第185話 康太は冒険者になる:その34「遺跡攻略9:クロエさんとサーチさん」
「そのうち、兄『将』から私宛に命令が来たのです。『騎』お兄様を倒したチエお姉様を探索しろ、そして見つけたら報告、出来たら抹殺しろって」
サーチさんは、そう話す。
あ、「騎」は滅びる前に向こうに情報を流していたんだ。
これは注意しないと、更に悪魔族が地球に送られるかもしれない。
確か「将」はリタちゃんのお父様の敵、そしてリタちゃんの母星を支配する俺達の敵だ。
「私にとっては渡りに船、即その命令に従いました。お姉様に会える。うまくすればお話も出来る。どうしたら、そこまで強くなれるのか、同族を裏切ってまで守りたいものがあるのはどういう意味なのか、本来悪魔の間では決して思わない感情が私の中で渦巻きました」
ほう、この子(?)もデーモンの中では異端な訳ね。
「そんな感情を抱いたまま、地球にワープしたんですが、それが悪かったの。通常空間に出る際に、半分くらい超空間に身体が残っちゃって私、消滅寸前になって地球にたどり着きました。その上、超高速で大気圏内に現れたので、流星になってしまったの」
「なるほど、精神状態が影響を与えたんじゃな。半分精神生命体であるワシらならそういう事故も起こりえるのじゃ」
チエちゃんは、納得した様子。
因みに流星が燃えるのは、大気との摩擦ではなくて、隕石前方の空気を断熱圧縮したから。
空気をぎゅっと圧縮したら熱を外側から与えなくても、ものすごく熱くなる。
確かディーゼルエンジンにはプラグが無くて、この圧縮で点火しているとか。
「はい、その時に近くで宇宙観測をしていた、この身体の持ち主クロエに出会えたんです」
「そこからはアタクシがお話しますわ。アタクシはChloe Riddellと申します」
クロエさんに切り替わったであろう瞬間から、表情が全く変わる。
今までのどこか幼い雰囲気が、キリっとした妙齢のお姉様に。
「ちょうど今から2ヶ月程前になりますの。マウナケアのケック天文台で宇宙大規模構造観測に参加していたところ、妙な火球らしいものが発生して近くに落ちましたの」
ハワイ島、マウナ・ケア山には複数の天文台があるそうだ。
確か、日本も天文台(すばる望遠鏡)を置かせてもらっているとマサトから聞いた事がある。
宇宙の大規模構造とやらもマサトに聞いた事があるけど、なんでも宇宙には物質の存在にムラがあって、星々が集まる壁(銀河フィラメント)と何も無い空間(超空洞)があって、まるで泡が沢山集まったような形をしているんだそうな。
あと、火球というのは、流れ星の内地上まで到達する、もしくは到達しそうな隕石が燃える様子を意味するんだって。
「妙って言うのは、それまで軌道上に無かったはずのものがいきなり成層圏上層部に現れたから。まるでいきなり地球にワープでもしてきたかのように」
あきれた顔のクロエさん。
「チームで行ったのだけど、誰も落下地点で何も見つけられなかったわ。海にでも落ちたのかもという事で、帰ろうとしていた時にアタクシは見つけたの。黒焦げになった小さなマスコット人形を」
「なるほど、少しでも身を守り維持するために、形状を小型変化、余剰質量をアブレータ(焼ける事で本体を守る耐熱材)にしたのじゃな」
チエちゃんがクロエさんに聞く。
「おそらくは。どうも無意識で行ったらしく、その後サーちゃんに聞いても満足に答えてくれませんでした」
あら、ちゃん付けで呼んでいるんだ。
しかし、クロエ女史日本語が上手いな。
「ほう、ちゃん付けで我が妹を呼んでくれているとは嬉しいのじゃ。ぜひワシもちゃん付けで呼んで欲しいのじゃ!」
「イヤです! なんで何も知らない子をちゃん付けでアタクシが呼ばなきゃならないんですか?」
「うみゅう、いけずぅ」
チエちゃんがクロエさんと漫才している。
まったく困ったもんだ。
「で、そこでリドルさんがサーチさんを助けたんですね」
俺は話を進めるようにクロエさんを促す。
「はい、助けて欲しいとの声が聞こえて、その人形を拾い上げると人形は私の中に溶け込んでいきました。後は、サーちゃんから直接話を聞いて、別に悪い事しないし、助けてもくれていますので同居していますの」
「そうか。リドル殿。我が妹を助けてくれてありがとうなのじゃ。この礼はいずれ何らかの形で返すのじゃ!」
チエちゃんは、クロエさんに丁寧に頭を下げた。
「ふん、サーちゃんが言っていた素晴らしいお姉様が、こんなチビとはねぇ。まあ、感謝の言葉は受け取っておきますわ。話が終わったら、早く返してくれませんこと? アタクシ仕事が多いの。え、サーちゃん、もっとお姉さんと話したいの? アタクシ忙しいのに」
どうやらサーチさんは、もっとチエちゃんと話したいらしい。
「サーちゃん、もしかして念話が出来ぬのか? リドル殿とはマルチタスクできぬのか?」
チエちゃんが聞くと、
〝あ! 忘れてたの、チエお姉様。私の事サーちゃんって呼んでくれてありがとう〟
という念話が聞こえた。
サーチさん、どうやら念話の事をすっかり忘れていたらしい。
「うむ、脳の容量減らしたのが原因かのぉ。えらく幼い感じなのじゃ」
チエちゃんは困ったような顔をする。
「そういう貴方こそ、小学生くらいに見えますわよ」
クロエさんはジト目でチエちゃんを見る。
「これは、エネルギー節約と美味しいものを味わう為の身体じゃ。本体はちゃんとあるのじゃ!!」
そう言って悪魔形態に変身したチエちゃん。
「あら、ステキじゃないの!」
一瞬ほうという表情で美人悪魔のチエちゃんを見上げるクロエさん。
しかし、次の瞬間、「あ!」と叫び、ぶんぶんと首を振ってお堅い表情に戻る。
「とにかく、アタクシを早く仕事に戻してくださいまし!」
「はいはい、なのじゃ」
このクロエさん、悪い人じゃないけど、少々面倒な性格だね。
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