第190話 康太は冒険者になる:その39「神器争奪戦3:失われた聖櫃と古のもの!」
「隊長、奥の箱に近づけません! 横の棒も同様です!」
海兵隊員のお兄さんが叫ぶ。
俺達はゆっくり奥へ、箱が安置されている祭壇らしきところへ歩んでいく。
遺跡を起動させる危険性を下げる為、出来るだけ「転送門」に近づきたくない俺は、隊列の後方で歩く。
「これが聖櫃か?」
「はい、おそらくは。チエさんどうですか?」
「うむ、そうじゃな。周囲は次元障壁、いうなればバリアで囲まれておるのじゃ。横の杖か何か分からんものも同じじゃな。これはワシでも突破は難しいのじゃ」
グレイさんが吉井教授に聞く。
更に教授はチエちゃんに聞いた。
聖櫃、「アーク」またの名をThe Lost Arkとも言う聖遺物。
旧約聖書によると、モーセによって作成された箱だ。
アカシアの木で作られた箱は長さ130センチメートル、幅と高さがそれぞれ80センチメートルで総金張り。
箱の上に4枚の羽と4つの顔を持つ異形の天使、ケルビム2体の金製の像がある。
中にはLuchot HaBrit、神との約束十戒が掘り込まれた石版が入っており、「石版」や出エジプト記でモーセが使ったアロンの杖の封印とマナ(魔力・神力)の収集が箱の役目らしい。
箱の封印を解くと、嵐を呼ぶとか、多くの精霊や邪霊を呼ぶとかいう曰くつきの遺物だが、現在までその所在が不明になっている。
だから「失われた」と呼ばれており、剣山に埋められたというヨタ話もあった。
実際には「聖櫃」に繋がる「門」が剣山に埋まっていたけど。
箱は、最初杖とマナの詰まった壷、そして石版を封印していたらしいが、ソロモンが入手した時点で石版以外は残っていなかったそうだ。
あのキンピカ英雄王の時代には存在していないはずだけど、存在を知ったら収集しそうだし、原典を持っているかも知れないね。
俺は聖櫃について詳しくないだろう方々に、簡単に説明をした。
宗教関係者や考古学関係者は分かっているようだけど、幼年組やタクト君は分かっていないような顔。
ナナは、首傾げていて、
「ソロモン王関係の箱なら指輪入っていないの? あったらバルバトスとか呼べるよね」
と、マイナーな中ではメジャーな魔神の名前を言う。
確かにソロモン王の指輪があれば72柱の魔神を使い放題だ。
ナナがバルバトスを知っているのはGダムからの影響かな?
もしくはキンピカが出てくるゲームの魔神柱からかな。
なんか、プレイヤー共に随分虐められてあっという間にイベント終了したそうだけど。
「じゃあ、横の杖っぽいのって、もしかしてアロンの杖なの?」
「うみゅぅ、その可能性は大じゃが、その効果を考えれば恐ろしくて触りたくないのじゃ」
アロンの杖とは、出エジプト記に神から授かったモーセが使った聖遺物。
チエちゃんが愚痴ったように、紅海を割ったり、雹を降らせたり、疫病をはやらせたりととエジプトに10個にも渡る様々な被害を与えたおそるべき杖だ。
聖櫃の横にあって、まるで王を選ぶ剣のように石の台座に突きささっている。
杖の形は、ねじくれて沢山枝分かれをしている杖とも剣ともいえない形、まるでヘビやハイドラにも似ている気がする。
とまあ、俺達がバカ話していた時に海兵隊員が叫んだ。
「隊長! 奥の遺跡が光りました!」
俺は、海兵隊員の声にハっとして奥を見る。
幸いな事に「転送門」では無く、円柱状の遺物からの光が見えた。
でも幸いなのか?
起動する意味が分かっている「転送門」では無く、まったく意味不明な別の遺跡が起動している方がヤバイかも。
「チエさん、アレは何ですか?」
「うみゅう、ワシでも分からんのじゃ。全員、アレから距離を取るのじゃ。妙な気配がするのじゃ! 中から何か出てくるのじゃ!」
俺達はチエちゃんの喚起で攻撃準備をする。
海兵隊員達も遺物から距離を取り、M4を構えた。
ぷしゅー!
密閉が開放される音と共に円柱状遺跡からガスが漏れる。
一瞬皆が警戒するが、それは冷気によって発生した霧だった。
そして直径2m弱、高さ3mの円柱ユニットはその柱の壁を開いてゆく。
「あれは、『古のもの』?」
円柱の中にいたのは、体長2.5m弱、樽状の胴体、球根みたいな首、五芒星状の頭、そして同じく球根のような脚と五芒星の擬足を持つ生物だ。
それは胴体に5枚の羽と左右5対の触手を持つ。
そして頭部五芒星の角から目が付いた管を伸ばしている。
「う、ううわぁ!!」
「古のもの」を見た1人の海兵隊員がその異形に凶荒状態になり、「古のもの」にM4を向けた。
そして発砲音が聞こえた。
「だめ――――!!」
発砲音を打ち消すように聞こえる女の子の声が部屋の中に響いた。
それはナナの叫び声。
そして「古のもの」の周囲にはナナのタイル九十九神が現れて、海兵隊員の銃弾から「古のもの」を守った。
「は、おいやめろ! 貴君はそれでも誇り高い海兵隊員か! 勝手に無抵抗な相手に攻撃をするな!」
グレイさんは叫んで、銃を撃った海兵隊員を取り押さえた。
「この子は何もしていないでしょ? だから攻撃しちゃ絶対ダメなの!」
ナナはそう言いながら、海兵隊員と「古のもの」との間に立ち塞がった。
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