第181話 康太は冒険者になる:その30「遺跡攻略5:海兵隊、翻弄される!」
「このままでは全滅だ! なんとかして隙を作らねば」
騎士団調査部隊長は焦る。
敵は凄腕の兵士、おそらく軍の特殊部隊。
自分達のような中途半端な術者では時間稼ぎがやっと。
なんとか怪我人を後方へ下がらせる事には成功したものの、制圧射撃を万遍欠く行う敵に対して逃げる隙が全くないのだ。
「どうしたら、この窮地を逃れられるのか? ああ、神よ!」
部隊長は、思わず神に祈る。
「うむう。ワシは神じゃなくて悪魔なんじゃが、助けはいらんかのぉ」
部隊長は、眼を白黒した。
さっきまで居なかったはずの東欧系幼女が、目の前に忽然と現れたからだ。
「お、お、オマエは誰だ!」
「あまりにステレオタイプの反応じゃな。まあ良いわ。ワシはお主達教団と先日戦ったものじゃ。ショゴスを殲滅したモノと言えば分かるかのぉ」
目の前の幼女は、トンでもない事を言う。
しかし、幼女を取り巻く魔力オーラーは、それが可能なほどにとてつもない値を示している。
「お、おまえが、あのバケモノ女か!」
「うみゅぅ、せっかく可愛い幼女姿なのに、バケモノ呼ばわりとは困ったモノじゃ。まー、ショゴス退治を見てしもうたのなら、しょうがないのじゃ! さあ、お主達早う撤退するのじゃ! 後は、ワシらが何とかするのじゃ!」
部隊長は、幼女が言う事が理解できなかった。
まず幼女の魔力量が、自分はおろか師範代理をも遥かに超えている事に。
そして、敵対していたはずの幼女が自分達を救おうとしている事に。
「What?」
そして幼女は語る。
「ワシらは……」
◆ ◇ ◆ ◇
「What?」
海兵隊中隊長も同じ疑問の言葉を呟く。
びゅーん!
空を舞う沢山の漏斗。
それは光の尾を引きながら口が狭い方を前にして高速で移動し、時々狭い口が光る。
そしてその光はビームとなり、海兵隊員の持つアサルトライフルを狙う。
「Ouch!」
ビームを受けた海兵隊員は痛みと痺れを感じ、ライフルを落としてしまう。
「これは一体なんだ!」
中隊長は、叫びながら宙を舞う漏斗を見上げる。
「Shitt!」
中隊長は、腰からSIG P320を抜いて、ファンネルを狙う。
「Oh!」
しかし、横から飛んできた別のものによって拳銃は手から叩き落される。
「What?」
中隊長の眼には、自分の拳銃を叩き落したものが、小さなナイフに見えた。
そのナイフは、ファンネル同様沢山空中を飛び交い、海兵隊員を襲う。
それは、なぜか刃の方ではなくて柄の方でぶつかってくるのだが。
「ひゃぁぁ!」
中隊長は声の方向を見た。
すると屈強な兵士が、その筋肉美溢れる肉体を見せていた。
というか、戦闘服がなくなっていた。
「ん?」
裸になった兵士の足元を見ると、元戦闘服であっただろうバラバラになった布切れが散らばっている。
「うわぁぁ」
また声の方を見ると、海兵隊員が何かに襲われていた。
ナイフ以上のスピードで飛び交うものが兵士を数回撫でたかと思うと、彼は全裸になった。
「あれは、ハサミ?」
薄暗い遺跡都市、見難い環境だが飛んでいるものが、中隊長にもやっと分かった。
それはハサミ、それも自分達がよく使う形ではない。
中隊長が沖縄勤務時代に、古い家屋の片付け手伝いに行った際に見た、日本のハサミだ。
「くそう!」
ある兵士がパニックを起こして、飛んでいるモノに向けて乱射をする。
「やめろ、兆弾がおこるぞ!」
案の定、ライフル弾が石作りの建物に兆弾をして、発射した兵士を襲う。
きーん!
しかし、その弾は兵士を襲う事は無かった。
弾は、兵士の目の前に浮かんでいたタイルによって防がれていたのだ。
どーん!
そのタイルは一瞬空中停止したかと思うと、パニック状態の兵士の鳩尾に体当たりをした。
「きゅぅぅ」
パニックした兵士が気絶したのを見届けたタイルは再び別のターゲットを探しに飛び上がる。
「これは一体何が起こっているのだ? オレ達は一体何と戦っているんだ?」
数箇所で小さな爆発が起こる。
爆発の度にピンク色の煙が発生し、その煙の中から出てきた兵士が倒れていく。
ただ、苦痛を訴えるのではなく気持ち良さそうに気絶しているのが不思議だ。
「え?」
中隊長は、自分の目の前に浮かぶ望遠鏡に気が付いた。
「これは???」
アンティークな雰囲気の望遠鏡は、ぷかぷかと浮かびながら周囲を見回っている。
「なんだ、一体なんなんだぁぁ!!」
「さて、もう残るは隊長のお主だけじゃな」
叫んだ中隊長は、この場に相応しくない声に気が付く。
その声の元を見ると、そこには東欧系の10歳にも満たない風な黒髪の幼女が居た。
◆ ◇ ◆ ◇
「さて、もう残るは隊長のお主だけじゃな」
驚愕をする隊長らしい兵士を前に現れるチエちゃん。
「ふぅぅ。これでお終い! ねえ、コウ兄ぃ、ボク凄かったでしょ。誰も怪我させずに無力化したよ!」
「先輩、私も褒めて褒めて! 兆弾から兵士助けてあげたんだモン」
チエちゃんの作った次元気泡の中から九十九神を操って海兵隊特殊部隊を手玉に取るどころか壊滅させたナナとコトミちゃん。
確かに俺達が騎士団にやったような無音戦闘は難しいかもしれないけど、敵を傷つけずに完全無力化なんて、ものすごい。
「ナナ、凄いわ。これで修行も次の段階へ行けるわ」
俺はナナとコトミちゃんの頭をナデナデしながら、マユ姉ぇの怖い言葉を聞く。
ぜってーもっとスゴイ事やるんだろう。
ああ、俺のパワーアップ計画も考えなきゃ。
「あ、コウちゃんも凄かったから次のステップね。うふふ、アレが使えそう」
前言撤回、俺自分の命の心配しなきゃ。
絶対スゴイ目に合うんだ、俺。
そうこうしている内に、チエちゃんは隊長を説得に入った。
「さて、ここで提案じゃ。もう戦闘中止にせぬか? これ以上の戦闘はお互いの為にもならん。まずは話し合わんか?」
「一体、キミは何者なんだ? オレ達は何と戦ったんだ?」
それを聞き、チエちゃんは最近お好みの答えを言う。
「ワシらは『お人好しでお節介焼きの冒険者』なのじゃ!」
そしてそれと同時に、高さ5mはある炎の壁がチエちゃんの後方に発生した。
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