第188話 康太は冒険者になる:その37「神器争奪戦1:いよいよ遺跡最深部へ!」
「では、今日もアメリカ調査隊と同時活動になります。調査対象ですが、遺跡最深部の神殿状構造物です。何か出るか不明ですので、宜しくお願い致します」
さて、遺跡探索2週目の3日目、連休最終日。
今日は遺跡最深部の探索になる。
昨日は、別段何事も問題なく、調査は終了した。
最初に発見していた「古のもの」と少女の御遺体はアメリカチームにも確認してもらった後、遺跡内の墓地と思われる場所に2人並べて葬った。
同じネックレスをしていて、死ぬ直前まで守りあった2人だ。
死後も2人離れずに居て欲しい。
なお、またクロエさん俺達と一緒に帰って、テレビに追加HDDをつけていた。
どうやら、ネット回線通じて世界中何処でも自分が日本の作品を見れるようにしたそうな。
ある意味、オタクの鏡なのか?
昨日までのアメリカ調査隊、騎士団、俺達の調査範囲を突き合わせた結果、残る未探査部分は、最深部に立つ神殿だけだ。
「金子先生、おそらくですが、『古のもの』関連のものが出てくると思いますので、お覚悟を」
「はい、宜しくお願いしますね、真由子さん」
マユ姉ぇは金子先生に注意をする。
「おい、真由子さんと言ったな。アソコそんなにやばいのか?」
大尉がマユ姉ぇに聞く。
普通の軍隊で、は神話生物の恐ろしさは知るまい。
「ええ、すでにご存知のショゴスレベルは当たり前。もしかすると『古のもの』ご本人がいらっしゃるかもですね」
「あの、サボテンもどきかよ。アイツらはショゴスよりも弱いんだろ。なら大丈夫さ」
グレイさんは、俺達が発見した「古のもの」の遺体写真を見た上に昨日は御遺体を直接見たので、そう怖いものと思っていない。
「アヤツらはショゴスと違い、話は出来るが人類よりも圧倒的に高度科学力を持っておるのじゃ。星の海を渡るのくらい朝飯前、邪神とも真っ向勝負が出来るほどじゃ、油断はせぬことじゃ」
チエちゃんは、グレイさんを嗜める。
「でも、俺の『鉄腕』の前じゃ、イッパツさ!」
グレイさんは自慢げにその腕を叩く。
それは肉を叩いた鈍い音ではなく、カンという高い音を鳴らす。
グレイさんの手足は、クロエさん達が係る米軍高度科学技術部門によって作られた神経接続義手義足になっている。
グレイさん、イラク戦争末期にIED(即席爆弾)の爆発から部下を庇った名誉の負傷で手足を失った傷痍軍人さんだったそうだけど、高度な義手義足を手に入れて現場復帰したそうだ。
「ほう、ナナ殿に完全試合された海兵隊がそう言うか」
チエちゃんは尚もグレイさんを弄る。
「チエちゃん、それは言いっこなしだよ」
グレイさんは、傷だらけの顔を笑顔で歪ませる。
顔の傷もIEDによる負傷だそうな。
しかしグレイさん、チエちゃんの正体を知って気軽にちゃん付けで呼んでくれるのは、嬉しい事だ。
それが戦力の維持、味方でいて欲しいという打算付きだとしてもね。
「じゃあ、武装偵察部隊第六武装偵察中隊! お嬢さん方にこれ以上恥かしいところを見せないように、行くぞ!」
「サー、イェッサー!」
◆ ◇ ◆ ◇
「形はまるでジグラットですね。日干し煉瓦でなくて巨石製の上に巨大なのは違いますが」
「ええ、建築年代からして、もしかしたらコチラがオリジナルかもしれませんね」
俺は吉井教授と話しながら遺跡の全面にある長い階段を上る。
今は、周囲を海兵隊のお兄さん達が警戒しているし、妖物レーダーのナナやコトミちゃんがいるので、俺は安心して遺跡について調べる。
なお、ジグラットとは古代メソポタミアの神殿。
シュメール文明時代のものだから、どっかの金ピカ英雄王の時代にも同一物が作られたのであろう。
そういえば、マユ姉ぇがたまに遊んでいるレトロ・ロボゲームのボスの名前が「ジグラット」だったような。
高さ30m程にもなる階段を上りきったところに神殿への入り口が広がる。
その入り口は漆黒として一切の光を通さない。
「大尉さん、どうもイヤな予感がします。多分、この神殿内はトラップだらけです。注意してください」
「うむ、ワシも同意見じゃ。気配や殺気は見えぬが、デザインがいかにも悪意満載じゃ」
俺はグレイさんに注意を促した。
そしてチエちゃんも俺に同意見だ。
「そうですね、アタシのカンもバケモノよりもトラップに反応しています。アタシが指示しますから、注意してトラップ解除してください」
「その間、敵の察知はボクがするね」
ウチのレーダ担当は非常に優秀だ。
コトミちゃんはトラップまで見えるんだね、実にスゴイや。
「あ、先輩アタシの事スゴイって思いましたよね。後でゆっくり褒めて下さいね」
「あー、コトミお姉ちゃん、ボクよりも先にコウ兄ぃに褒めてもらっちゃイヤだもん」
「わたし、なにもできないのぉ」
はいはい、前言撤回。
「分かったから2人とも宜しくね。リタちゃんは後から出番あるからね。カレンさん、シンミョウさんもお願いします。カズミさん、マヤちゃん、たぶん後で全力攻撃できる相手出るから、それまで温存ね。タクト君も色々とお願いね。マユ姉ぇ、頼むから皆を抑えてよぉ。吉井教授、金子先生達をお願いします。チエちゃんは……、いつもどおりで宜しく」
「はーい!」
女の子を気分良く使うのは大変だね。
「おい、康太坊。オマエ随分大変だな。女難に苦しむ顔してるぞ。人生の先輩の俺が言ってやる。八方美人は後で困るぞ。早く誰が一番大事なのか決める事だな」
グレイさんがイジワルな笑顔で俺に言う。
「すいません、一応候補は決まっていますし、それは公然の秘密なんですが、それでも寄って来る訳です。俺としては恋愛感情抜きで皆大事な人なので困ってます」
「おい、そういうのを八方美人って言うんだよ。坊主、どこまで身内として大事に出来るか、よく考えるんだな。どうやっても全部は抱え込めないからな」
ガハハと笑うグレイさん。
「そういう大尉は部下の人達、可愛くないんですか?」
俺もイジワルで聞き返す。
「そりゃ、可愛いさ。けどな軍隊じゃ兵士はコマの一つだ。切り捨てたり、捨て駒にするのも良くある事さ。だから、そこは割り切っている……つもりだが、この手足じゃ説得力無いな。そうさ、オレは誰も死んで欲しくないさ。だから精一杯足掻くのさ」
グレイさん、部下を庇って手足を失うくらいの人だ。
本来軍人には向かない性格なのだろうね。
「さあ、いくぞ。野郎共、いやレディース&ジェントルマン。レッツ・ダンス!」
「サー、イェッサー」
◆ ◇ ◆ ◇
「ふう、やっかいですねぇ、先輩。お約束のトラップばかりですぅ」
俺達はコトミちゃん、チエちゃんのおかげで一切のトラップから逃れている。
落とし穴、弓矢、毒針、巨石、油、毒虫などなど。
よく映画のダンジョンというか遺跡モノで見るトラップが目白押し。
落とし穴なんて、下は剣山。
そこに人間の白骨死体が刺さっているのを見るのは良い気分じゃないよね。
「しかし、コトミちゃん良くトラップ分かるね。別に魔力とか感じないんだけど」
俺は、コトミちゃんを少し休ませるように話しかける。
今は、ワナを解除した部屋の周囲を調査隊と海兵隊の方々が調べているところだ。
なお、クロエさんは今日は大人しく調査中。
昨日までのオタク全開とか、サーチさんの事は一切見せない。
「アタシ、虐められていた時に、よくイタズラでワナ仕掛けられていたんです。押しピンとか黒板消しとか」
コトミちゃんは笑って過去の辛い経験を話す。
「だから、どこにワナ仕掛けたら効果的なのか、なんとなく分かるようになったんです。ヒトの悪意って今も昔も変わんないですもの。おかげで、友人に頼まれて調整したRPGダンジョンゲームはデスゲームになっちゃいました」
「そうじゃな。ワシもコウタ殿達にダンジョンで挑んだとき、どうすれば引っかかるか研究したのじゃ。それでコウタ殿がウォシュレットトラップに引っかかったのは傑作じゃった」
「え、それアタシ聞いていないです」
コトミちゃんは楽しそうにチエちゃんから俺がトイレで驚いた話を聞いている。
今はすっかり立ち直ったコトミちゃん、彼女の過去を考えれば彼女を癒す為にも、俺は今のバカ話できる先輩でいないとな。
そんなこんなで遺跡探索は順調に進み、俺達は最奥の宝物庫、若しくは祈祷室と思われる部屋の前に来た。
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