第194話 康太は冒険者になる:その43「神器争奪戦7:騎士団再び、そしてデーモンすら参戦、戦場は混乱へ!」
宝物庫の外から飛んできた魔力弾は「古のもの」ヒラムさんを襲う。
しかし魔力弾はヒラムさんに着弾するまえに、ナナのタイル九十九神によって防がれた。
ナイス、ナナ。
よく俺の声に反応してくれたよ。
「ほう、某の魔力弾を防ぐとは小癪よのぉ」
そこにいるのは白いフードを目深に被り、身体中に魔法アイテムをじゃらじゃらと装備している魔法使いがいた。
「マスター! どうして、ここに?」
フランツ君が叫ぶ。
ということが、コイツが薔薇十字騎士団のマスターか。
フードから見える感じでは四十路前の白人男性か?
かなりの魔力量を秘めているのが、俺からでも分かる。
まあ、マユ姉ぇやチエちゃんよりは低いけど。
リタちゃんとドッコイか、少し下かな。
リタちゃんクラスでも俺は相手厳しいけど。
「いつまでも帰ってこない調査隊ども、お前らに呆れたのだよ。この能無し共め。特にヴトケ、お前は帰らぬどころか敵に寝返るとはどういう魂胆か?」
「そうだ、ワシをぐるぐる巻きにして捕まえるとは不届き千万じゃ」
あら、師範代理も来ているよ。
アイツ米国送りになったはずじゃないの?
「すまん、康太坊。ウチの目から離れた隙に逃げたらしい。今、ウチの待機部隊から連絡があった。現在、騎士団の残党と戦闘中だ。施設内の部隊とも連絡が途切れている。銃撃音が聞こえてきたからまだ戦闘中なので生きているとは思うが」
グレイさんはすまなそうに俺に報告をしてくれる。
先ほどまで無音だった建物内に銃声が鳴り響いている。
この部屋ではまだ射撃をしていないから、この音は待機してくれているグレイさんの部下たちの戦闘音だ。
どうやら師範代理が呪文で気配だけでなく音も消していたらしい。
殺気を消しきれていなかったから俺達は運よくヒラムさんを守れたけど。
「マスター、私はもうお前達には従わない。どこに信者を見捨てて逃げる指導者がいるのだ。死んでも倒して来いと命令するならまだ良い。部下を騙して使い潰すオマエラに正義は無い!」
フランツ君、キレキレ。
しかし、その台詞って最近ウチでクロエさんと一緒に見ているアニメの影響多くないですか?
「お前のような小物に某の思いなぞ分かるはずもない。某の望みは全ての英知の占有、そして英知による世界・ひいては宇宙の理解、更に支配じゃ! 全ては英知の王たる某にひれ伏すのじゃ! そこなる『古のもの』よ、我に英知を授けよ!」
マスター、いかにも小物悪役っぽい台詞を言う。
なお、彼の台詞は英語だけど、全域念話でも話しているので、ニュアンス込みで俺達にも理解できる。
しかし英知を授けてくれるヒラムさんを攻撃するなんてバカかよ、こいつ。
「そうか、やはり私はオマエには従えない。私はナナのように全てに慈愛を振りまき祝福する者こそが正しいと今完全に理解した。私は愛の戦士になってオマエ達の野望を打ち砕く!」
おい、フランツ君よ。
キミ、完全にオタクに「堕天」しちゃったよ。
言っている事は素晴らしく正しいと思うけど、そこで「愛の戦士」は無いよね。
「この死にぞこないの裏切り者め。マスターの手を借りずとも、我ら騎士団員にて滅ぼす!」
師範代理が合図すると共に、宝物庫に十数人の騎士団員が流れ込む。
顔ぶれを見るに、先日救出した人達は誰もいない。
それだけでも安心だ。
一度は救った人とは戦いたくないもの。
その時、部屋の奥にある「転送門」が突然輝きだした。
「俺、遺跡に近づいて起動させてないよね?」
「うむ、ココからでは30m以上あるのじゃ。ならば、偶然か?」
そんな偶然欲しくありませんってば。
今、タダでさえややこしい状況なのに、これ以上敵が増えて欲しくないです。
しかし、俺の嫌な予想は的中し、遺跡の上に円形のゲートが生成された。
そして現れるレッサー・グレーターデーモン達。
最後に出てきた長身の悪魔、魔神将が吼える。
〝『調』、いつまで調査に手間取っているんだよ。俺や兄上を待たせるなや! うん、まさかオマエは『知』か?〟
「お主は『槍』か。何でココに来たのじゃ。よりにもよってこのタイミングで! 間が悪すぎじゃぞ!」
チエちゃんは憎らしげに「槍」を睨む。
「槍」、その名の通り、細身な身体をしているが筋肉量は凄そうだ。
あきらかに「騎」よりも格上の魔力も感じる。
身長2.5m弱、全長50cmを越えるヤギの角を両額に持ち、凶悪そうなしかし美形の悪魔だ。
〝なんで、このタイミングと言われても俺も困るんだがな。『調』の気配が消えてもう数ヶ月、気にしていた時にゲートから『調』の反応があったんだから、のぞきに来ただけじゃないかよ。まあ、オマエが居たのは予想外だがな〟
「槍」はチエちゃんを睨み返す。
クロエさん、どうやら「サーちゃん」に入れ替わったっぽいけど、どーしようって感じで困惑している。
それは騎士団も同様、いきなり現れたデーモン軍団に圧倒されて、俺達に攻撃する以前の話だ。
海兵隊の方々もどう動いていいか判断できず、身動きが取れていない。
ただ、チエちゃんの正体を知っている分騎士団よりは反応が良いけど。
「一体、これはどういう場面なのでしょうかねぇ」
部屋の外から高級そうなスーツを着こなした何者かが歩いて来た。
「ミスター・ナイ。すいません。予想に反して事態が混乱しております。スポンサー自らこのような場所においで頂かなくても良かったですのに」
教団マスターが話す相手は、教団スポンサーらしい。
「何故、アンタがこんなところにいるんだ? ナイ補佐官。俺達に命令を出したのはアンタだろ?」
グレイさんが、その男に吼える。
どうやら彼はアメリカ合衆国の政府組織の人間でもあるらしい。
「そんな事はどうでも良いんですよ。私が欲しいのは聖櫃と杖ですから」
肌が浅黒く中東系っぽい整った顔立ちでニヤリと笑う男。
まるで暗闇が笑っているような笑顔だ。
そしてその気配に俺、いや俺達は見覚えがある。
「アル、いやお前は這い寄る混沌!」
「ほう。貴方達は我が端末を倒したもの達ですね。今度も本体ではありませんが、端末よりも高位な顕現です。どうしますか?」
圧倒的な神気を放ちだす邪神。
その変異に気が付いて怯えるマスター。
「ミスター、一体貴方は……?」
そしてその時、部屋の最奥に安置されていた杖から光が溢れる。
俺達が苦労の末にたどり着いた遺跡最深部ににある石造りの祭壇。
そこに、まるで「王選定の剣」のように突き刺された剣とも杖にも見える不可思議な神器。
「ソレ」、アロンの杖は叫ぶ。
「新たなる我が主となるものは誰ぞ!」
五つ巴になる神器争奪戦が、今始まる!!
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