第199話 康太は冒険者になる:その48「神器争奪戦12:逆転への狼煙!」
「な、なんだ、それは!? 何故オマエがそんなものを握る?」
邪神「這い寄る混沌」の顕現は狼狽える。
「そんなのお前に教える必要ないさ。ナナ、動ける?」
俺は邪神を睨みながら、横目でナナを見る。
「コウ兄ぃ、本当にコウ兄ぃなの? その剣は何?」
ナナはまだ混乱状況のまま、俺に抱かれている。
「俺、そんなに似合わない事しているのかなぁ。まあ、自分でも似合わないとは思うけどね」
俺は苦笑しながら、腕に抱くナナの暖かさに安堵する。
「そんなことないよ、いつだってコウ兄ぃはボクのカッコイイ王子様。助けてくれてありがとう。大好きだよ!」
そう言ってナナは俺に抱きつく。
俺の中で渦巻く「トリガー」起動状態の魔力が、暴走する様に更に増大する。
俺の大事なナナ、俺こそ感謝だよ。
「俺も大好きだよ、ナナ」
耳まで真っ赤にしたナナを横目に、俺は邪神を睨む。
「お前ら、私を馬鹿にしているのか? 私は『外なる神』這い寄る混沌だぞ! お前ら人間など、指一本で滅ぼせる偉大な存在なのだ!」
無敵なはずの自分が傷つけられたからか、狼狽し余裕がないところを見せる邪神。
あれ、コイツ俺の想像よりも随分矮小だぞ。
もしかして、コイツも顕現じゃなくてアルよりも高位なだけの端末じゃないのか。
そう思ったら、思わず俺の顔はニヤケてしまう。
「なんだ、その顔は? 私は神だぞ。お前らなどとは比べ物にならない程偉大なのだぞ!」
あーあ、情けないや。
これでも神を名乗る存在かよ。
「さて、皆をこのままにしてたらダメだよね。ホイっと」
俺は、右手に握る魔剣を左から右に軽く薙ぐ。
魔剣は、まるで重さが無いように軽く振るえる。
そして宙を切り裂いた一撃は、邪神が作った重力結界を簡単に解呪する。
「おう、助かったのじゃ! コウタ殿、とうとう覚醒したのじゃな!」
邪神に倒された上に重力結界でつぶされていたチエちゃんは、頭を振りながら起き上る。
「コウちゃん、ありがとう。ナナ、無事よね。良かったわね、大好きなお兄ちゃんが助けてくれたんだから」
マユ姉ぇも起き上がり、俺がナナを抱いて魔剣を構えているのを、笑顔で見る。
「こうにいちゃん、おねえちゃん たすけてくれてありがとう。でもわたしも、だっこしてぇ」
俺の背後にいるリタちゃんが嬉しさ半分、嫉妬半分くらいの顔で俺に声をかけてくる。
「2人、いや3人ともこのままじゃ危ないからナナと一緒にマユ姉ぇのところに運ぶね」
俺は瞬間移動を使って、ナナ、リタちゃん、そして少し離れたところに居たシンミョウさんを回収してマユ姉ぇのところに一瞬で運んだ。
「う、一体なにをした? 私に感知されずにどうやって移動をしたのだ?」
邪神は俺の瞬間移動について行けず、更に混乱をきたす。
「そんなの今から倒す相手に教える訳ないよ。マユ姉ぇ、皆を頼むね」
俺は一瞬も邪神から目を離さずに、マユ姉ぇに話した。
「ええ、了解ね。コウちゃん、すごいわ。私もう感激よ」
今にも泣きそうなマユ姉ぇの顔が横目で見える。
「俺の方こそ、ずっとありがとう。俺のお母さんだったものね。俺、やっと思い出したよ。マユ姉ぇのお母さん宣言」
「え、コウちゃん! あんな昔の事覚えていてくれたんだ。もう恥ずかしいわ。でも、こちらこそありがとう。ナナを守ってくれて」
「うん、俺はナナのお兄ちゃんだもんね」
さあ、これからが本番、俺たちの逆転ゲームの開始だ。
「うぬぅ、何故だ? 何故だ? 神たる私が何故ヒト如きに遊ばれねばならんのだ! うぉぉ!」
邪神は今まで絶やさなかった嘲笑をやめ、驚愕の表情を無貌の顔に宿す。
そして身体がびくりと震えたと思うと、口らしいところから巨大な怪物を吐き出す様に生み出した。
その怪物は、毛むくじゃらで口が垂直に割け、一見ヒト型に見えるが両腕に前腕が2本ずつある3mくらいの巨体だ。
しかし、どうやって本体と同じくらいのバケモノを吐き出せるのやら。
コトミちゃんとかクロエさんなら解剖してみようとか言いそう。
「ガグよ、私に仇名すコヤツラを骨まで喰らい尽くせ!」
後に知ったけど、ガグとはドリームランドに追いやられた人喰い生物。
本来のサイズは6mクラスなので、コイツはプチサイズ。
邪神自身が弱っているのと端末でしかないので、本来のモノを召喚できなかったのだろう。
「兄貴、俺と姉御、姉ちゃん、マヤ、カレンさん、教授で口裂けバケモノ相手するから、お母様、ナナちゃん、リタちゃんをそちらに回すね」
「もう、お姉さんを勝手に割り振るんじゃないです、タクト君たら。コウタ君、こっちは私に任せて下さい。北辰一刀流参ります!」
「ええ、康太君。私にも良い恰好させてください。さて、鬼退治、鬼退治。久しぶりの大物に虎徹が喜んでますよ」
「タクト君、私を戦力に勝手に入れないでくださいな。シンミョウ、貴方はそちらをお願いね。御山の力、存分に見せましょう!」
「タクや、勝手に仕切るなや。まあ、ウチじゃあ神様相手はキツイし、こんなヘタレならちょうどいいわい。ひーひー言わせてこっちこそ骨まで燃やすじゃ!」
「お姉ちゃん、タク兄ぃがせっかく頑張っているんだから応援しないと」
「先輩、アタシもこっち相手しますから、そちらをお願いしますね。さあ、フランツ君もこっちよ。お姉さんと一緒に戦うわよ」
「おい、コトミ。私を引っ張るんじゃない。コウタ、絶対勝てよ!」
タクト君がとても力強い言葉をかけてくれたし、皆も俺をバックアップしてくれる。
「ありがとう、皆! お言葉に甘えます。その代わり誰も大怪我しないでよ」
「おう!」「はい!」
俺はマユ姉ぇに声をかける。
「マユ姉ぇ、少々キツイけど、チエちゃん達といっしょになって前衛宜しくお願い。今度は俺も切りかかるから。ナナ、リタちゃんは大技準備していて。中途半端じゃこいつ仕留められないから。シンミョウさんは引き続き全体の後方支援お願いします。『槍』さん、チエちゃん、サーちゃん、朧サン、引き続き前衛お願いします。さあ、皆行くよ!」
さあ、邪神退治の始まり始まり!
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