第184話 康太は冒険者になる:その33「遺跡攻略8:サーチさん登場!」
「真由子君、お疲れ様でした。そちらの話し合いは終わったのかい?」
吉井教授が、俺達実戦部隊を迎えてくれる。
「はい、と言いますが、実質的な話は私が暴れていた間にコウちゃんが纏めてくれました」
マユ姉ぇは、恥かしそうな顔で教授に説明する。
そりゃ、自分は話に参加もせずに海兵隊員をバッタバッタと宙に回せていました、とは言い辛いよね。
「なるほど、私も康太君の意見に賛同だ。ここは共同研究という事にした方がいいだろう。金子先生、どうです?」
「私もそれでかまいません。というか、それはありがたい話です。米軍の方に守ってもらえて、その上アメリカの研究者と合同研究だなんて夢のようです」
先生方が好印象なら大丈夫かな。
「さて、問題はアメリカの研究者達じゃな。ダダ捏ねねばいいのじゃが」
チエちゃんがそう言ったときに、女性の声、それも日本語が聞こえる。
「あら、貴方の様なお子チャマじゃあるまいし、アタクシ達の中にそんな度量の狭い研究者なんて居ないわ……、え! どうしたのサーちゃん、え、代われって? はい、どうぞ。貴方、いえ貴方様は……」
アラサーに見える女性研究者が現れて、チエちゃんに文句を態々日本語で言ったかと思うと、彼女はチエちゃんの顔、いやオーラを見て驚愕している。
彼女、茶色と金色の間、ダークブロンドの長髪ワンレン、イギリス系っぽい細身のメガネ女子で白いシャツにタイトスカート、いかにも賢い美人研究員といった風貌だ。
まあ、胸はシャツを押し出すくらいあるし、ウエストがしっかり締まっているから、スタイルは凄く良い。
その彼女が口を大きく開けて、今にも顎を外しそうな賢い美人にあるまじき表情をしている。
それに何か二重人格的な会話だぞ、今の。
「なんじゃ、お主? ワシの顔に何かついておるのじゃ? って、おい! まさかお主、ワシと同族、いや同種なのか?」
チエちゃんは、急にその場から後退して戦闘準備をしだす。
同族同種って?
え、彼女が魔神将なの!
俺も急いで戦闘準備をする。
しかし、ここで戦闘になったらどれだけ巻き添えが出るか分からない。
どうしたら良いんだ?
「あ、お姉様。私には、お姉様達を襲う気はありませんから、ご安心下さい。『知』お姉さまですよね。私は、貴方からすれば末の妹、『調」と申します。私はお姉様が出立なされてから生まれましたので、お姉様がご存じなくてもしょうがありません。まずは、私、それとこの身体の子の話を聞いてください」
彼女、サーチさんは両手を広げて敵意が無い事を示す。
それに「身体の子」という事は、完全に乗っ取っていない、それどころかさっきの会話だと友好的に同居している様に聞こえる。
「チエちゃん、この子大丈夫よ。そう睨まなくても大丈夫。そうよね。サーチさん?」
「はい、決して皆様には何も致しませんから」
マユ姉ぇは、ほんわかモードのまま。
一番敵意に敏感だろうマユ姉ぇが、いつも通り。
「そうだね、ボクもお母さんと同意見。このお姉さん、オーラが二重になっているから、嘘は言っていないよ」
「ええ、アタシも信用しても良いと思います」
ウチの悪意発見レーダー2人も危険が無い事を示しているのなら、大丈夫だろう。
「チエちゃん、ここは話を聞こうよ。ナンにせよ、ここで戦っちゃったら米軍の方々に犠牲者出ちゃうし」
俺は、チエちゃんに停戦を促す。
「うむ、そうじゃな。今の話からするとお主、サーチとやらは身体の女性と共存しておるようじゃな。なら、話を聞く価値はありそうじゃ。よし、一旦別の場所で話すのじゃ。お主も米軍の人に聞かれたくは無いじゃろうし」
「はい、私の都合も考えていただき、ありがとうございます」
チエちゃんは警戒を解き、いつもの偉そうな態度をする。
ソレに対してサーチさんは、ぺこりと頭を下げた。
しかし、随分と雰囲気が柔らかい悪魔だこと。
朧サンが、丁重な黒執事なのは産みの親のチエちゃんの影響なんだろうけど、「騎」は凶悪だったよね。
◆ ◇ ◆ ◇
「特別な場を設けて頂き、ありがとうございます」
サーチさんは、再び頭を俺達に下げる。
この場所は、チエちゃんが作った別位相空間。
ここでなら何を話しても外に漏れない。
なお、この場所には俺、マユ姉ぇ、ナナ、リタちゃん、チエちゃんが居る。
カレンさん、シンミョウさん、アヤメさん、コトミちゃんは引き続き金子先生達の警護、今アメリカの研究者達と色々と取り決めをしているところだ。
多分喜々としてコトミちゃんが「商談」を纏めていることであろう。
そして、タクト君は暴れたカズミさんを妹のマヤちゃんと一緒にお説教しているところだ。
しかし、「アノ」タクト君がお姉さんに説教とは成長したものだよ。
兄貴として嬉しい事だ。
「さて、お主に聞きたい事は沢山あるのじゃが、まず聞きたいのは、何故ワシを襲わぬのじゃ? おそらく父君からワシの抹殺命令がでておるのじゃろ?」
チエちゃんは自分で作った高い椅子の上に座って、目の前に座るサーチさんを睨む。
「それには、色々な事情がありまして。まず私個人としてはノジッリお姉様の事をお聞きしてずっと以前から尊敬していました」
サーチさん、見た目の年齢に相応しくない、夢見る少女風な幼い表情をする。
もしかしてサーチさんは大分若い、いや幼いのか?
「サーチとやら、一体ワシの何を聞いたのじゃ? それとな、ワシは『知』という名は好かんのじゃ。ワシの事はチエと呼ぶのじゃ」
チエちゃんは、昔の呼び名を嫌う。
多分、色んな事があったんだろうね。
「はい、チエお姉様。私が聞いたのは、現地少女を守る為に同族を裏切って単独戦い勝利を得、最後に少女の腕の中で亡くなったと言う美しくも悲しい物語でした」
サーチさんは、うっとりとした顔でチエちゃんを見ながら話す。
チエちゃんの過去の話、それは俺達も聞いて涙したものだ。
「ああ、あれか。ほう、向こうでは娘の腕の中で亡くなった事になっておるのか。よし、ドラマチックに伝わっておるのじゃ。よしよし!」
「そうだよね、ボクも泣いちゃったもん」
「ちえねえちゃん、ひろいん!」
「あらあら、チエちゃん。良かったわね」
なんか機嫌良さそうなチエちゃん。
最近もドラマや映画、アニメと片っ端から見ては感動しているチエちゃん。
自分が物語の主人公になれたのが嬉しいに違いない。
それを喜ぶ妹達にマユ姉ぇ。
「はい、その気高きお姉様の事を知って私感動しました。私、魔神将としては最低ランク。味噌っかすで、兄や姉達から疎まれていました。女性であまり強くないのに、目的を果たしたチエお姉様のようになってみたい、私はいつもそう思っていました。そのうち、兄『将』から私宛に命令が来たのです。『騎』お兄様を倒したチエお姉様を探索しろ、そして見つけたら報告、出来たら抹殺しろって」
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