第189話 康太は冒険者になる:その38「神器争奪戦2:宝物庫へGo!」
「ここが地獄の入り口じゃな」
チエちゃんは、目前の巨大な金属製のドアを見上げる。
身長130cm無いチエちゃんから見れば、高さ3mを越えるドアは壁にも見えるだろう。
「トラップ、ありません」
海兵隊の方々がドアの最終チェックをしてくれた。
コトミちゃんがチェック済みとは言え、ドアに罠をしかけるのは普通だしね。
なお、海兵隊の方々の内、俺達についてきてくださっているのが全体で1個小隊24人。
その内、2個分隊16名はジグラット入り口付近や宝物庫へ繋がる廊下等で待機、周囲の警戒及びそれらを調査する学者さん達の護衛に入っている。
「地獄へのドア」の前に来ているのは、アメリカ調査隊がクロエさん他4人、ウチが金子先生・吉井教授と2人の助手だ。
戦闘部隊として俺達とアメリカが中隊長のグレイさん、補佐の少尉さんに他6人。
「さあ、どうやってドアを開ける? 重くて開かないから、カギが掛かっているんだろ?」
グレイさんがチエちゃんの隣で同じくドアを見上げる。
「そこはソレ、ワシに考えがあるのじゃ! コウタ殿、おぬしの『石』を近づけてみるのじゃ。多分、ドアが開くのじゃ!」
チエちゃんは俺に「次元石」を使うように言う。
「え、また俺の『石』で遺跡を動かすの? リタちゃんの時があるから、あんまり良いイメージ無いんだけど」
俺は胸元からしぶしぶペンダントにしている「石」を取り出す。
古墳下の遺跡に入ったとき、「石」が光って転送門が起動しリタちゃんが全裸で飛び出して来たのが、もう1年以上前だ。
あの時は、リタちゃんを追いかけてきた上級悪魔にびびったんだよな。
今なら、ちゃんと戦えば俺1人でも倒せる……、とイイな。
何せ今でも同格の朧サンに勝てる気しないし。
というか、朧さん、もうグレーターの枠超えて魔神将クラスに近くない?
「お、予想通りじゃ! 皆の衆、油断するなのじゃ!」
俺がドアに「石」を近づけると、「石」が光りドアも同じく光って反応をする。
ギギギ!
何年も開いたことがないであろうドアが軋むような音を立てて自ら開いてゆく。
そして開いた隙間からカビくさい空気が漏れてくる。
「皆、部屋の酸欠確認宜しく!」
俺は、海兵隊の方々含めて、部屋の酸素濃度や毒ガスチェックをお願いした。
リタちゃんを助けた古墳地下遺跡の時も、酸欠確認をしたのを俺はふと思い出した。
「あの時もラッキーだったけど、今回も硫化水素臭しないから大丈夫かな?」
金属を保管する部屋に硫化水素は厳禁。
銀製品はすぐに黒色に変色し、鉄は腐食して形を無くす
「ガスチェック、クリア!」
海兵隊の方が安全宣言をしてくれた。
こういう所に即時対応出来るのが、武装偵察部隊の凄さ。
ただの筋肉ダルマでは無いのだ。
「フォース・リーコン、Go!」
グレイさんの掛け声で兵士達が部屋に入っていった。
お互いの死角をカバーしながらM4を構えて入っていくツワモノ達。
そのきびきびとした動きは以前見たSATのお兄さん方をも上回る。
「アヤメさん、フォース・リーコンってスゴイですね。SATの方々もスゴイと思ったけど、更に上です」
「ええ、この動きが見えただけでも私にとって良い経験になりましたわ」
アヤメさんは鋭い視線をフォース・リーコンの方々に向けていた。
「ドア、クリア! ライト、クリア! レフト、クリア! オールクリア!」
「では、調査隊の皆様、どうぞお入りくださいませ」
グレイさんは、まるで朧サンの真似をするようにドアの前で俺達を案内した。
◆ ◇ ◆ ◇
「これは一体?」
金子先生は唸る。
「おそらく空間圧縮の類じゃな。どう見ても屋外から見たよりも部屋の中のほうが広いのじゃ!」
チエちゃんは、目の前に広がる空間を覗き込む。
そこは四方100m以上に広がる部屋、多くの遺物が左右の棚や箱に雑多に並べられている。
そして暗闇が広がる最奥には石造りの祭壇があり、ほんのり輝く箱らしきものと棒みたいなのものが安置されている。
更に部屋の壁の両端には、何かを収めた円筒状の筒、半円球状のモノの周囲を板状のモノが取り囲んだものさえある。
半円球のモノ、あれは古墳地下にあってリタちゃんが出てきた「転送門」だ。
まさか、アレがここにあろうとは。
「ここ、何個もワナがありますから、ウカツに触らないで下さいね。マジで死ぬやつばかりです」
コトミちゃんは警戒の声を出す。
ああ、俺も触るどころか、遺物や遺跡に近づきたくないよ。
絶対、何か起動する気がするし。
「ということだ。調査隊の皆は写真撮影を優先、遺物確認はコトミ嬢ちゃんのOKが出てからだ!」
グレイさんは、皆に命令を送る。
それを横目で見ながら、俺はチエちゃんに聞く。
「奥に見える箱が聖櫃だよね。横の杖とも剣とも言えない棒は分からないけど。それよりも問題なのは、あの『転送門』だよね」
「うむ、アレは生きておるようじゃ。ならば、あの『門』はワシらのほうで調査確保じゃな。この先、リタ殿の母星攻略のカギになるのじゃ!」
「ちえおねえちゃん、あれ、わたしのほし に いけるの?」
リタちゃんは、杖に明かりを灯したままチエちゃんに近づいて、「門」について聞く。
「そうじゃな。座標設定は必要じゃろうが、行ける可能性が高いのじゃ。ワシの作れるポータルレベルでは、星の海を渡るのは困難じゃ。そういう意味ではここで見つかったのは行幸じゃ」
「なら、金子先生とかに先にお話しますね」
俺は、後ろで待機していた金子先生や吉井教授に事情を話す。
「それなら、私は問題ありません。第一、私の手に負えませんし。というか、アメリカ含めてアレを理解しているのはチエさん以外居ないでしょう」
金子先生は俺達の意見を快諾してくれた。
「康太君、くれぐれも無茶だけはしないで下さいね。いきなり敵の本拠地に殴り込みは、もう勘弁ですから」
「そうですよ、先輩。人間相手なら負けないかもですけど、チエお姉様と同格の敵相手に簡単に喧嘩売らないでくださいね」
「そこは大丈夫よ、コウちゃんには『死にはしないけど死にそうな』特訓コースを用意して、チエちゃんに負けないようにしてからじゃないと、死地になんて行かせませんから」
吉井教授が俺を心配してくれる。
そこに罠感知中のコトミちゃんが突っ込み、マユ姉ぇが微笑みながら恐ろしい計画を話す。
「は、は。マユ姉ぇ、お手柔らかに」
俺は冷や汗を流しながら、マユ姉ぇに答える。
なんか俺、デーモン相手にするよりマユ姉ぇを相手する方が怖いけど、これ本能的恐怖なのか?
「這い寄る混沌」の端末に会ったときよりもマユ姉ぇの微笑みが怖い。
あの微笑みってナナ同様「ひまわり」の暖かさを持つ筈なのになんで怖いのか。
知りたいけど、知りたくないかも。
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