね、10cmくらいのミニチュア石像「狛犬」が二頭。

 こいつらは、俺の仕事で拾ってきた九十九神(つくもがみ)

 持って帰ってきたら、マユ姉ぇに懐いてしまい、そのまま番犬代わりに母屋玄関に住んでいる。


〝わふ〟


 狛犬君たちは俺に挨拶して、どうぞお入り下さいって言ってくれる。

 これが普通の日常かというと、違う気がする。

 というか、普通な訳ないじゃん。

 そりゃ、餌も散歩も必要ない番犬は、確かに便利だろうけど。


  ◆ ◇ ◆ ◇


 俺が母屋の居間に入ると、そこではナナが喧嘩をしていた。

 短刀と。


「歴史は夏休み明けてからの授業だから、みっちゃんの話は参考にならないの」


(それがし)が役に立たないですと?〟


「いや、だからまだ習っていないだけで2学期からは習うから、その時に助けてくれたらいいの」


〝苦節、誕生してより七百有余年(ななひゃくゆうよねん)(あるじ)御息女(ごそくじょ)とはいえ某、小娘にここまで言われようとは〟


 これはオカルトという状況を超えている。

 もうコントとしか言えない。

 「見えない」、「聞こえない」人からしたら、ナナは大きな声で独り言を行っているようにしか見えない。

 どっちかというと、黄色い救急車の出番に見える。

 そういえば、黄色い救急車は実際には存在しなくて都市伝説らしい。

 けれども、長い間人の噂に上っていれば、その念がいつか妖怪や九十九神になるやもしれない。

 うーん、侮れない。


「コウ兄ぃ、そんなとこに突っ立っていないで、みっちゃんを説得して。今年の夏休みの宿題は、みっちゃんの助けは要らないって」


 「みっちゃん」とは、マユ姉ぇが所有する短刀。

 正式な銘は「山城国住 光兼(みつかね)」、元は薙刀(なぎなた)だったそうだが豊臣の時代に打刀(普通の日本刀)に直し(薙刀直し)された後、戦乱で折れて焼かれたので再度短刀直しされた鎌倉時代の古刀。

 たぶん正式に鑑定されたら、最低でも重要文化財、へたすれば国宝級なのだが長い間にこれまた九十九神化してしまい、表に出せなくなったのだ。

 それが、どう流れ着いたのかマユ姉ぇの実家の家宝となり、各時代のもっとも「力」の強い女性に引き継がれる物になっている。

 なので、現在の主はマユ姉ぇ、そして次の主候補はナナという訳だ。


「光兼さん、その辺りで落ち着いてナナの話を聞いて頂けませんか?」


〝分家の小倅(こせがれ)が何を言う。某は女性(にょしょう)の言う事しか聞き申さん〟


 おい、この刀、女好きなのか。

 女のいう事しか聞かないのか。

 じゃあ、ナナのいう事を聞かないのはどういう事なんだよ。


「分家の男ですいません、光兼さん。しかし、女性の言う事を聞くのでしたら、何でナナの言う事を聞いてくださらないのですか?」


 俺は怒り出したいのを我慢して短刀に話す。

 流石に俺が戦っても勝てない相手を怒らせるのは得策ではない。

 みっちゃん、たぶん俺の倍は強い。

 まあ、マユ姉ぇは、みっちゃんの更に十倍は強い気がするけど。


〝まだ(しも)の毛も生え揃わぬ小娘は女性と認め申さぬ〟


 ああ、それはダメだよ。

 自分の成長具合が気になる思春期の乙女には絶対禁句。

 そう思い、ナナの方を見ると、恥ずかしいのと泣きそうなのが混ざった顔をしている。

 あ、こりゃ爆発するぞ。


「このバカたんとー! 役に立たないコウ兄ぃもバカー!!」


 飛んでくるクッションで光兼も刀置きから吹き飛ばされる。

 もちろん、とばっちりの俺も沢山被弾したのは言うまでもない。


「みっちゃん、流石に今のは言いすぎよ」


 そんな中にマユ姉ぇは、お昼ごはんの素麺とサラダ、空揚げをお盆に載せて運んできた。


〝主殿、そう申されましても、役に立たないと言われてしまいますのは、守護の役を担っております某の存在理由に関わるものでして〟


「それでも今の女性を辱める発言は言いすぎです。謝りなさい」


〝しかし……〟


「お仕置きしても良いのかな、みっちゃん」


 マユ姉ぇは静かに、しかし迫力満点で話す。

 ゴゴゴという効果音が何処からか聞こえそうなくらいだ。


〝はい、申し訳ありませんでした。奈々殿、誠に申し訳ない〟


 カタカタ鯉口を鳴らしながら謝る、みっちゃん。

 怯える短刀というものは、俺ら以外誰も見た事ないんだろうな。


 泣き顔だったナナは、まだ怒っている。


「どーしてみっちゃんがボクが、まだなの知っているの? この覗きえっちセクハラみっちゃんのバカぁぁ!」


 鎌倉時代生まれの短刀にセクハラは通じないんじゃね?

 しかし、そうか「まだ」なんだ。

 うん、後が怖いから俺は何も聞かなかった事にしておこう。


「まあまあ、ナナそのくらいで許してやろうよ。男尊女卑が当たり前の時代生まれの短刀にしては女性を大事にしてくれいるんだし。それと光兼さん、今の時代女性を辱めるような発言は非常に不味いです。少しはテレビとか見て学んでください」


 なんで、俺が仲裁役なんてしなくちゃならないのかねぇ


 とりあえず、落ち着いたところで昼食(俺はブランチになるのかな)を3人で取る。

 賑やかで楽しい食卓ではあるが、そこに短刀やら他にも小物九十九神がうようよしているのは普通じゃない、ああ、絶対普通じゃない。


 よくこんなマユ姉ぇと結婚したよな、正明さん。

 そりゃ俺も初恋の人はマユ姉ぇだったし、正明さんと職場結婚するって聞いたときは、正明さんの事を恨んだりもしたよ。

 今でもアラサーで十分通じる美貌、ゆるくウェーブのかかった髪を結い、身長165cmくらいの長身、プロポーションも中学生の子供が居るとは思えないレベルのボッキュボン。

 知的だし、料理もうまいし、性格も普段は温和で天然なマユ姉ぇ、これ以上無い良妻賢母だと思う。


「あら、コウちゃん、何かおいしくなかったの? 急ぎで作ったから、揚げない空揚げで作ったのが不味かったのかしら?」


「いや、美味しいよ、マユ姉ぇ」


 このような良い奥さんを一人放置して海外での長期出張は、間違っている。

 間違っていると思うのだが、もしかして「普通」の正明さんには、この居間の現状が耐えられないのではないか?

 見る人が見れば百鬼夜行の真っ只中、そこにいる人の中で何も見えない、聞こえないのは自分だけ。

 もし俺がそうなら逃げない保障は無い。

 よし今度、正明さんが帰ってきたら、どこか呑みに連れて行ってあげて愚痴くらい聞いてあげよう。

 それくらいしか俺には出来ないだろうから。


  ◆ ◇ ◆ ◇


 食後、約束どおりナナの夏休みの宿題を見る。

 まだ8月に入ったばかりなのに、もう宿題に取り掛かっているナナは偉い。


「どうしてこんな早い時期から宿題片付けているんだい、ナナは」


「お母さんから聞いていないの? お盆明けにお父さんのところに行くんだけれど」


 ああ、そういえばそうだったね。

 正明さんのところにナナだけで遊びに行くって言ってたね。


「ごめん、忘れてたよ。でも一人で飛行機に乗ってアメリカに行くなんて大丈夫?」


「ボク、もう子供じゃないもん。一人だって怖くないよ」


 ホントのオトナは自分の事を子供じゃないとは言わないって。

 こういうところがお子ちゃまなんだから。

 ま、可愛くて良いけどね。


「はいはい、そうですね、お嬢様」


「うむ、苦しゅうない」


「ぷ!」


 二人して笑ってしまった。


 その直後、俺は強烈な寒気を感じた。

 それはナナもマユ姉ぇも同じ。


「コウ兄ぃ、今の何?」


 居間に飛び込んできたマユ姉ぇは、短刀「光兼」を手に取り、俺に言う。


「コウちゃん、今のはコウちゃんの部屋の方なんだけど、何か心当たり無い?」


 え、そうなのか。

 じゃあ、もしかして……


「コウ兄ぃ、あの石じゃないの?」


 うん、俺もそう思う。


「コウちゃん、詳しい話聞かせてくれる?」


 マユ姉ぇの無言の圧力が怖いです。


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